( 309754 )  2025/07/22 07:06:38  
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農協は農家から搾取する悪の組織とのイメージがあるが、実際には農家を支える存在であり、その重要性を理解できたと米利休氏は述べている。

農協は全量買い取りや融資支援を行っており、日本の農業を成り立たせるために必要な組織と考えられている。

一方で、日本の農家は政策の影響を受け、不遇な状況に直面していることも指摘。

農家が収入を増やすためには、生産物の量を増やし、付加価値を高めることが求められている。

しかし、農業の難しさを痛感した氏は、経営の多様性に対する理解も重要だと述べている。

農業経営は単に利益を求めるだけでなく、技術や市場も考慮する必要があると強調した。

(要約)

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(※写真はイメージです/PIXTA) 

 

農家から不当に搾取する存在、農家を買い叩く悪の組織――。世間で囁かれる農協のイメージ。東大を卒業し、米農家を継いだ米利休氏も、かつてはそのイメージを持つ一人だったという。しかし、自ら現場に立ち、生産から販売までの現実に直面したことで、その認識は180度覆され……。同氏の著書『東大卒、じいちゃんの田んぼを継ぐ 廃業寸前ギリギリ農家の人生を賭けた挑戦』(KADOKAWA)より、日本の農家の実態をみていく。 

 

農業に従事していない方からすると、農協は農家から搾取することで儲けている、悪の組織のようなイメージを持たれているようです。「農家が買い叩かれている」といった話も耳にしますし、僕自身もそのイメージが少なからずありました。しかし、農協が本当に“悪”だとしたら、じいちゃんは経営を続けてこられませんでした。 

 

農協は全国の地域ごとにあるので、もしかしたら農家の不利益になるような運営をしている農協もあるのかもしれません。でも、少なくとも僕たちの地域の農協は、農家に親切でとても一生懸命です。 

 

どういう経営を目指すかにもよりますが、大半の農家さんは生産で手いっぱいの状態です。生産と同じ時間を使っても、すべて売りさばけるかどうか……という世界。ほとんどの方は「つくったはいいけど、どうする?」となってしまいます。 

 

農協の良さは、規格外を除いて全量買い取ってくれることにあります。これはかなり大きなメリットです。なお、農協の卸先である市場の相場で買取価格が決められていて、農協側の販売手数料は5%以下です。多くの農家が生き残るために、農協は必要な組織だと僕は考えています。農業を続けるために農協からお金を借りる農家も多くあります。そうした面でも農家は農協のお世話になっていて、農協があるから日本の農業が成り立っている側面があります。 

 

仮に、独自で販路を広げたとしても、種や肥料、農薬などを購入するときには農協にお世話になりますし、事業拡大のために融資の相談をすることもあるかもしれません。農協とはもちつもたれつでうまく付き合っていくことが、生き残る上でも重要です。儲かっている農家さんがいらっしゃる以上、自分が儲かっていないのは少なからず自分のせいだと捉えるようにしています。 

 

 

一方で、日本全体で見たときに不遇な農家が少なくないことは、国の政策が失敗している部分もあるのではないかと感じます。世界に目をやると、独自の助成制度で農家の生活が成り立つようにして、農業を保護している国もあります。農業所得に対して公的助成(※)が占める割合は、ヨーロッパで90パーセント以上。スイスに至っては100パーセントだそうです。 

 

※ 国や地方自治体が事業にかかる資金の一部を給付する制度。 

 

農作物の売上が小さくても、きちんと生活ができる国がある一方で、日本の農家所得に対する補助金の割合は30パーセント程度にとどまっています(過保護の問題点もありますが……)。 

 

なかには、儲かっている農家さんもいるので、そうでない農家さんの「経営が苦しい」という言葉に対し、「やり方が悪いからだ」という意見はどうしても出てきます。そうかもしれませんが、日本の食を支えている人たちがピンチでは、国の経済は回らず、今以上の発展もないと思っています。 

 

農家が儲かるには、 

 

 

 

1.生産物の絶対数を増やすこと 

 

2.利益率を上げること 

 

の2点が重要だと考えています。〈1〉を実現するには「規模拡大」「収穫量を上げるための生産技術向上」を極める必要があります。それができれば、農協や業者に出荷することでも十分に生活ができるようです。 

 

そして、〈2〉を実現するには「付加価値をつけて、適正価格(利益が残る価格)で販売すること」「おいしい農作物をつくるための生産技術向上」が不可欠。これらを極めた農家さんは、新しい販路を開拓することで収入を上げられます。 

 

「農業で儲ける方法はこれだ!」と一概には言えず、いずれにしても時間がかかります。土地を拡大するにしても、例えばお米なら、東京ドーム約2個分の面積をひとりで引き受けなければ採算が合わないという話もあります。農家の平均年齢を考えれば、規模を拡大して作業を効率化するのは大変です。また、販売面で付加価値をつけるにしても、生産で手いっぱいの農家さんが多いなかで販売方法にまでこだわるのは簡単ではないと思います。 

 

事実、日本の農家の約4分の3が、ほかに収入源を持つ兼業農家です。僕も、農業を始める前は「うまくやれば儲かるだろう」と簡単に考えていたところがありましたが、実際に農業に従事するようになってみて、その難しさを痛感しています。 

 

 

ちなみに、一般的なイメージとして、米も野菜も果樹も、すべて同じ農業という認識ではないかと思います。でも、例えば建設業と一口にいっても、土木、建築、大工、電気など、業種や経営の在り方は違います。農業も一緒で、米農家とイチゴ農家のように農作物が変わるだけで作業も考え方も異なり、経営方針も変わってきます。 

 

そのため、農家なら農業全般についてなんでも知っているわけではない、とは感じます。じいちゃんとばあちゃんがふたりで農業をしていた頃は、お米以外にもいろいろな野菜をつくっていたので、じいちゃんなら何でも知っていると思っていたのですが、案外そうでもありませんでした。栽培経験のない野菜などは特に、ことごとく「わからない」と返ってきます。 

 

最低限の知識はあると思いますが、おいしいものを効率良く、ちゃんと買い取ってもらえる品質で大量生産できるかという点で言えば、すぐには難しいのだろうと感じます。そして、仕事として利益を求められる農業と家庭菜園は別物です。家庭菜園で当てはまることが、農業では当てはまるとも限らないのです。 

 

米利休 

 

米利休 

 

 

 
 

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