( 303583 ) 2025/06/30 06:00:36 1 00 2023年、中国は約491万台の自動車を輸出し、輸出口数で日本を抜いて世界一となった。 |
( 303585 ) 2025/06/30 06:00:36 0 00 BYDのフラッグシップモデル、Han(漢)L。上海モーターショーにて。 - 筆者撮影
2023年に中国の自動車輸出台数が日本を抜いて世界一となった。中国は日本との差をさらに広げていく構えだ。国内外の自動車業界の事情に詳しいマーケティング/ブランディングコンサルタントの山崎明さんは「中国といえばBEVというのは一面的な見方でしかない。世界における中国製ICE車の存在感は無視できないレベルになり、従来日本の牙城ともいえる地域に浸透している」という――。
■今や中国が自動車輸出台数世界一
2023年、中国の自動車輸出台数が約491万台と日本(約442万台)を超えて世界一となった。
2024年もさらに増加し、約586万台となっており、約421万台と前年割れだった日本との差を大きく広げている。2025年もさらに増加する見込みである。
中国製の自動車というと、電気自動車(BEV)の急成長が話題になっており、EUやアメリカが高関税をかけたりして対抗措置を取っていることが報じられている。にもかかわらず輸出台数世界一を続けているのだ。
いったいこれはどういうことなのか。
■中国で生産されたBEVの大部分は国内で売られている
確かに中国のBEV生産量は圧倒的で、世界のBEVのうち7割以上が中国で生産され、64%が中国国内で販売されている。つまり中国で生産されたBEVの大部分は中国で売られているわけだ。
これは中国が国策でBEVの生産に補助金を出し、ユーザーにも半ば強制的にBEVを買わせるような施策をとっているからだ。
たとえば北京市での車購入は抽選制だが、内燃機関(ICE:ガソリンとディーゼル)車の割り当て台数は新エネルギー車(NEV:BEV/PHEV/燃料電池車)より大幅に少なく設定されている。
従って中国内でのBEV開発競争は激しくその進化は早い。そのためトヨタやマツダなど日系メーカーも中国の提携先企業の技術を使ったBEVを中国市場では導入している。日本で開発していてはコストも高く、開発スピードも中国メーカーのペースに追いつけないからだ。
■輸出される中国製BEVは全体の17%に過ぎない
中国製BEVは輸出されているが、現状ではその数は想像されるより多くはなく、2024年のデータでは98万7000台と輸出台数全体(585万9000台)の17%を占めるに過ぎないのだ(データ:IEA Global EV Outlook 2025)。
つまり、中国から輸出されている車の83%はICE(内燃機関)を搭載していることになる。PHEVは約5%に過ぎないので、78%は純粋なICE車なのである。
しかも前年比で見るとBEVは10.4%と大幅減となっているのに対し、ICE車は23.5%も増加しているのだ。BEVが減っているのは、欧米の輸入規制の影響だろう。
視点を変えれば、中国国内のICE車市場は大きく縮小しているわけで、ICE車を生産しているメーカーは輸出にシフトせざるを得ない状況になっているともいえる。だからこそ中国車の輸出は増え、その主力はICE車、というわけだ。
■中国製ICE車はロシア一国で73万5000台も
中国製のICE車、日本で見たことのある人はほとんどいないであろう。しかし数字を見る限り、世界における中国製ICE車の存在感は無視できないレベルだ。
2023年の数字だが、日本のICE車の輸出台数は251万9000台、対して中国は266万台で、ICE車だけに限っても、中国は日本を上回っているのである。
日本ではまったく見かけない中国製ICE車、果たしてどこで売れているのか。一番の伸びを示しているのはロシアである。2023年、ロシア一国で73万5000台もの中国製ICE車が売られているのだ。
ロシアはウクライナ侵攻の影響で日欧韓メーカーが撤収してしまい自動車不足に陥り、その大きな穴を中国車が埋めた恰好だ。ウクライナ侵攻前、日系ブランドは約15%のシェアがあったのだが、それを中国車に奪われたともいえる。
■メキシコ市場で中国車はシェア20%
ロシアに次いで多いのが、メキシコをはじめとする中南米だ。58万3000台が輸出され、そのうち32万7000台がメキシコである。
メキシコは日欧米メーカーが工場進出しており、自動車生産・輸出大国である。しかし生産されている車種は主として北米市場向けの車種であり、メキシコの一般庶民の需要をすべて満たしているわけではない。低価格車ニーズを中国製の安価な小型車が満たしているというわけだ。
メキシコ市場は年約150万台なので、中国車は20%ほどのシェアを持っていることになる。メキシコでは現地生産を行っている日系ブランドが強く約4割を占めるが、それに続く大きな勢力となっているのだ。
驚くべきは中国車の半分はGMブランドであることだ。GMと上海汽車と広西汽車集団3社の合弁会社である上汽通用五菱汽車で生産しているモデルを、メキシコでシボレーブランドとして販売しているのだ。ちなみに上汽通用五菱汽車は一時話題となった45万円のEV、宏光ミニEVを生産している会社である。
■サウジアラビア市場ではトヨタ34%、中国勢15%
続いて台数の多い地域は中近東である。中近東での中国製ICE車の販売は2023年で39万8000台、日本製の32万2000台を大きく凌いでいる。
