( 311294 )  2025/07/28 05:58:45  
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日本の上場企業による自社株買いが2025年も過去最高のペースを維持しており、株価の押し上げ要因として注目されています。

2024年の自社株買い実績は前年の約1.7倍の14兆円を超え、2025年も既に9兆円を超えると予想されています。

この傾向は日経平均株価の上昇にも寄与しており、特に企業が安定した買い手となることで市場全体を押し上げています。

自社株買いは株主還元策として好評を得ており、企業が効率的に資本を活用することを促進しています。

しかし、短期的な利益追求が優先される中、成長投資が軽視される懸念も指摘されています。

持続的な成長を目指すためには、企業は成長に向けた投資を優先すべきだという意見も多いです。

(要約)

( 311296 )  2025/07/28 05:58:45  
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終値で史上最高値を更新した日経平均株価を示すモニター=2024年7月11日、東京都中央区【時事通信社】 

 

 上場企業による自社株買いが、2025年も過去最高のペースで推移している。企業が資本効率を高めるために実施する自社株買いは、株価上昇につながりやすく、個人投資家にとっても朗報。「物言う株主(アクティビスト)」対策として注目を集めることも多い自社株買いだが、近年の日本株上昇の立役者ともされ、専門家の試算では、年間で20兆円規模に達する勢いだ。 

 

東京証券取引所=2025年5月13日、東京都中央区【時事通信社】 

 

 三菱商事が1兆円、セブン&アイ・ホールディングスが6000億円、信越化学工業が5000億円ー。今年に入って発表された自社株の取得枠だ。 

 

 東海東京インテリジェンス・ラボの集計によると、24年の自社株買いの実績は23年比約1.7倍の14兆9067億円となり、過去最高を更新した。25年も7月上旬時点で既に24年の同時期を大きく上回る9兆4332億円に上り、同社は25年の通年で20兆円規模に達すると予想する。 

 

 東海東京の鈴木誠一チーフエクイティマーケットアナリストは、自社株買いの増加は「日本株全体の押し上げ効果ももたらしている」と指摘する。 

 

 24年の日経平均株価は年間で19%上昇した。取引金額の規模が大きい海外投資家が売り越しとなった一方、企業による自社株買いを含む事業法人(一般企業)の買越額は過去最高を更新した。 

 

 24年7月に記録した4万2224円02銭という日経平均の最高値も、「企業が年間を通じて安定的な買い手となり、相場を長期にわたって押し上げていったことが寄与している」と話す。 

 

東証アローズのマーケットセンター=2025年4月8日、東京都中央区【時事通信社】 

 

 企業の自社株買いを加速させるきっかけとなったのが、東証による2023年3月の要請だ。資本効率や株価を意識した経営を促すもので、特に株価純資産倍率(PBR)1倍割れを問題視した。 

 

 PBRは、時価総額が株主から預かった資本の何倍まで膨らんでいるかを表し、数値が高いほど株価は割高で、低いほど割安であることを示す。1を下回るのは、企業の株式が本来の企業価値よりも安く取引されている状態。企業が解散したときに株主に残される純資産価値よりも株価が安いことを意味するため、理論上は会社を解散して株主で資産を分け合ったほうが、株主にとって得することになり、改善が求められる。 

 

 自社株買いで発行済みの株数を減らし、分母に当たる純資産が縮小すれば、指標は改善する。 

 

 企業がどれだけ効率的に稼いでいるかを示す自己資本利益率(ROE)を高める効果もある。1株当たり利益(EPS)が増加するため、株主還元策として歓迎されやすい。 

 

 株価を割安な状態で放置しておけば、投資ファンドなどに買収されるリスクも高まるため、「企業サイドが手っ取り早く株価を高めるには有効な手段」(国内証券の担当者)ともいえる。 

 

 実際、自社株買いは市場からポジティブに受け止められているようだ。ニッセイ基礎研究所の森下千鶴研究員によると、東証株価指数(TOPIX)構成銘柄のうち、今年4~5月に自社株買いの枠を設定した企業の株価を調べたところ、自社株買いを発表した企業の翌日の株価パフォーマンスは、市場平均を上回ったという。 

 

 

金融庁【時事通信社】 

 

 売却が進む政策保有株を自社株買いで吸収しようとする動きもある。 

 

 金融庁は、長らく続いてきた企業同士の株式持ち合いが、なれ合いを生み、企業価値の向上努力を阻害してきたとして、政策保有株の売却(持ち合いの解消)を求めている。批判なき株主の保有割合が多ければ、企業統治(ガバナンス)が機能しないとの考え方だ。 

 

 実際、企業向け保険で、長年にわたる業界ぐるみの不正が発覚した大手損保に対し、金融庁は24年、不正の温床になっていたとして政策保有株の売却を求めた。損害保険大手4社の政策保有株は合計約6.5兆円規模(時価ベース、23年3月期)に上った。 

 

 持ち合いの解消では、自社の株式が放出されて、市場での流通量が増えれば、需給が緩んで株価に下落圧力がかかりやすくなる。その受け皿として自社株買いが活用される構図だ。 

 

 東海東京の鈴木氏は「政策保有株の解消は29年度ごろまで高水準で続く」ことから、自社株買いのペースは衰えないと指摘する。「政策保有株を売却して得た利益を株主に還元するため、さらに自社株買いが行われるというサイクルにもつながっている」と話す。 

 

 加えて、ニッセイ基礎研の森下氏によると、企業は「相場の下落場面で自社株買いを積極化するなど、市場環境を見極めながら柔軟に対応する姿勢が強まっている」といい、「今年もトランプ米政権の追加関税の発動などにより株価が急落する場面があれば、自社株買いが株価指数を下支えするだろう」とみる。 

 

松田千恵子・東京都立大教授(本人提供)【時事通信社】 

 

 一方、企業の持続的な成長に向けた社会システムなどを議論する経済産業省の有識者会議が今年5月にまとめた中間報告では、自社株買いについて「短期的利益を追求するアクティビスト投資家の要求を受け、成長投資にかじを切るべき企業が、(自社株買いなどの)株主還元を所与のように捉えている例もある」と指摘した。 

 

 有識者会議にも参加する東京都立大の松田千恵子教授(経営学)は「心ある投資家が一番に求めているのは、事業への成長投資だ。それが成功すれば、企業価値が高まりキャピタルゲイン(株価上昇による売却益)を得ることができる」と話す。 

 

 松田教授は、企業が自社の中長期的な事業拡大や成長につながる新たな投資先を見つけることができず、株価が割安な水準にとどまっている場合の対策として、自社株買いを行うことに問題はないと指摘。ただ、企業が稼いだ資金の使い道として、「優先順位の一番は成長への投資だ。経営者はリスクを取る決断をして、事業の将来像について(株主などの)ステークホルダーを納得させる努力をする必要がある」と強調した。 

 

 

 
 

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