( 308539 ) 2025/07/18 07:24:05 1 00 2023年7月の第27回参議院議員選挙に向けて、一部政党が「労働時間の上限緩和」を公約に入れていることに対して、コンサルティング会社「ワーク・ライフバランス」や過労死家族会が反対声明を発表した。
声明の中で、長時間労働が少子化に悪影響を及ぼすことや、女性が損をする働き方の改善が必要であることについて言及され、労働環境の改革が進むべきだと訴えられた。
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( 308541 ) 2025/07/18 07:24:05 0 00 第27回参議院議員選挙の候補者のポスター掲示場(7月10日、東京都豊島区)
「7月20日投開票の参議院議員選挙に向けて、一部の政党が『労働時間の上限緩和』を公約に入れている」ーー。コンサルティング会社「ワーク・ライフバランス」(東京都)や過労死家族会の関係者らが7月16日、「労働時間規制を自己責任で無効化する『働きたい改革』に強く反対する」という緊急声明を発表した。
少子化対策や男性の育児推進を阻む「長時間労働」の是正に向け、時間外労働の上限は現在、原則として「月45時間・年360時間」となっているが、このような働き方改革は「行き過ぎだ」と主張する政党があるという。同日開かれた記者会見で、ワーク・ライフバランスの小室淑恵社長は「過労死を再び容認する社会へと逆戻りする。『働かせたい』を『働きたい』にすり替えないでほしい」と強く訴えた。【相本啓太 / ハフポスト日本版】
緊急声明を発表したメンバー(ワーク・ライフバランス)
厚生労働省で行われた記者会見には、小室社長のほか、みらい子育て全国ネットワークの天野妙代表、医師の過労死家族会共同代表の中原のり子さん、高島淳子さんが出席。京都大学の柴田悠教授もオンラインで参加した。
冒頭、小室社長が「参院選において、私たちの命と生活、子どもたちの未来を脅かす公約が掲げられている」と説明。
一部政治家や経済界から「働きたい人は長時間働けるようにするべき」という主張が繰り返されているとし、「これは“働きたい改革”の名を借りた“働かせたい改革”だ」と懸念を示した。
2019年施行の働き方改革関連法では、時間外労働の上限設定や年次有給休暇の義務化、父親育休制度、勤務間インターバル制度の努力義務などが盛り込まれた。
小室社長は、「働きたい人の自由を守れと言うが、その裏には『長時間働かせたい』という思惑がある」と語り、一部政治家や経済界の主張は「働き方改革を『骨抜き』にしかねない」と述べた。
また、趣味や婚活、子育てなどの自己実現を叶えながら働ける社会にしたいと訴え、「働き方改革は始まったばかり。後退ではなく前進こそが未来への責任」と声を上げた。
では、「労働時間の上限緩和」を公約に入れている政党はどこか。
小室社長によると、自民党は「働きたい改革を推進」、公明党は「もう少し働ける社会へ」「労働時間のルール見直し」という言葉をそれぞれ盛り込んでいる。
参政党は「もっと働きたいのに働けない働き方改革」「時間外労働の上限規制の見直し」と明確に発信しており、「画一的な残業時間上限設定で『もっと仕事をしたいのにできない』という弊害が生まれている」と主張している。
一方、働き方改革を公約に掲げている政党もあり、立憲民主党は「残業代割増率の引き上げ」「勤務間インターバル11時間以上を義務化」などを表明。
国民民主党は「長時間労働の是正」を打ち出し、勤務間インターバルの義務付けや労働時間管理の徹底のほか、育児・介護と仕事の両立やリスキリングの時間を確保することについても言及している。
このほか、共産党は「1日7時間週35時間」の労働を目指すとしているという。
自民、公明、参政の考え方について、会見に参加した天野代表は「強く懸念しているのは、働き方の自由を掲げながら実際には働かせたい側の都合が先行していること」と指摘。
