( 312419 ) 2025/08/01 06:53:49 1 00 この記事は、日本における外国人労働者の犯罪率やインバウンド(訪日外国人旅行者)の増加が治安に与える影響についての考察をまとめています。
1. インバウンドの増加は犯罪率に影響を与えていない。 2. 外国人労働者の犯罪率が日本人よりも高いのは、主にその属性(年齢や性別)による。 3. 世界的に見ても、若い男性の犯罪率は最も高く、日本の外国人労働者も若年層が多い。 4. 日本人の犯罪率が低下しているのは高齢化が一因である。 5. 外国人労働者の受け入れは必要だが、その影響を理解することが重要である。
また、現行の労働力政策が犯罪の増加を助長する恐れがあり、そのためには適切な管理が求められています。 |
( 312421 ) 2025/08/01 06:53:49 0 00 インバウンドと来日外国人摘発者数の間には、大きな相関は見られないという(撮影:梅谷秀司)
この記事のポイント (1)インバウンドは犯罪率の向上につながっていない (2)外国人労働者の犯罪率が日本人より高い最大の原因は属性 (3)世界的に、若い男性の犯罪率が最も高い (4)日本の外国人労働者のなかでは、若い男性労働者が最も多い (5)日本人の犯罪率が下がっている原因の1つは高齢化である (6)生産性向上を徹底的に進めて、外国人労働者への依存をできるだけ抑えるべき (7)企業の数を守るために外国人労働者を増やすのなら、犯罪の増加を容認するしかない
(8)国籍に関係なく、警察がきちんと対応するべき 先の参議院選挙の際には、外国人の増加を問題視する動きが顕著に見られました。特にインターネット上では、治安の悪化を懸念する投稿が多く、しばしば議論が紛糾しました。
その根拠として、令和6年版の『犯罪白書』が挙げられます。この白書によると、令和5年における外国人による刑法犯の検挙件数は1万5541件と、前年比で2594件(20.0%)増加しました。このデータを基に、治安悪化を危惧する投稿が増加したのです。
まず、議論の前提となるデータについて触れておきます。外国人の犯罪を論じる際に一般的に用いられるのは「刑法犯の検挙人員」の統計ですが、これはあくまで検挙された人に限られるため、犯罪全体の動向を正確に判断するには不十分です。ただし、大まかな傾向を把握する上では参考になると考えられます。
データを詳しく見ると、検挙「件数」は確かに20.0%増加していますが、検挙「人員」は8702人から9726人へと11.8%の増加に留まっています。
過去の推移を見ると、外国人による刑法犯の検挙件数は平成17年(2005年)にピークを迎え、4万3622件(検挙人員1万4786人)に達しました。令和5年(2023年)の数値は、このピーク時と比較して、検挙件数で64.4%、検挙人員で34.2%も減少しています。
直近のデータだけ見れば増加していますが、過去のトレンドも見ると、逆に検挙人員数は大幅に減っています。
もちろん、在留外国人の総数が増えれば、それに伴い犯罪の絶対数も増加する可能性があります。しかし、統計学的には、母数が小さいほど比率が変動しやすくなるため、在留外国人の総数が増加するにつれて、人口に対する検挙人員の比率はむしろ安定、あるいは低下することも考えられます。
そして、実際にそのようになっています。検挙人員数がピークだった2005年には、在留外国人数は201万人でした。2023年には、在留外国人数は2005年の1.7倍に増えているのに、外国人検挙人員数は34.2%も減っています。
在留外国人数に占める検挙人員の比率は、1982年の1.27%をピークに長期的な減少傾向にあり、2023年には0.29%まで低下しました。これは、日本人の比率である0.22%をわずかに上回る水準です。
■インバウンドと検挙数に相関は見られない
インターネット上では、インバウンド(訪日外国人旅行者)の増加が治安を悪化させているとの主張が少なくありませんが、これは大きな誤解に基づいています。
警察庁が公表している統計は、日本に居住する外国人(在日・来日外国人)を対象としたものであり、短期滞在者であるインバウンドは母数に含まれていません。よって、警察庁のデータを出して「インバウンドが増えたから、検挙数が増えた」と主張するのは、明確な飛躍です。
しかも、データを見ても明らかなように、インバウンドが本格的に増加し始めた2012年以降も、外国人による刑法犯の検挙人員はほぼ横ばいで推移しています。
事実、インバウンドが24万5862人にまで激減した2021年でも外国人検挙人員の総数はほとんど変わらず、逆にインバウンドがその102倍に急増した2023年においても、検挙人員は3.4%の微増に留まりました。
