( 306373 )  2025/07/10 06:19:29  
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2026年4月1日から施行される「自転車の青切符」により、自転車の危険運転に対する罰則が強化される。

著者はウーバー配達員としての経験から、自転車の運転マナーの悪さや交通ルールの未熟さを指摘している。

自転車は原則として車道を走行しなければならないが、街中では歩道走行を選択する人が多く、安全性への不安が増している。

特に高齢者や子供を持つ家族には危険が伴い、罰則強化に反発の声も多いが、信号無視や危険行為には取り締まりを希望する意見も存在する。

最終的には、交通ルールの周知と年齢層別の注意喚起が重要であると考えられている。

(要約)

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2026年4月1日から「自転車の青切符」が施行される(著者撮影) 

 

■自転車の「違反者」を目撃しない日がない 

 

 その日、私はウーバー配達員として自転車に乗り、一軒家が多く立ち並ぶ道を走行していた。その道は信号機がない代わりに何箇所も「一時停止」の標識があった。私は出会い頭の事故を避けるため、(当たり前だが)一時停止の標識に従って走行していた。 

 

 ところがどっこい。私の後ろを電動自転車で走っていた40代くらいの女性は、一時停止を無視して(徐行することもなく)そのまま走行。私を追い抜いていった。その人は走行速度が遅かったので、次の十字路前で私が追い付いたが、私が一時停止している間に再び追い抜いていった。 

 

 私は2020年からウーバー配達員として活動している。これまでに(出前館とあわせて)計7600回以上の配達を、すべて自転車で行ってきた。配達員として活動する際、自転車で危険運転をする人を目撃しない日がない。 

 

 両耳にイヤホンを付けた状態で走る10代の学生。スマホを操作しながら走行する20〜30代のサラリーマンやキャリアウーマン。傘を差した状態で走行する40〜50代の男女。車道を逆走してくる高齢者……。 

 

 2026年4月1日から「自転車の青切符」が施行される。傘差しやイヤホンで音楽を聴きながらの走行は5000円。信号無視や逆走、歩道通行などの通行区分違反は6000円。携帯電話を使用するなどの「ながら運転」は1万2000円……の、反則金が課せられる。 

 

 制度導入まで1年を切っている今、いったいどれだけの人が「自転車の正しいルール」を認識しているのだろうか。 

 

 「とはいえ、自分はいわば自転車を仕事道具にしているわけで、言ってしまえば“プロ”だ。安全運転には人一倍気をつけているし、新制度が導入されても問題ないだろう」 

 

 ……と思っていたのだけれど、すぐに自分の浅はかさを知ることとなった。改めて、自転車の交通ルールを勉強してみると、想像以上に細かな決まりがあったのだ。 

 

 ということで本稿では、自転車を商売道具としている立場から、今回の制度変更について考えてみたい。 

 

■自転車の正しいルール、知ってる人は少数派?  

 

 自転車は、車道を走行中は車両用信号機に、歩道を走行中は歩行者用信号機に従って通行する。ただし歩行者用信号機に「歩行者・自転車専用」の標示がある場合はこれに従うことになる。自転車も歩道を渡る実態・慣習があるとは言え、法律的には自転車は車道を走行するものという位置づけなので、「歩行者・自転車専用」の標示が、特例として存在するのだ。 

 

 

 厄介なのが、歩車分離式信号機のある交差点だ。例えば車の信号は「赤」、歩行者用の信号が「青」になっているケースでは、車道走行中の自転車はこの交差点を通行でき……ない。通行すれば信号無視になる(ただし歩道走行中の自転車は通行できる)。 

 

 これは私個人の印象論だが、この国では「歩行者用の信号=自転車の信号」だと勘違いしている人が大半なのではないか(自転車の正しいルールを認識している人は、あまり多くないような気がする)。 

 

 この原因は、おそらく幼少期に各家庭で「自転車で車道を走ったら危ない」といった教育を受け、この認識を改める教育機会が少ないこと。また、そもそも自転車の交通ルールを学ぶ機会が乏しいことが影響しているのかもしれない。 

 

 一方通行の出口に設置されていることの多い、赤丸に白色の横線が入った「車両進入禁止」の標識を想像してほしい。ここに補助標識で「自動車・原付」となっている場合、この道を自転車は走行することができるだろうか?  それともできないだろうか?  