「『もっと稼ぎたい』は『もっと働きたい』とイコールではない」とし、「子どもかキャリアかの二択を迫られ、今でさえ『もう1人生む余裕はない』と悲鳴が上がっている。長時間労働が常態化すると、家庭の時間が奪われ、結果として少子化がさらに加速する」と語った。
このほか、日本の残業代の割増賃金率は1.25倍で、他の先進国の1.5倍と比べて劣るとし、「そもそもこういったものを整えていない中、時間外労働の上限を緩和すると不利益しか生まない」と述べた。
厚生労働省で行われた記者会見(ワーク・ライフバランス)
少子化対策や働き方改革に詳しい柴田教授は、「経営・経済・少子化の視点からも長時間労働を減らしていくことが重要。そのために政治や政策が正しく進んでいくことを強く望む」と訴えた。
様々な調査や研究結果から、多くの人は「残業代がほしいから働きたい」などと思っているとし、「DXや効率化によって残業を減らし、睡眠時間を十分に取って脳をリフレッシュすることで、生産性や実質賃金を高めていく。これが日本で必要になる経営戦略で、人材確保策にもなる」と話した。
柴田教授は、日本のフルタイム男性の平日1日あたり労働時間は10時間で、欧米よりも2時間ほど長いという現状も紹介。
1時間あたりの実質GDPも韓国に抜かれる状況で、欧米なみの健康的な働き方を実現できなければ、若い働き手など多様な人材を確保できず、倒産リスクが上がると指摘した。
また、OECD諸国では、男性の平均労働時間が減ると、国民の健康度が上がり、1人当たりの実質GDPも上昇するという研究結果が示されているとも語った。
このほか、参院選では「男女共同参画が少子化をもたらした」という言説が出ているが、これについては「事実とかけ離れている」とし、「長時間労働をやめれば家事・育児をする男性が増え、出産が増えることは多くの研究で示されている」と述べた。
会見では、医師の過労死家族会の共同代表も思いを述べた。
中原のり子さんの夫は26年前、長時間労働が原因で勤務先の病院の屋上から投身自殺したという。
中原さんはそれから過労死を防ぐ活動を続けたが、2014年に過労死等防止対策推進法が成立した際、議員から「過労死は今後出しません」と約束されたことを明かした。
一方、今回の参院選でこの約束を反故するかのような公約を掲げる政党があるとし、「過労死は人災で、社会の政策ルールの致命的なミス。私たち遺族も経済発展に寄与することは惜しまないが、それと引き換えに家族の命や健康を差し出すつもりはない」と訴えた。
高島淳子さんも3年前、医師だった息子が過労自死した。
「苦しみを背負うこと、自分事になるのは、明日のあなた自身、将来のあなたの子や孫かもしれない」と述べ、「働き方改革を停滞、逆行させることは、過労死した方々を無益の死とし冒涜する行為に等しい」と声に力を込めた。
◇
会見終盤の質疑応答で、ハフポスト日本版は「一部の政治家や経営者が長時間労働をすればするほど結果が残せると思っている理由」について尋ねた。
小室社長は、「たまたま結果が残せたとしても、そこに家事や育児を負担する妻の大きな協力があったことを忘れてはいけない」と指摘。
2023年にノーベル経済学賞を受賞したクラウディア・ゴールディンさんの言葉を紹介し、「日本は男女双方に素晴らしい教育をしているのに、片方の教育が全く経済に生かされていないため、生産性が向上していない」と語った。
また、妻が出産で退職した場合と働き続けた場合を比較すると、世帯の手取り収入は一生で約2億円の差が出るという東京都の試算を紹介し、「女性が損をする働き方を改善していかなければ男女の分断にも繋がる。発言力のある一部の経営者が国の審議会に入るなど、ダイバーシティが欠けていることについても危機感がある」と話した。
柴田教授も、若年層はキャリア思考になっているのにもかかわらず、男性は長時間労働、女性は家事・育児の負担という課題が残っているため、結婚離れが進み、少子化が加速化していると答えた。
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