日系メーカーはアジア諸国で生産したモデルの販売も多いので、トヨタは依然としてサウジアラビア市場の34%のシェアを持ち、トップブランドである。しかし中国勢は合計すると15%あまりのシェアになるため侮れない存在に成長している。
中近東での主な輸出先はサウジアラビアとアラブ首長国連邦である。アラブ首長国連邦は高級車だらけというイメージがあるが、外国人労働者も多いため低価格車の需要も大きいと考えられる。
■BEVだけではない
中国との関係を深めているアフリカ諸国でも中国車は急速に台数を増やしている。政治的・経済的な関係だけでなく、低価格車が求められる市場なので当然の成り行きともいえる。
発展途上地域での中国車の存在感は相当上がっているのだ。
このような地域は本来日系ブランドの強い地域が多く、BEVだけでなくICE車も中国勢の動きには要注意なのである。中国メーカーはガソリンエンジンの開発にも力を入れており、奇瑞汽車やBYDはトヨタや日産の最新エンジンに迫る熱効率のエンジンを開発できている。
■日本に肉薄するハイブリッド技術
また、BYDは高効率エンジンだけでなく、日本車にかなり近いレベルのハイブリッド技術も発表済みだ。高効率エンジンと新世代ハイブリッド技術の組み合わせで、最新のモデルはデータを信じれば34.48km/L(充電ゼロのハイブリッドモードでの燃費)という低燃費とワンタンクで2100kmという航続距離を実現するという。
中国と日本では燃費の測定基準が違うので横並びに比較することはできないが、この燃費性能を実現しているのはボディサイズがかなり大きいSEAL(全長4800mm)である。
仮に日中の基準に20%の違いがあると仮定しても27.6km/Lとなるため、プリウスよりはやや劣るものの、シビックハイブリッドよりは燃費がいいことになる。しかもこれは約90kmのEV走行が可能な重いバッテリーを搭載したPHEVなのだ(プリウスもPHEVモデルは26km/Lにとどまる)。
欧米メーカーが高性能ハイブリッドの開発に苦戦している中、この性能が本当なら先進国でも高い競争力を持つだろう。中国でも最近ではBEVよりPHEVの伸びの方が大きいので、他の中国メーカーも当然これに追従したハイブリッド技術を開発するはずだ。
■「マルチパスウェイ」はトヨタの専売特許ではなかった……
現在の市場トレンドを見ると、BEVの市場はこれからも徐々には伸びていくだろうが、しばらくの間はICEを搭載したPHEVとハイブリッドが主流の時代が続くと考えられるので、高性能で低価格な高効率エンジンとハイブリッド技術には大きなポテンシャルがある。
今後中国から輸出される車は、BEVよりもPHEVやハイブリッドが主力となると考えた方がよいだろう。BYDは2025年末までに日本市場にPHEVを導入すると発表しており、今後は日本市場でもBYDの主力はPHEVとなるはずだ。
中国車はBEVのみならずトヨタが主張する「マルチパスウェイ」においてもものすごいスピードでレベルアップしているのだ。「マルチパスウェイ」にいち早く取り組んでいる日系メーカーはまだハイブリッド技術や最新エンジン技術でアドバンテージはあるものの、近い将来中国車との激しい競争にさらされることになるだろう。
BEVでもハイブリッドでも苦戦している欧米メーカーは厳しい状況に追い込まれる恐れがあり、今以上に保護貿易に頼らざるを得ないかもしれない。
■危機感を募らせる日本勢の動向
さらに、今後重要度が増すといわれているSDV分野でも中国は国内の競争が激しく、それゆえ日米欧より先行しており中国メーカーの競争力は高くなっている。
トヨタは5月に発表された新型RAV4からまったく新しいトヨタ独自のソフトウエア開発プラットフォームArene(アリーン)を使って開発をしているが、4月の上海モーターショーで発表された新型BEVのbZ7にはファーウェイのハーモニーOSを採用したり、ADAS(運転支援システム)でも中国企業のモメンタと協業したりしている。
ホンダも今後のBEV開発で中国の技術を導入する(モメンタのADAS、DeepSeekのAI技術など)としている。この分野の競争・協業は日米中の企業間でかなり複雑な形で推移していくと思われる。
自動車以外に目を転じると、世界のスマートフォン市場の56%は中国ブランドで、日本ブランドの存在感はほぼない。
一時は世界的に日本ブランドの独壇場だったテレビ市場も、日本国内ですら現在中国メーカーのシェアは50%を超えているのである。
ソニーやパナソニックのテレビも生産国はマレーシアや中国だ。近い将来、自動車市場もスマートフォンやテレビと同じ状況となっても不思議ではないのである。日本の自動車メーカー各社のよりいっそうの奮起を期待したい。
---------- 山崎 明(やまざき・あきら) マーケティング/ブランディングコンサルタント 1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターと旧型BMW 118dを愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。日本自動車ジャーナリスト協会会員。 ----------
マーケティング/ブランディングコンサルタント 山崎 明
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