( 302408 )  2025/06/26 05:14:05  
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沖縄国際大の非常勤講師である川満彰氏は、沖縄戦の政治や行政による歴史修正が相次いでいることに懸念を示している。

沖縄戦当時、県知事や行政が戦争にどう加担したかを研究しており、沖縄県知事の行動によって多くの住民が犠牲になったことを指摘している。

彼は、日本政府や行政が戦争責任を反省し、歴史への正確な向き合い方が必要だと語っている。

また、政治や行政が戦争への危機感を煽る姿勢についても批判しており、独自の外交を重視し、戦争を避ける努力をする必要があると述べている。

(要約)

( 302410 )  2025/06/26 05:14:05  
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インタビューに応じる沖縄国際大の川満彰・非常勤講師=5月28日、沖縄県糸満市 

 

米軍が旧日本軍司令部のある沖縄・首里周辺に浴びせた砲撃の跡=1945年6月、米陸軍第10軍戦術航空隊撮影(ACME) 

 

沖縄で米軍によって拘束され、道路わきに座り込む住民=1945年4月(ACME) 

 

沖縄県糸満市の「ひめゆりの塔」=5月6日 

 

国会内で記者会見し、ひめゆりの塔の展示説明を巡る発言を撤回した自民党の西田昌司参院議員=5月9日 

 

自民党の西田昌司参院議員の発言への抗議決議を可決した沖縄県議会の本会議=5月16日 

 

先の大戦の検証を中止するよう、林官房長官(中央)に要請書を手渡す自民党の保守グループの議員ら=5月7日、国会 

 

石垣駐屯地へ移動する陸上自衛隊の車両に向かい抗議する人=2023年3月、沖縄県石垣市 

 

沖縄国際大の川満彰・非常勤講師=5月28日、沖縄県糸満市 

 

 旧日本軍による持久戦で住民被害が拡大した沖縄戦を巡り、政治や行政による歴史修正と取れる動きが相次いでいる。今年5月には自民党の西田昌司・参院議員が、戦場に動員された学徒を弔う「ひめゆりの塔」の展示説明について「『日本軍は悪、アメリカ軍は善』という東京裁判史観そのものだ」と主張した。台湾有事への懸念が深まる中で、なぜ日本軍の残虐行為や責任を矮小化するような試みが続くのか。沖縄戦当時、県知事ら行政が戦争にどう加担したかを研究する沖縄国際大の川満彰・非常勤講師に考えを聞いた。(共同通信=新里環) 

 

 ▽「島守」の実態 

 

 ―沖縄戦を巡る行政の責任とは。 

 

 「戦前は、天皇を頂点として軍と官が対等な関係にあり、その下に民がいた。戦争責任は、何でもかんでも全て軍にあるわけではない。当時の県知事は、選挙で選出されたのではなく、旧内務省から任命された官製の知事だった。国が決定したことを地方の末端まで指導する役割を担っていた」 

 「沖縄戦当時の沖縄県知事・島田叡氏は、日本陸軍第32軍が地上戦をスムーズにできるようにした。持久戦の邪魔となる住民を移動させるため、県北部への疎開を進めた。第32軍の兵不足を補うため、学徒隊『鉄血勤皇隊』などの編成を承諾し、自ら独創的に若者らで構成する『義勇隊』をつくった。住民が兵士となり、戦争に巻き込まれた」 

 

 「第32軍が行った持久戦の考えは、沖縄は『(国体護持のための)捨て石』で、兵士だけでなく住民にも玉砕を求めた。島田氏もそれを住民に押し付けた。軍と同様に、住民がアメリカ軍の捕虜となる事を許さず、住民の保護以上に警察を使った住民監視を強化した」 

 

 「北部に疎開した人々は、食料不足による餓死やマラリアで多くが犠牲となった。中南部でも住民が防衛召集され、多くの人が死に追いやられた。本来、住民はアメリカ軍に保護されていれば命は助かった」 

 

 「なぜ沖縄で住民の4人に1人が亡くなったのか分析すると、島田氏ら行政の戦争責任は非常に大きいことが分かる。島田氏が沖縄県民の命を守ろうとし『命どぅ宝(命こそ宝)』と叫んだかのように美化した映画『島守の塔』が2022年に公開され、沖縄のメディアもその論調に一時流された。これまでの沖縄戦研究は、行政への責任追及が弱かったと反省している」 

 

 ▽戦争への道 

 

 ―戦後80年がたち、台湾有事の懸念が高まっている。政治と行政の責任を問う意義とは。 

 

 「現在に転じて見ると、政治や行政が自衛隊以上に、台湾有事や北朝鮮の核・ミサイル開発への危機感をあおっている」 

 

 「西田議員は今年5月3日のシンポジウムで、『ひめゆり学徒隊』を慰霊するひめゆりの塔の展示説明について『歴史の書き換え』『沖縄の場合、地上戦の解釈を含めてかなりむちゃくちゃな教育のされ方をしている』と発言した。沖縄からの反発を受け『歴史の書き換え』との発言を9日に撤回したが、30日発売の月刊誌『正論』への寄稿で自身の発言について『事実は事実』と改めて正当性を強調した。先の大戦での政治や行政の戦争責任を振り返らず、持論ばかり展開する無責任な言動だ」 

 

 

 「沖縄でも、石垣市の中山義隆市長が5月中旬の記者懇談会で『(集団自決は)全て日本軍が強いたものではない』『自分から死にたいから手りゅう弾をくださいと言った人もいるだろう』と述べた。だが、捕虜になるなと指示し、アメリカ軍への恐怖心をあおって自決に仕向けたのは軍と行政だった。政治家の不勉強が、政治の貧困として現れている」 

