( 303598 )  2025/06/30 06:19:32  
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日本の東京への人口集中が進む中、経済学者の竹中平蔵氏は、東京をさらに強化し国際都市としての競争力を高める必要があると述べています。

東京は毎年約10万人増加している一方、他の地域は減少しており、東京には多くの再開発プロジェクトが進行中です。

竹中氏は、東京がイノベーションの拠点として機能し続けるためには、地方も強化されるべきだと強調しています。

さらに、東京を政府の直轄地とする提案を行い、戦略的に発展できる枠組みが必要であると主張しています。

竹中氏の見解では、地方と東京の関係はゼロサムではなく、両者が共に成長していくことが重要であると考えられています。

(要約)

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(c) Adobe Stock 

 

 東京への一極集中が進む日本。しかし経済学者の竹中平蔵氏は、「東京はさらに強くならなければいけない」と話す。東京の現状や今後東京が取るべき選択肢について、竹中氏が考える。全3回中の第2回。 

 

※本稿は竹中平蔵著「日本経済に追い風が吹く」(幻冬舎新書)から抜粋・再構成しています。 

 

 東京に風が吹いている。東京という経済拠点を、さらに強化するチャンスがあるということである。どういうことなのか説明しよう。 

 

 日本の人口は毎年約60万人のペースで減少している。一方で東京圏の人口は約10万人増えている。したがって他の地域は毎年50万人減っていることになる。「東京(圏)一極集中」といわれる現象である。 

 

 今、高層ビルの上から東京の街を眺めると、たくさんのクレーンが立ち並んでいることがわかる。これだけ多くのクレーンが立っている都市は、世界中どこを探してもない。東京では現在、約25の大型都市再開発プロジェクトが進んでいる。 

 

 例えば、日本橋や八重洲、浜松町で大規模開発が行われている。六本木、虎ノ門、赤坂、北青山と枚挙にいとまがない。渋谷では、駅周辺の道玄坂と宮益坂を歩道でつなぐ工事が進められようとしている。新宿西口では、小田急百貨店のビルの建て替えが進んでいる。 

 

 民間事業者が行った都市開発には、明確なコンセプトがある。例えば、三井不動産が開発して2007(平成19)年に開業した六本木の「東京ミッドタウン」は、もとは自衛隊基地だった。街のコンセプトは「JAPAN VALUE」。 

 

 東京が国際都市としての競争力を飛躍的に高めていくために、働・住・遊・憩が高度に融合し、世界中からさまざまな人や企業が集まり、新たな価値創造の舞台となる「経年優化の街づくり」を目指した。東京ミッドタウンのホームページにはそう記されている。 

 

 森ビルは、200を超える地権者を説得してまとまった土地をつくり、長い期間をかけて2003(平成15)年に「六本木ヒルズ」を完成させた。「文化都心」というコンセプトのもと、六本木ヒルズは、オフィスや住宅、商業施設、文化施設、ホテル、放送センターなど、さまざまな機能が複合した街になっている。 

 

 2023(令和5)年11月には、森ビルの「麻布台ヒルズ」が開業した。地権者は300を超え、30年の歳月をかけて開発を進めてきた。 

 

 麻布台ヒルズのコンセプトは、「緑に包まれ、人と人をつなぐ『広場』のような街“Modern Urban Village”」。広大な中央広場を中心に、オフィス、住宅、ホテル、インターナショナルスクール、商業施設、文化施設などの多様な都市機能が融合している。 

 

 

 実は、東京の都市再開発についての議論が政府内で本格化したのは小渕内閣のときだった。「経済戦略会議」のメンバーの一人だった森稔氏(当時森ビル社長)が、都市開発の必要性を力説した。その当時、メンバーの多くはあまりよく理解できなかった。会議で森氏が、切実に訴えた姿を今でも鮮明に覚えている。森氏の熱意を反映して、戦略会議の最終報告には都市開発の重要性が明記された。 

 

 それを受ける形で小泉内閣の2002(平成14)年、「都市再生特別措置法」が成立する。都市再生のために、容積率の緩和や補助金という新しい措置を講じることになった。2007(平成19)年には容積率日本一のビルが完成する。名古屋のミッドランドスクエアである。毎日新聞社、トヨタ自動車、トヨタ不動産が共同所有するミッドランドスクエアにトヨタ自動車の本社がある。 

