( 308234 ) 2025/07/17 06:55:49 1 00 セブン-イレブンの「セブンカフェ」は、発売から12年が経ち、多くの人に愛されるアイスコーヒーを提供しています。 |
( 308236 ) 2025/07/17 06:55:49 0 00 Photo:JIJI
セブン-イレブンの「セブンカフェ」は発売から12年近くたったが、広く認知され、筆者も愛飲している。アイスコーヒーは、レギュラーサイズ(R)とラージサイズ(L)の2種類あるが、多くの人が経験則上、レギュラーよりラージの方が量が多くて割安なのではないかと思っているのではないか。本当にラージはお得なのだろうか。(イトモス研究所所長 小倉健一)
● コーヒー市場に革命起こしたセブンカフェの誕生
コンビニで提供される、いれたてのコーヒーは、現代日本の生活様式に深く根付いた文化の一つとなった。
中でもセブン-イレブンが展開する「セブンカフェ」は、その先駆けとして市場を切り拓き、多くの人々に愛され続けている。
手頃な価格で本格的な味わいのコーヒーが楽しめるという価値は、多忙な日常を送る人々にとって大きな魅力だ。筆者自身も、セブンカフェを日常的に愛飲する一人であり、その品質と利便性の高さには常に満足してきた。
セブンカフェは2013年の発売当初、レギュラーサイズを100円という画期的な価格で提供し、コーヒー市場に衝撃を与えた。
年月が経過し、世界的なコーヒー豆の価格高騰や物流コストの上昇といった経済情勢の変化を受け、セブンカフェの価格も段階的に改定されてきた。2022年に初めての値上げで110円となり、2024年3月には120円、そして2025年7月からは140円へと価格が引き上げられることが発表された。
ラージサイズのアイスコーヒーに至っては250円となり、発売当初の価格を知る者にとっては、時代の流れを感じずにはいられない。
価格が上昇したとはいえ、専門の喫茶店でコーヒーを飲むことと比較すれば、セブンカフェの費用対効果は依然として高い水準にある。だからこそ、多くの消費者は値上げを受け入れ、利用を続けている。
ただ、日常的に購入する商品だからこそ、ふとした疑問が頭をよぎる。サイズ選びにおいて、消費者は本当に賢い選択をしているのだろうか。特に、より多くの量を求める際に選ばれるラージサイズは、レギュラーサイズと比較して本当にお得なのだろうか。
多くの消費者は、大きいサイズほど量あたりの単価が安くなるという経験則を持っている。この経験則がセブンカフェのアイスコーヒーにも当てはまるのかを確かめるべく、筆者は自ら詳細な調査を実施することにした。
● 電子はかりで独自検証!結果にショック…
調査の結果、消費者の思い込みをくつがえす、非常に興味深い事実が明らかになった。
検証にあたり、筆者は近隣のセブン-イレブン店舗で、アイスコーヒーのレギュラーサイズとラージサイズをそれぞれ購入した(7月8日)。分析の客観性を担保するため、電子はかりを用いて重量を計測した。
計測の手順は、コーヒーそのものの正味量を正確に割り出すために、段階的に行った。
まず、コーヒーが注がれる前の、氷が入った状態のカップの重量を測定する。
次に、コーヒーマシンで規定量のコーヒーを注いだ後の総重量を測定する。2つの数値の差が、カップに注入されたコーヒーの純粋な重量となる。
最後に、コーヒーを飲み干し、氷を捨てた後の容器自体の重量も測定し、データの正確性を確認した。水は1mLあたり約1gであるため、計測した重量(g)は、そのまま内容量(mL)として換算できる。
計測の結果は、予想とは異なるものだった。まず、ラージサイズのアイスコーヒーから見ていこう。容器単体の重量は11gであった。コーヒーを注入する前の、氷と容器を合わせた重量は186gを記録した。コーヒーマシンからコーヒーが注がれた後の総重量は335gであった。
この総重量335gから、コーヒー注入前の重量186gを差し引くことで、コーヒーの正味量を算出する。計算すると、335g-186g=149gとなる。つまり、ラージサイズのカップに注がれるコーヒーの量は、約149mLであることが判明した。
次に、レギュラーサイズのアイスコーヒーの計測結果を示す。容器単体の重量は10gで、ラージサイズとほぼ変わらない。コーヒー注入前の、氷と容器を合わせた重量は135gであった。コーヒーを注いだ後の総重量は232gを記録した。
ラージサイズと同様に、総重量232gから注入前の重量135gを差し引く。計算すると、232g-135g=97gとなる。レギュラーサイズに注がれるコーヒーの量は、約97mLであることが確認できた。
今回の実測データに基づき、いよいよ費用対効果の分析に入る。