 

 「沖縄戦での『集団自決』を巡っては、文部科学省が2007年3月、高校教科書の検定で軍の強制があったとする記述の修正を求める検定意見を公表。今年4月22日には中谷元・防衛相が記者会見で、沖縄戦を指揮した第32軍の牛島満司令官の『辞世の句』を陸上自衛隊第15旅団(那覇市)がホームページに掲載していることについて『戦争の惨禍を二度と繰り返してはならない。平和への願いだ』と説明した。これらは、先の大戦、そして軍隊の正当化が目的だろう」 

 

 「政府が『自衛隊は国を守る』と言うとき、住民の犠牲には触れない。現在のロシアによるウクライナ侵攻や、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を見ても、戦争では住民が常に巻き込まれている。沖縄では『軍は住民を守らない』という沖縄戦で得た教訓があるが、日本本土では平和教育が不足しているため、その認識が薄い。政治の貧困と社会の貧困は一体だ。いずれ、西田氏のような議員が、当たり前のように現れてくるだろう」 

 

 「戦争は軍だけではできず、官と民が一緒になって正当化しなければできない。戦前は国民が戦争を支持した。メディアの役割は、『戦争は絶対にしてはいけない』という認識を国民に持たせ続けることにある。政府が台湾有事をあおっているが、国民も『戦争は仕方がない』と思うようになれば、日本は再び一気に戦争への道を突き進むだろう」 

 

 ―国民にも責任があったのか。 

 

 「1898年に施行された明治民法が定めた家制度は、天皇を頂点とする国家体制に末端の国民を組み込む目的があった。家長である父親や、区長、各集落に結成された隣組などが戦争の遂行に加担した。隣組は、戦争に批判的な住民を警察に密告する役割があった。国家が戦争を正当化し、国民も正義心から戦争に加勢した」 

 

 ▽独自の外交を 

 

 ―戦後80年を節目に石破茂首相が先の大戦について検証しようとすると、自民党の保守グループから「戦争検証は中国や韓国に対してわが国を非難する口実を再び与える可能性が高い」との懸念が出て、中止の申し入れがあった。 

 

 

 「台湾有事に備え、九州・沖縄の防衛力を高める『南西シフト』が進む中、沖縄の新聞の読者投稿欄では、戦争への準備よりも外交により力を入れるべきとの指摘が相次いでいる。日本の外交を振り返ると、日英同盟に始まり日独伊三国同盟、そして現在の日米同盟と、その時々の強国と軍事同盟を組んできた。その一方で、大東亜戦争という名の下で犠牲となった国々への侵略行為を、きちんと清算してこなかった」 

 「戦争の検証に対し、中国や韓国に弱みを握られるという反応の仕方は表層的で、これでは外交が成り立たない。歴史の上に立ち、自らの責任と向き合うことで真に対等な付き合いができる。何でもかんでもアメリカに従うのではなく、独自の外交を築く必要がある」 

 

 「日本は1972年に中国と国交を正常化したことに伴い、台湾と断交した。それ以降、台湾は中国の内政問題になったはずだが、今になって政府は、『台湾有事は日本有事』と言いはやしている。それは、アメリカの立場に一緒に立っているからだ。独自の外交ができていれば、自衛隊の南西シフトにつながらなかったのではないか」 

 

 「もしかすると、日本政府は軍備増強をしたくてアメリカを逆に利用しているのではないかとも考えられる」 

 

 ▽危機感 

 

 ―外交や安全保障は国の専権事項で、地方自治体が口を出すことではないとの指摘がある。 

 

 「(石垣市の)中山市長などがその立場だが、それは『自分は地域の住民を守らない』という言い方と同じだ。80年前の戦時体制と同じ構図だ。住民を恐怖であおるのではなく、住民の意見や基地が置かれることへの危機感を国策に反映させる必要がある。住民の隣に基地をおいてはいけない」 

 ―戦前は治安維持法による取り締まりで、反戦市民運動が弾圧された。台湾有事への懸念が高まる中、私権を制限するような法整備が戦前と同様に進んでいるのか。 

 

 「安全保障上重要な施設の周辺や国境離島での土地利用を規制する、土地利用規制法が問題だ。重要施設は自衛隊や米軍施設、空港、原発が対象。指定されると政府が土地所有者の氏名や国籍などを調査し、施設機能への妨害行為には中止勧告、命令を出すことができる」 

 「恣意的に運用される懸念や、一度法整備がなされれば、その適用範囲が拡大される恐れがある。国民の関心が薄いうちに抑圧が強化され、気付いた時には、にっちもさっちもいかない状況になりかねない」 

 

 

 ―自衛隊は発足当初、旧日本軍への国民の反発が強かったことから「国民に信頼され愛される自衛隊」を目指してきた。自衛隊は住民を守る組織になっているか。 

 

 「なっていない。住民のいるところに基地を造ると、戦時に住民が巻き込まれることは分かりきっている。戦前と同じ状況になっている。自衛隊が災害時に活躍していることはありがたいが、反撃能力(敵基地攻撃能力)が専守防衛を逸脱し、先制攻撃に使用されるようなことが万が一あれば、本末転倒になる」 

 × × 

 

 川満彰(かわみつ・あきら) 1960年生まれ。沖縄国際大非常勤講師。平和思想が専門。著書に「陸軍中野学校と沖縄戦」「沖縄戦の子どもたち」(いずれも吉川弘文館)、共著に「沖縄県知事 島田叡と沖縄戦」(沖縄タイムス社)など。 

 

 

 
 

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