 

 その後、2013(平成25)年の安倍内閣の「国家戦略特区」につながっていく。日本では、大規模な都市再開発に際しては都市計画審議会での審議が必要とされている。通常、審議には5〜7年かかった。「国家戦略特区」で、それが2年でできるようになった。その結果、潜在的な再開発計画が一気に噴き出したのである。 

 

 日本は「失われた30年」といわれる。一方で、東京は明らかに良くなった。東京の再開発が進み、都市の魅力は高まった。 

 

 一般財団法人森記念財団の都市戦略研究所は、2008(平成20)年以降、毎年、世界の48都市を対象にした「世界の都市総合力ランキング」(GPCI)を発表している。2024(令和6)年、東京は第3位だった。第1位ロンドン、第2位ニューヨーク。パリは第4位、シンガポールは第5位と続く。 

 

 訪日外国人の多くが、東京は面白いと言う。六本木、銀座、日本橋、新宿、渋谷、池袋、浅草というように、いろいろな街を楽しむことができるというのが一つの理由である。東京の魅力はますます高まる。それは地方からの「東京回帰」の一因にもなっている。 

 

 東京の一極集中が地方の疲弊を招いているという議論がある。だが、それは間違っている。東京は世界の都市と伍していくために強くならなければいけない。地方の疲弊の責任を東京に擦りつける議論は生産的ではない。地方は、地方として強くならなくてはならない。「東京か、地方か」というようなゼロサムの発想になることは、避けなければならない。 

 

 東京に対しては「集積しすぎる」という批判がある。都市に集積するのは当然のことだが、東京ほど集積している都市は世界にも稀だからである。 

 

 実は、都市には重要な機能がある。それは「イノベーションの場所」である。著名な経済学者のJ・A・シュンペーターは「イノベーション」を当初「新結合」という言葉で表現した。 

 

 都市とは、新しいさまざまな結びつきができる場所である。東京にはさまざまな人がいる。多数の企業があり、多種の情報が飛び交っている。それが東京の魅力を生み出し、イノベーションを可能にしている。 

 

 都市はまた、新しいライフスタイルを発信する場所でもある。新しいファッション、新しいビジネスなどの新しいライフスタイルを提供する場である。そういう意味での東京の魅力は大きい。 

 

 東京を便利にするということを、もっとすべきである。例えば移動に関することで、羽田空港と成田空港を統合しコンセッション(運営権の民間売却)を行う。同時に、新幹線を羽田空港に乗り入れる、などが真剣に考慮されて然るべきだ。 

 

 

竹中平蔵著「日本経済に追い風が吹く」(幻冬舎新書) 

 

 東京について、もう一つの提案をしたい。将来的に、東京を政府の直轄地にするという案である。例えば、アメリカのワシントンDC(コロンビア特別区)のようにするということである。DCは、直流という意味でも使われる。ワシントンDCの人口は約670万人、面積は177平方キロメートルである。中国でも、北京、上海など4つの都市が、政府直轄地となっている。 

 

 東京都の人口は約1400万人。2位の神奈川県(約920万人)、3位の大阪府(約880万人)よりも、圧倒的に多い。一方で、人口が最も少ない鳥取県の人口は約55万人。東京都で最も人口が多い世田谷区(約94万人)の約6割に過ぎない。 

 

 実は、47都道府県と政府の関係は、「地方自治法」で定められている。「地方自治法」とは、地方自治体で人々が安寧に暮らすことができるようにするための法律である。 

 

 ただし、東京都はあまりにも大きすぎる。そして、日本全体の戦略基地を担うという役割を持っている。東京の大きさと機能を考えると、他の46道府県と同じ一つの地方自治法の中に収めるのは、所詮無理がある。東京を直轄地にしようという提案である。 

 

 ところで、「東京」というと「東京都全体」か「東京都23区」か「山手線内」か、というような疑問が出ることが予想される。しかし、そういう議論をし出すと絶対にことは進まない。重要なのは、「東京」を戦略的にいろいろなことができるようにする発想である。細かい話は後で考えればいい。後述するが、「郵政民営化」のときと同じことである。 

 

竹中 平蔵 

 

 

 
 

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