( 308654 ) 2025/07/19 03:51:46 1 00 ドイツの極右政党AfDのSNS戦略の立役者、エリック・アーレンス氏が取材に応じ、その進展や後悔を語った。
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( 308656 ) 2025/07/19 03:51:46 0 00 ドイツの極右政党AfD躍進の立役者・エリック・アーレンス氏が取材に答えた
彼は“アシスタント”と称するサングラス姿の厳めしい男を伴って現れた。 ドイツの極右政党AfDが躍進する要因のひとつとなったSNS。 その戦略を担った人物が、初めて日本メディアの取材に応じた。 「TikTokはナチスのラジオと同じ」 SNSほど人を扇動しやすいツールはないと語る。 その一方で、「後悔している」とも話す。 目下の参議院議員選挙で各党がSNS上でしのぎを削る中、彼の証言から「選挙とSNS」の正しい向き合い方を考えたい。
(テレビ朝日ロンドン支局 醍醐穣/報道局 江向彩也夏)
AfD共同党首のアリス・ワイデル氏
ドイツでは去年から、欧州議会、州議会、総選挙と重要な選挙が相次いだ。いずれも、極右政党AfD(ドイツのための選択肢)が躍進した。AfDは、2013年創設の新しい党で、移民受け入れ反対、多様性やジェンダー教育、環境保護に否定的な姿勢、ウクライナ支援反対を掲げる。
AfDの従来の支持層は、旧東ドイツ地域に住む中高年の男性だったが、この層をさらに伸ばしたのと同時に、巧みなSNS戦略を展開し若い層にも支持を拡大した。
記者の取材に答えるアーレンス氏
東欧ハンガリーの首都ブダペストのホテル。我々はある人物を待っていた。 彼からメッセージが届く。 「カメラのセッティング状況を撮って送ってくれ」 「罠だと言うつもりはないが、私が発言することを好まない人がいるので」 メディアを装って危害を加えようとしているのではないかと疑ったようだ。
その1時間後、サングラス姿の厳めしい男性を従えて現れたのが、エリック・アーレンス氏(30)。AfDで、SNS戦略を担当していた人物だ。
アーレンス氏が去った後もAfDはそのスキームをほぼ踏襲しているが、彼は今、古巣に批判的な立場をとる。我々がメディアだと確認でき、警戒心が解けたのか少し表情が緩んだ。
AfDでのSNS戦略について話すアーレンス氏
アーレンス氏は、2024年の欧州議会選挙の際、筆頭候補のマクシミリアン・クラー氏のSNS上の選挙活動を担当、AfDが若者層に支持を広げる重要な役割を果たした。
様々なSNSプラットフォームがある中で、彼が注力したのがTikTokだった。
それまでもAfDは、TikTokを利用していたが、「標準的な内容の投稿で、あまり効果はなかった」と振り返る。そこでアーレンス氏は、ポピュリズム的で感情に訴える手法を用い極右の思想を盛り込んだコンテンツ制作に舵を切った。
「2秒が重要なんだ。注意が持続するのは最初の2~3秒だけ。最も感情を動かす部分を冒頭に持ってきて、面白くない部分は後に編集する。30秒見てもらえたら、多くは最後まで見てくれる。最初の壁を乗り越えることが重要だ」
「(場面切り替わりの)テンポが落ちる瞬間と動画の感情的なところを一致させ、インパクトのある言葉を放つと”世界の終わり”のような予言めいたものになる」
「『君の母親は年を取ると貧しくなる』など、見ている本人や父母、兄弟の話題で問いかける。内容が嘘でもこれらは必ずバズった」と“見られる”コツを語る。
SNS戦略に関わるのはアーレンス氏と二、三人のスタッフ、数十人のボランティアで十分だったという。
AfDのTikTokには「大量移民にはNO」などと訴える動画が並ぶ
アーレンス氏は、TikTokを「新しい『国民ラジオ』だ」と称した。
「国民ラジオ」は、ナチス・ドイツがプロパガンダの手段として低価格で販売したラジオ受信機のことだ。ドイツのシュピーゲル紙によると、シンプルな構造で外国の放送を受信しにくく、ナチスが管轄する国内の放送局しか聴けないようになっていた。もし外国の放送を聴いたことが発覚すれば懲役刑や死刑に処される可能性があった。
「若者は1日2~3時間TikTokをみる。その中には極右のプロパガンダも当然、混ざってくる」
「10年、15年前まで右翼プロパガンダを広めるのは非常に難しかったが、TikTokは抜け穴をくれた。この毒を再び国に広める隙ができた」
2月の総選挙前に国際NGO「Global Witness」が公表した調査によれば、TikTokとXで、右寄りのコンテンツが、左寄りのものに比べ2倍以上表示されたという。その中でもTikTokではAfDに関するものが78%を占め他を圧倒している。
ドイツの財団の1月中旬の調査によれば、AfDとその支持者らの投稿は1日2000件に上ったとみられる。
「ジェネレーション・リサーチ研究所」のマース博士は警鐘を鳴らす