インバウンド政策は1人当たり25万円を消費する富裕層や中間層が中心であり、そもそも刑法犯罪を犯しやすい属性とは考えにくいのです。
それでもなお、「外国人住民の犯罪率は日本人より高いではないか」と指摘されることがあります。それは事実です。外国人の犯罪率は統計によりさまざまですが、おおよそ日本人の約1.5倍になっています。
しかし、この点を議論するには、いくつかの重要な背景を考慮する必要があります。
■「若年」「男性」ほど犯罪率が高いのは世界共通
その1つが「属性」の問題です。一般的に、犯罪率は年齢と相関関係にあり、高齢になるほど低下する傾向があります。英国犯罪学会(British Society of Criminology)によれば、犯罪率が最も高くなる年齢層は18歳から30歳とされています。
さらに、犯罪率は性別によっても大きく異なり、男性のほうが女性よりも高い傾向にあります。例えば、FBIの2019年のデータでは逮捕者の72.5%を、イギリスの2023年の統計では78%を男性が占めていました(Statistics on Women and the Criminal Justice System 2023)。
これを踏まえて日本を見ると、国税庁の調査による日本人労働者の平均年齢が44.1歳であるのに対し、外国人労働者の平均年齢は32.8歳と非常に若いことがわかります。特に、技能実習生の平均年齢は27.0歳、特定技能資格では28.8歳です。
つまり、外国人労働者は、犯罪率が高くなりやすいとされる「若年層」「男性」という属性の割合が、日本人全体と比較して構造的に高くなっているのです。
外国人労働者をめぐる犯罪の問題は、突き詰めれば「どのような属性の外国人を、どの程度受け入れ、雇用するのか」という政策設計に起因します。
重要なのは、これらのデータが「外国人の犯罪率が高い」や「日本人の犯罪率が低い」などという単純かつ表面的な結論を示しているのではなく、「犯罪率が高くなりやすい属性を持つ人々が、外国人労働者の中に相対的に多く含まれている」という構造を示唆している点です。
高齢化が進んでいる日本では、その分だけ犯罪率が低下することになります。極論すれば、もし日本人の若年男性が人口に占める割合が高まれば、同じように全体の犯罪率は上昇する可能性が高いのです。逆に、日本人の犯罪率が減っているのは、高齢化が進むことで日本人の若い人の比率が下がっているためでもあると言えます。
■安易な労働力の受け入れで治安が悪化する可能性はある
人口減少が進む日本において、現在の産業構造を維持しようとすれば、外国人労働者の受け入れ拡大は避けられないという結論になります。その中で、労働力として若年男性を多く受け入れるのであれば、それに伴い一定程度、治安への影響が生じる可能性は認識しておく必要があります。
一方で、現在の産業構造を維持すること自体は、絶対に必要なことではありません。例えば、日本人の女性活躍を一層推進することができれば、その分、若年男性の外国人労働者を増やす必要性は低下します。
同様に、国全体の生産性を高めることによっても、労働力の需要は抑制され、外国人労働者を増やす必要性を減らすことができます。
私は以前から、「現在の企業数をそのまま維持しようとすれば、外国人労働者の増加は不可避である」と主張する一方で、人口が減少すれば、学校の数が減るのと同じように、企業の数も減少するのが自然の摂理であることは、子供でも理解できることだと主張してきました。
その道理を無視して現在の企業数を維持したいのであれば、外国人労働者を増やす以外に道はありません。犯罪の増加も避けられないでしょう。
私の主張は、「資源の集約、すなわち企業数の自然な減少を許容すれば、外国人労働者の需要は抑制できる」というものです。しかし、この主張を「中小企業の淘汰論だ」と曲解し、悪質なデマを流布して騒ぎ立てる既得権益層が存在します。
「企業数を維持するために外国人労働者を増やしておきながら、その結果として生じる犯罪の増加を批判する」という態度は、自己矛盾も甚だしく、論理性に欠けると言わざるを得ません。厳しい言い方をすれば、それは自業自得です。
逆に、「犯罪が増える懸念があるから外国人労働者は受け入れるべきではない」と主張するのであれば、その当然の帰結として生じる「企業数の減少」を許容しなくてはなりません。
結局のところ、犯罪は国籍を問わず、等しく犯罪です。法の下の平等に基づき、警察が粛々と対応すべき問題であり、そこに「外国人だから」といった議論が介在する余地はありません。
デービッド・アトキンソン :小西美術工藝社社長
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