 

 正解は……できる。なぜなら侵入禁止の対象は自動車・原付だから。言われてみれば当たり前の「答え」だが、自信満々で回答できた人はどれほどいるのだろうか。また、この質問を子供や学生にした場合はどうだろうか。 

 

 このように自転車の交通ルールは複雑だが、その中でも極め付きで「?」が生まれてしまうのが、今回の青切符導入で最も炎上した「自転車は原則として車道通行」というルールだ。 

 

■「青切符導入」と「歩道通行」は分けて考えるべき 

 

 2025年6月23日付TBSの報道によると、警察庁は前述した反則金の金額を、同年4月24日に公表。パブリックコメントを募集したところ、5900件を超える意見や問い合わせが寄せられた。そのうち4000件以上が「歩道通行」に関する意見だったそうだ。具体的には「車道を走るのが危ないので歩道を走行している」「歩道走行で反則金はおかしい」といった声が寄せられたらしい。 

 

 同年6月17日付NHKの報道によると、「自転車は原則として車道通行」とする一方、「13歳未満や70歳以上が運転する場合」や「車道の交通量が多く事故の危険性が高い場合」などは歩道も通行できること。そのうえで、「青切符」による取り締まりの対象は「悪質で危険な行為」とされていることから、猛スピードで歩道を通行し、歩行者を立ち止まらせた場合などを除き、取り締まりの対象にならないと報じている。 

 

 

 SNSの投稿には「子供を乗せたお母さんの自転車も車道を走れと?」「今度は自転車に車がはねられる事故が増えそう」「まずは自転車道を整備するべき」など、歩道通行の青切符導入に対する不安(不満)の声を多く見つけることができる。 

 

 ただし青切符導入に対して「信号無視や一時停止無視はガンガン取り締まってほしい」「スマホやイヤホンは普通に危ない」といった意見も同じように目立つ。 

 

 法律が実情に追い付いてないのか、実情に法律が追い付いてないのか……。その答えはわからないが、青切符導入で多くの人が違和感を覚えているのは「歩道通行」に関してであり、その他の罰則強化については賛成の声が多いのだとすれば、国民の声はこのような文章にまとめられるかもしれない。 

 

 〜自転車の危険運転により、不幸な事故が起きてしまうことは誰も望んでない。街を歩いているときや車を運転しているとき、マナーの悪い自転車にヒヤリとさせられたことも少なくない。青切符導入に嫌だなと思う気持ちはゼロではないが、社会を良くするため、青切符導入には賛成。だけど現実問題、自転車の車道通行には難しい部分がある。ここを切り分けて考えたうえで、国民の声を聞きながら、青切符導入を検討してほしかった……〜 

 

 制度を考案した官僚の皆さんは、忙しくて自転車に乗る暇がないのか。最終的に決定した政治家の皆さんは、運転手付きの車に乗っているから実態がわからないのか……これは私の邪推(というか皮肉)だが、いずれにせよ実態に即しているとは思えないし、青切符を切る警察官の方々も、猛烈な抗議を受けて大変そうだ。 

 

■逆に危険?  自転車の車道走行に潜むリスク 

 

 おまけに、自転車の車道通行が「(自転車ユーザーにとって)安全なのか?」という点も指摘したい。 

 

 ウーバー配達員として長年ママチャリに乗っている私は、自転車の車道通行は場所やシチュエーションによって、かなりの危険が伴うと感じている。例えば車道の端には「溝」や「段差」があるケースが少なくない。ここにタイヤの横側をすったりハマったりした結果、バランスを崩して横転しそうになったことが、過去に私は何度もあった(特に滑る雨の日に多い)。 

 

 他にも、強風に煽られて車道の白線を超えそうになったり、自動車が(わざと? )ギリギリのところを走行してきたり、後ろからクラクションを鳴らされたり……。 

 

 

 私たち配達員はこういったトラブルにある程度の「予期」と「耐性」が身に付いているが、今回の青切符導入により「車道初心者」の人たちが車道通行をするようになれば、上記のようなヒヤリハットにいつか必ず遭遇するだろう。 

 

 このとき、通常よりも自転車操作の困難な人(子供を乗せた母親や高齢者など)たちは、むしろ車道を走るほうが「逆に危険」となるのではないか。本人だけでなく、車を運転するドライバーもヒヤリとさせられる頻度が高まるなら、それこそ本末転倒である。 

 

 今回の自転車青切符の導入は何もかもを杓子定規に、すべてを一度に正そうとした結果、現場に大きな混乱が生まれているように私は感じてならない。 

 

■年齢別による重点的な注意指導は急務 

 

 またその一方で、事故率の高い年齢層へ重点的に注意指導(注意喚起)することも今後は重要になってくるだろう。内閣府が公表している「令和4年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況」によると、自転車関連の死亡重症事故件数を年齢別で見た場合、65歳以上の件数が一番多くなっている。 

 

 政府もこの点には大きな問題意識を抱いているようだ。上記資料には「自転車の安全対策では、件数が最も多い65歳以上の高齢者や、減少割合は全年齢層と比較して大きいものの、65歳以上の高齢者に次いで件数が多い19歳以下を中心に対策を講じることが望ましいものと考えられる」とハッキリと記載されている。 

 

 最後に一言。 

 

 私は、不幸な事故を減らしたい気持ちは政府も警察も市民も、みんな同じだと信じている。 

 

 この国をよくしていくために、今自分に何ができるのか……。1人でも多くの方が改めて交通ルールを見直し、安全運転を心がけるキッカケになってほしい。 

 

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佐藤 大輝 :ライター・ウーバー配達員 

 

 

 
 

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