若者の投票行動を研究する「ジェネレーション・リサーチ研究所」のマース博士は「ソーシャルメディアが若者の世論形成の中心となっている中、極端な主張が支配的」と語る。マース博士によると、ドイツの10代は、1日平均で約120分間TikTokを視聴していて、欧州議会選挙の期間中は約1時間、AfDに関連する投稿を目にしていたという。
総選挙時、極右のAfD、それに対抗し同じく支持を伸ばしたDie Linke(左翼党)がTikTok上を席巻した。総選挙では環境政党「緑の党」に投票したミュンヘン在住の女性(25)は、「SNS上は右と左ばかり。中道は上がってこない」と話す。
マース博士は、今のままでは政治に関する情報が極端な思想からしか得られないと警鐘を鳴らす。
AfDでのSNS戦略を「後悔している」と話したアーレンス氏
AfDを離れたアーレンス氏は、一連のSNS戦略を「後悔している」と話す。
「もう二度と大衆を騙すためのポピュリズム戦略を極右、極左でも使おうとは思わない」
「政治家が短期的な人気を求めるならポピュリストになるしかないが、必然的に失脚する運命にある。政治家に望むのは本物であること。感情に訴える姿勢を持ち、誠実に話すこと。SNSはその窓になれる」
日本の選挙ではYouTubeが“主戦場”となっている
一方、日本の現状はどうなのか。立命館大学産業社会学部の谷原つかさ准教授に聞いた。
「欧米ではTikTokやInstagramのリールが選挙の主戦場になりましたが、日本の選挙の主戦場はYouTube。どの党もSNS戦略を頑張って登録者数やフォロワーを増やしてきましたが、参政党の伸びが圧倒的で桁が違う。他の党がかすんでしまっています」
政党要件を満たす10党は、いずれも党公式のYouTubeとXを持つ。参院選公示前の7月2日までは、YouTube登録者数が最も多い党はれいわ新選組だった。しかし公示後の7月6日に参政党が最多に躍り出た。
日本の選挙でもTikTokなどでの「切り抜き動画」やライブ配信が広まっている
そもそも日本で最初にSNSを開設した党は自民党だ。2007年11月にYouTube、2009年7月にTwitter(現X)を開設。ネット選挙が解禁された2013年には、ネットの情報を分析して誤情報に対処する『Truth Team』を設けた。一方で谷原准教授は、いまの「SNS選挙」の流れを作ったのは2019年結党のれいわ新選組だと語る。
「ある種のプロモーションビデオみたいな形で動画を作る『切り抜き職人』が支援者におられたと思う。2024~2025年のようなSNS戦略の元祖で、特にTikTokはれいわの独壇場だった印象があります」
2024年は日本の「SNS選挙」の節目となった。東京都知事選では石丸伸二氏が2位となり、のちに「再生の道」を結党した。衆院選では、玉木雄一郎代表の率いる国民民主党が、公示前の7議席から28議席に伸ばして躍進した。兵庫県知事選では、齋藤元彦知事が再選した。3人の共通点について谷原准教授は語る。
「石丸さんも玉木さんも齋藤さんもライブ配信でファンコミュニティーを強固なものにした。まさに『推し活選挙』的だった。いまや選挙でSNSの影響が出ていると言わざるを得ません」
立命館大学産業社会学部の谷原つかさ准教授
SNSで応援のコメントが多々寄せられる政党もあれば、批判のコメントが飛び交う政党もある。「日本では党首が他党の政策を批判することはあっても、他党の党首の人間性を批判する場面はまだあまりありません。一方で、有権者側が非難しあいSNSのコメント欄などが荒れてしまうことは、すでに起きています」 と谷原准教授は語る。
自民党のYouTubeでは現在、今年7月以降に公開された動画の多くでコメント欄が閉じられている。 自民党に問い合わせると次のような回答が返ってきた。
「コメント欄などを開けて、皆さんのご意見を幅広く伺うことは理想ですが、参議院選挙期間中に、偽情報や詐欺への誘導、外国勢力によるものと思われる大量のbotの書き込みなども含め様々なコメントが増えてきました。安心して自民党の動画をご覧いただくため、コメント欄を閉鎖いたしました。落ち着きましたら再開したいと思っております」
参院選の投開票日が迫る中、必要なことは何か。谷原准教授は言う。
「正しい情報に基づいて正しい判断をするって、突き詰めていくとすごく難しい。だからこそいま『ネガティブ・リテラシー』が重要ではないかと思います」
ネガティブ・リテラシーとは、不確かな情報に触れたとき、すぐ検証したり反応したりするのではなく、一瞬ぐっと耐えて飛びつかずにやりすごす「スルーする力」のことだ。
「選挙の時にあいまいな情報に触れても、『そういう考えもある』くらいで止めておくと、間違った事実に基づいて判断せずに済む。個人のメンタルを守るうえでも、民主主義に基づく判断をするうえでもいい気がします」
※この記事は、テレビ朝日とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。
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