( 306888 ) 2025/07/12 06:18:13 1 00 就職氷河期世代への支援策が政府や政党から提案されているが、実際に求められている支援と乖離が見られる。
最近、年収103万円の壁や年金改正と併せてこの世代への支援策が話題に上がっているが、提案される内容は「ハローワーク」や「サポステ」などの既存制度に頼るものが多く、効果的な支援として受け入れられていない。
多くの就職氷河期世代が求めているのは、安定した収入と仕事であり、求職市場でのポストや給与水準、労働環境の改善に向けた具体的な支援が必要とされている。
(要約) |
( 306890 ) 2025/07/12 06:18:13 0 00 就職氷河期世代に対する本当の支援策とは(Photo:Shutterstock)
年収103万円の壁や年金改正……2025年の年明けから就職氷河期世代への支援策が政府や政党からさまざま出されたり、検討されたりしている。確かにこのまま就職氷河期世代が支援を受けられないまま、シニアとなり、年金生活へシフトしたならば、生活に窮する人が大幅に増大するかもしれない。しかし、打ち出される支援策は本当に就職氷河期世代が望むものなのか、今回はそれを解説する。
ここにきて就職氷河期世代への対応策やその案が政府や政党から出されている。
就職氷河期世代とは、バブル崩壊後に社会人となり、就職難に直面した、現在40代後半から50代半ばの世代を指す言葉だ。非正規雇用が増加したことで仕事や収入が安定せず、結婚・出産への影響や老後への懸念などがある。
就職氷河期の話題は、今年の年末年始のタイミングで、国民民主党が「年収103万円の壁」に続いて就職氷河期世代支援を取り上げた前後から活発になった印象がある。その後、就職氷河期世代支援は、年金改正法案と併せて話題に取り上げられていく。
年金改正法案については後述するが、就職氷河期世代が年金を受給する世代になる時期に受給額が下がってしまうことを防ぐことを目的に、厚生年金の積立金の一部を基礎年金の底上げに充てる内容を含んだ案を与党と立憲民主党が協議し、5月末に可決成立した。
こうした年金改正の協議が進む中、政府は4月に関係閣僚会議を立ち上げて就職氷河期世代の支援を検討、6月3日には来年に策定する新たな「就職氷河期支援プログラム」の「基本的な枠組み」を閣議決定した。これに先立つ5月下旬には国民民主党も独自の就職氷河期世代政策を発表している。
さらには政府広報が6月26日から「逆風でがんばってきたあなたに、追い風を。」というポスターを公開し、ちょっとした話題を呼んだ。普段のほかの投稿は10件ちょっとのリポストがされる程度の政府広報オンラインのX(旧Twitter)が、この投稿には1000件を超えるリポストがされ、ほとんどが「いまさら」「遅すぎる」「支援内容に意味がない」といったネガティブな内容で、むしろ就職氷河期世代の神経を逆なでしたような印象だった。
なぜ、政府の就職氷河期支援に批判が集まるのか、また、就職氷河期の方はどのような現実に直面しているのか、解説する。
Xなどでネガティブなコメントが集まった、政府広報が出した就職氷河期支援のポスターには、「就職氷河期等の支援策、続々拡充。」の文字とともに、「ハローワーク」「サポステ」「家計改善」の文字が並ぶ。
最初の「ハローワーク」はいまさら説明は不要と思うが、ハローワークでは仕事が決まらない、希望の求人がない、ブラックな求人ばかり目にするといったように、ハローワーク自体に期待が持てないとの声も多く目にする。
次の「サポステ」は、ハローワークと同じく厚労省が開設する「地域若者サポートステーション」の略だ。働くことに悩みを抱える若年無業者をサポートする相談窓口であり、当初は34歳までを対象としていたものが、段階を追って引き上げられ、今では49歳までが対象のため、就職氷河期世代も半分程度は該当する。
だが、自分が対象になることを知っている就職氷河期世代は少なそうである上、あと数年すると氷河期世代が全員対象外となってしまう。また、「非正規雇用から正社員になりたい」といった相談も受けているようだが、「仕事上の人間関係がつらい」といった悩みや、ひきこもりの相談のニーズが氷河期世代でも高いかは疑問だ。
最後の「家計改善」は、行政や行政から委託を受けた事業者が運営する家計改善支援事業所と、そこに所属する家計改善支援員に家計改善を相談できるもので、国費が投入されている厚労省の事業である。内容は、家計のヒアリングや整理を含めた管理の支援、滞納解消や債務整理の支援、給付金利用の支援に貸し付けのあっせんまで行うという。
ただ、家計改善事業の対象者は「生活困窮者」および「特定被保護者」など、生活保護の1歩手前のセーフティーネットとされており、就職氷河期世代が当てはまるのか、有効なのかは疑問である。
このような内容が就職氷河期世代向けの支援だと言われても、「ありがたい」と思う人は少ないように思う。
このほか、6月3日に閣議決定した「新たな就職氷河期世代等支援プログラムの基本的な枠組みについて」では、リスキリングや介護離職防止、公務員採用などを含めた就労・処遇改善に向けた支援、すぐに一般企業で働くことが難しい人が支援付きで働く「中間的就労」の積極活用やひきこもり支援を含めた社会参加の支援、高齢期の就業機会確保や住宅確保、年金改正などを含めた高齢期を見据えた支援が示されたが、これも無駄とは言えないものの、目前の問題と直接関係ない印象を受けるものが多い。
