( 306368 ) 2025/07/10 06:12:21 1 00 日本では、夫婦同姓を義務づける国は日本のみで、選択的夫婦別姓制度の導入が議論されています。 |
( 306370 ) 2025/07/10 06:12:21 0 00 世界で夫婦同姓を義務づけているのは日本のみ。改姓をめぐる夫婦の本音は?(撮影:今井康一)
「自分が嫌だと思うことを妻にさせるのは違う」
28年ぶりに国会の場で動き出した選択的夫婦別姓制度。立憲民主党と国民民主党がそれぞれ導入に向けた民法改正案、日本維新の会が通称使用を法制化する法案を提出し、国会で審議された。
法務委員会で開かれた意見陳述の場で、事実婚をしている30代の男性は冒頭のように述べ「選択的夫婦別姓が実現しなければ、私たちは結婚することができないのです。どうか1日も早く選択的夫婦別姓を実現してください」と訴えた。
しかし結局、自民党内や野党間で意見を集約できず、今国会での採決は見送られた。秋の臨時国会で継続審議される予定だ。
■回答者の「59%」が賛成
今回、東洋経済では選択的夫婦別姓についてアンケート調査を実施した。東洋経済の読者を対象としており、偏りが出ている可能性には留意しなければいけないが、5656人の回答者のうち選択的夫婦別姓の導入について59%が賛成と答えた。回答者の比率は男性79%、女性20%、回答しないが1%だった。
賛成理由で最も多かったのは「別姓の強制ではなく、同姓を名乗りたい人に不利益がない」というものだ。賛成と答えた人のうち78%が選択した。
選択的夫婦別姓が導入されても、同姓を選ぶことはできる。この点について昨年に東京地方裁判所と札幌地方裁判所で提訴された、第3次夫婦別姓訴訟で弁護団長を務める寺原真希子弁護士は「夫婦同姓が家族の一体感に資するとする国や最高裁判所は、別姓という例外を認めない理由を明らかにしていない」と指摘する。
一方、反対の理由で多かったのは「通称使用や旧姓併記を拡大すれば十分」というものだった。
日本弁護士連合会の渕上玲子会長は「選択的夫婦別姓制度ができても、戸籍制度は問題なく維持される」と指摘する。そのうえで「通称使用を法制化しても、根本的な解決にならないどころか、旧姓と新姓という2つの公称が存在することによる社会的混乱が危惧される」(渕上会長)と問題視する。
■妻に改姓を強いて後悔
家族が同じ姓を名乗ることで、家族の一体感が生まれる――。国や保守派が理想とする家族観。しかしその陰では、夫婦同姓を強制されるがゆえに翻弄され、苦悩に直面する夫婦が存在する。
「配偶者に改姓を強いたことは今でも申し訳なく感じます」。首都圏の会社で働くサイトウケンイチさん(40代男性、仮名)は、結婚した15年前を振り返り、そう漏らす。
どちらが改姓するか、プロポーズをするまで妻と話したことはなかった。「改姓について深く考えず、妻は姓にこだわらないと勝手に思い込んでいました」。
ただ、妻は生まれ持った氏名で仕事のキャリアを築き、その氏名で出した著作物もある。婚約直後は改姓を受け入れる様子だった妻も、改姓によるデメリットや名前への愛着について、徐々に言葉にするようになった。どちらが改姓するのか。2人で何度も話し合ったが、結論は出なかった。
結婚後に新しい仕事を始める予定だったケンイチさんにとって、改姓による仕事上のデメリットは多くなかった。だが周りの目は気になった。ケンイチさんは地方出身。男性であるケンイチさんが改姓したと知れば、周囲は詮索するだろう。
「将来地元に戻る可能性も考えると、“普通でない人”とレッテルを貼られるのは避けたい気持ちがありました」。事実婚は法的保護を受けられないことや、堂々と『結婚した』と言いにくいことから選択肢にはなかった。
■改姓は子どもを売りに出すような感覚
決定打となったのは父親の思いを打ち明けられたことだった。
ある日、父親は「息子が改姓するということは、お金がなくて子どもを売りに出すような感覚だ。ケンイチにそのつもりはないんだよな」と確認してきた。聞くと、実際に昔はそういうことがあったという。「衝撃を受けましたが、父の思いも理解はできました」。
父親は戸主としてイエの責任を果たしてきた。先祖から引き継いだ土地を苦労しながら守り続け、娘や孫の面倒も見ている。
ケンイチさん自身は、妻とは対等なパートナーだと考えている。明治時代に始まった夫婦同姓制度に歴史的な基礎があるとも思えない。それでも、心配する父を説得して自分が改姓する決断はできなかった。スムーズに結婚を進めるため、妻が改姓した。
「婚姻届を提出した日、妻がショックを受けている様子だったことを今でも覚えています。入籍日は2人にとって喜ばしい日ではありませんでした」
妻はその後しばらく不安定な状態だったという。改姓に対する妻の葛藤について、自分の両親には伝えられていない。「改姓させた側として、妻の両親のケアには一層気をつけないといけないと思っています」。
選択的夫婦別姓制度のアンケート調査結果を報じ、改姓をめぐる葛藤を語った40代男性の本音を取り上げた本記事の詳報版は、東洋経済オンライン有料版記事「【読者の声】選択的夫婦別姓「賛成59%」でも埋まらぬ溝…婚姻時に改姓する女性は94.5%「夫婦で話し合わず暗黙の了解」で生じた“分断”」と「【ルポ】同姓強制社会が夫婦に強いる過酷な現実…40代と70代の男性を苦しめた「家族の抵抗」、50代女性が事実婚にこだわる「嫁の役割」」でご覧いただけます。
田中 理瑛 :東洋経済 記者
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