● 1mLあたりの単価に衝撃!大きい方が損だった
計算には、調査時点での消費税8%込みの税込価格を用いた。レギュラーサイズの本体価格は130円であり、税込価格は140.4円となる。ラージサイズの本体価格は232円であり、税込価格は250.56円となる。
この価格を、先ほど算出したコーヒーの正味量で割ることで、1mLあたりの単価を求めることができる。
レギュラーサイズの1mLあたりの単価は、140.4円÷97mL≒1.447円/mLとなる。
ラージサイズの1mLあたりの単価は、250.56円÷149mL≒1.681円/mLとなる。計算結果が示す事実は明確だ。
レギュラーサイズの単価が約1.45円/mLであるのに対し、ラージサイズの単価は約1.68円/mLと、明らかに割高になっている。具体的には、ラージサイズはレギュラーサイズに比べて、1mLあたり約16%も価格が高い。
これは、消費者が抱くであろう「大きいサイズの方がお得」という一般的な感覚とは全く逆の結果である。
セブンカフェのアイスコーヒーを注文する際、量を多く飲みたいという理由だけでラージサイズを選ぶ行為は、経済的な観点から見ると損な選択をしていることになる。この価格設定は、極めて不可解であり、消費者の直感を裏切るものと言えるだろう。
一般的に、「数量割引」と呼ばれる価格戦略は、多くの小売業や飲食業で採用されている。消費者に大きなサイズを選んでもらうことで客単価を上げるため、大きなサイズほど単位あたりの価格を割安に設定する手法である。
例えば、マクドナルドのフライドポテトは、小サイズよりも中サイズ、中サイズよりも大サイズの方が10gあたりの価格は安くなる。スターバックスのコーヒーも同様に、小さいサイズより中くらいのサイズ、中くらいのサイズより大きいサイズの方が、量あたりの価格は低く設定されている。
この方法は消費者に経済的な合理性を感じさせ、より大きなサイズの購入を促すための常套(じょうとう)手段である。
それにもかかわらず、セブン‐イレブンのアイスコーヒーの価格設定は、市場の常識から完全に逸脱している。大きいサイズを選んだ方が、単位あたりの価格が高くなるという逆転現象は、消費者の購買行動における心理的な前提を覆すものだ。
● なんで!?ラージを注文したくない現実
この謎を解き明かすための仮説は、2つ考えられる。
第1の仮説は、顧客層の特性に基づいた価格設定戦略である。セブン-イレブンは、レギュラーサイズを注文する顧客層と、ラージサイズを注文する顧客層の特性が異なると分析している可能性がある。
レギュラーサイズを選ぶ顧客は、日常的な消費の中で費用を意識し、価格に敏感な層が多いと想定される。一方で、ラージサイズを積極的に選ぶ顧客は、量をたくさん飲みたいという欲求が強く、価格の細かな差には比較的無頓着な層が多いのではないか。
もしかしたら価格感度の低い顧客層に対しては、多少割高な価格を設定しても需要は落ちないと判断し、ラージサイズを収益性の高い商品として位置付けているのかもしれない。
つまり、顧客の集団ごとに価格への反応が異なると見込み、それぞれに最適化された価格を設定しているという高度な戦略が背景にあるという考え方だ。
第二の仮説は、消費者の心理的な思い込みを逆手に取った戦略である。
「大きいサイズの方がお得に違いない」という、長年の消費活動によって形成された消費者の固定観念を利用している可能性だ。多くの人々は、いちいち単位あたりの価格を計算することなく、直感的にラージサイズがお得だと判断して購入する。
セブン-イレブンは、認知の偏りを巧みに利用し、消費者が自ら割高な商品を選んでくれる状況を作り出しているのかもしれない。消費者から見れば一種の巧妙な仕掛けのようにも感じられ、企業の姿勢としてはあまり好ましいものではない。もし仮説が正しいとすれば、消費者の信頼を損なう危険性もはらんでいる。
どのような理由があるにせよ、消費者として自らの利益を守るために知っておくべき事実は一つだ。
セブン-イレブンのアイスコーヒーは、美味しく、便利で、多くの人々にとって欠かせない存在である。その価値は揺るがない。
ただ、費用対効果という観点に立つならば、ラージサイズを選ぶという選択肢は筆者には存在しない。
賢い消費者であるならば、量を多く飲みたい場合でも、レギュラーサイズを注文するのが唯一の正解となる。もしレギュラーサイズ一杯(97mL)では物足りないと感じるなら、ラージサイズ一杯(149mL)を注文するのではなく、レギュラーサイズを2杯(合計194mL)注文することを検討すべきだろう。
これが令和の大人買いというものだ。
小倉健一
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