大々的に「支援する」という言葉だけが飛び交っても、「そうじゃない」と思うものばかりではネガティブな反応が増えるのも無理はない。
就職氷河期世代への支援に関連して、ほかの支援策とは違った意味で反発を招いたのが、6月13日に参議院本会議で可決成立した年金制度改正法案だ。
成立までの焦点や反発の原因となったのは、厚生年金の積立金の一部を使って基礎年金の底上げを行う内容が盛り込まれたことだ。この基礎年金の底上げ案は昨年から厚労省による案が示されていたが、途中、与党の反発で法案化を見送る運びとなった。しかし、5月に立憲民主党が基礎年金の底上げを求め、これに与党が応じたことで盛り込まれた法案が成立した。
2005年以前の公的年金では、物価の変動に合わせて年金の給付額を見直す物価スライドが採用されていたが、人口減少による年金加入者の減少や、高齢化による年金受給者増加などの社会情勢を考慮したマクロ経済スライドが導入されると、年金の給付額が減少する方向に向かう。これにより、特に非正規雇用の割合が高いとされる就職氷河期世代が年金を受給するようになった際、困窮する人が多く発生しかねないとして、給付額の減少を抑える目的で基礎年金の底上げが改正に盛り込まれた。
しかし、会社員が加入する厚生年金の積立金を、国民年金を含めた基礎年金に活用するため、「流用」だとする批判が多い。与党や立憲民主党からは、基礎年金は国民年金だけでなく厚生年金の1階部分でもあり、国民の多くが厚生年金加入のため、厚生年金加入者へのメリットも大きいことや、基礎年金の底上げには厚生年金の積立金だけでなく国費も投入されるため、マイナスよりもメリットが大きいことが説明されているが、それでも納得感が行き渡るには至っていない。
納めた年金保険料が少しでも自分たち以外に使われることが許せないという感情だけでなく、そうして底上げしたところで十分な金額がもらえるのかわからない不安、国費を投入する財源として増税が検討されるのではないかという不安、今回の基礎年金底上げや、その大本の要因となったマクロ経済スライドなど複雑な年金制度への信頼低下などが根底にあるのかもしれない。
こうして年金改正も含め、就職氷河期世代に関連するさまざまな政策の話題がここ最近、非常に活発であるため、シニアの就職支援サービスを運営する私にも、シニアではなく就職氷河期世代についての取材が増えた。
私が運営するシニア向けの求人サイトや人材紹介でも、就職氷河期世代の登録もある。登録や転職の動機となっているのは、まさしく老後への不安と現在の制度への不信感だ。年金を含めて、老後の生活が保証されているとは言えず、かといって自身の努力で老後に備えるには、現在の仕事や収入が十分ではない。そこで、長く働き続けることで老後に備えるために、定年がない・定年が長いなどの高齢でも条件が変わりにくい職場への転職を考えているのだ。
こうした就職氷河期世代の求職者から直接その実情を聞くこともあるが、やはり、政府の氷河期世代支援の内容はあまり歓迎されていない。求めているのは、端的に今後も安定する収入と仕事であるし、そこで希望する職種は不慣れな公務員や農業・建設業・物流業ではなく、これまで経験している職種が多い。経験職種のほうが転職市場の一般論では収入にもつながるし、活躍のイメージもしやすい。
しかし、希望職種や経験職種での求人そのものが少なく、ポストもなく、給与も十分でなく、労働環境が整っている職場が少ないことが課題となる。中間的就労やリスキリング、家計改善の必要もゼロではないが、多くが求める支援ではなさそうだ。
もちろん、私が接している就職氷河期世代が「求職者」であるために上がる声の多くがお金や仕事への不満・不安なのであって、「求職者」ではない氷河期世代から話を聞けば、家計や生きづらさなどほかの話が出るのではという意見もあるだろう。確かに私が話を聞いた氷河期世代は「自分はまだ恵まれているのかもしれないが」と語り始める人が多かった。
その可能性は完全に否定できないが、私はそれでも多くの人の最重要の課題は安定した収入と仕事だと感じている。むしろ、安定した収入と仕事、健全な労働環境を求める就職氷河期世代が多くても、声にならない声であるために、支援も全方向を向いたインパクトが弱いものになっているのではないだろうか。
もし、今後も就職氷河期世代の多くが安定した収入と仕事を得られないまま、シニアとなったならば、現状の支援では食い止めることが難しいほど貧困に苦しむ人が増えることは想像に難くない。シニアの就職を支援する私たちも、シニア求職者が増えたことを喜べないほど、今以上に高い年齢まで働き続けなければならない状況になるかもしれない。
就職氷河期世代以上の年齢の採用場面では基本的に即戦力・経験者が求められるため、自分のペースでの働き方の訓練やリスキリングを多少提供した程度では、転職市場で十分評価されるようにはならない。就職氷河期世代への支援は、実務経験が積めるレベルのものが提供されるようになることを願うばかりだ。
執筆:シニアジョブ 代表取締役 中島 康恵
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