( 312981 )  2025/08/03 06:42:43  
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岐阜県の「池田温泉旅館 たち川」が、部屋風呂の温泉水偽装疑惑に直面しています。

高級旅館でありながら、実際には部屋風呂が水道水で、重曹を混ぜることで温泉のように見せかけていたことが従業員によって証言されました。

オーナーのA氏は未納の施設使用料が発覚する前に逃げる形で事業を停止し、現在町は混乱しています。

温泉の管理が厳しい中、客には正確な情報が提供されていなかったことで信頼を損ない、問題が大きくなっています。

(要約)

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「池田温泉旅館 たち川」の部屋風呂に「温泉偽装疑惑」。左はHPより(現在は削除済み)、右は従業員提供 

 

 岐阜県揖斐郡池田町が運営する「池田温泉」。日帰り温泉施設に併設された宿泊施設「池田温泉旅館 たち川」は、食事つきで1人1泊約4万〜5万円ほどかかる、高級旅館だ。 

 

 しかし7月31日、この旅館から人影が消え、入り口には〈事業を停止することとなりました〉という紙切れが貼られていた。「池田温泉」が入る温泉施設の2階と3階で旅館とレストランを経営していた「株式会社たち川」は、池田町に収めるべき施設使用料である約228万円が未納で、町長から督促状を出されていた。オーナー・A氏はこれを納める期限の直前に“夜逃げ”したのだ。 

 

「池田温泉旅館 たち川」の従業員は、この計画を事前に知らされていたという。そしてA氏が主導していた「温泉偽装」についても、赤裸々に明かしたのだった——。【全3回の第2回。第1回から読む】 

 

「池田温泉」は1995年に池田町が掘削した天然温泉。ヌルヌルとした肌触りの泉質が特徴の温泉で、地元客のみならず多くの観光客が訪れる人気スポットだ。 

 

 2003年にオープンした『池田温泉 新館』の宿泊施設部分は「株式会社たち川」が2019年から委託を受けて「池田温泉旅館 たち川」を運営してきた。池田町について知るライターが語る。 

 

「新館施設の1階部分は町営の日帰り温泉施設『池田温泉』で、日帰り客も宿泊客もみんながここに入ります。2階がレストラン、3階が宿泊施設となり、そこを運営していたのが『株式会社たち川』です。 

 

 温泉の特徴は、なんと言ってもヌルヌルのお湯。『池田温泉旅館 たち川』もこの温泉をウリに、“高級志向”でA氏がプロモーションなどに力を入れ、観光客に人気の旅館になりました」 

 

 大手宿泊予約サイトのランキングでは度々1位になるなど、人気宿として評判を集めていた「池田温泉旅館 たち川」。5つの宿泊部屋にはそれぞれに「檜風呂」「信楽焼五右衛門風呂」などこだわりの部屋風呂がついていて、ある宿泊施設の紹介サイトでは次のようなキャッチコピーが踊っていた。 

 

〈全5室だけの岐阜県内で希少な客室内に温泉付き〉〈高純度の天然アルカリ温泉全室に露天温泉風呂完備〉〈東海地区で泊まって良かったお部屋1位! 獲得〉 

 

 1階にある町営の「池田温泉」だけでなく、3階の部屋風呂でも温泉に浸かれると書いてあるのだが——「池田温泉旅館 たち川」の従業員は、こう打ち明けるのだ。 

 

「実は、部屋風呂は温泉を引いておらず、ただの水道水なんです……。部屋の宿泊が決まると、部屋の清掃員がお湯を張り、常備してある計量カップに重曹を入れて、粉が消えるように下からグルグルかき混ぜるんです。 

 

 少なくとも3年前からはやっていて、オーナーは『重曹入れておいてね』と当然のように従業員に伝えますし、私も重曹を入れたことは何度もあります……私はカップに5杯、山盛りの重曹を入れていました」 

 

 

 口コミサイトには、部屋風呂の温泉について「ヌルヌルしていた」など利用客から多くの声が残されている。今年7月下旬にこの温泉を利用したという男性客は、旅館にいたA氏から直接「温泉です」と説明を受けたという。 

 

「到着が遅れ、1階の『池田温泉』が夜10時に閉まってしまったので、『部屋風呂も温泉ですかね?』と旅館の人に聞いたんです。そしたら、『はい、お部屋のほうで温泉を楽しめますよ』とにこやかに対応してくれました。『1階は源泉掛け流しなんですが、3階は循環濾過で、多少ヌルヌル感は違いますが…』などと説明してくれました」(男性客) 

 

 しかし、部屋風呂はやっぱり温泉ではないのだ——「池田温泉」の支配人が証言する。この支配人は、本館・新館を含め温泉施設自体が町営だから、町の職員である。 

 

「3階の旅館内にある部屋風呂は、オープンした時から水道水ですよ。そもそも本館も新館も『池田温泉』は源泉掛け流しではなく、加熱・循環しています。 

 

 部屋風呂が温泉ではないことは、当然、お客様にも伝わっていると思っていたんですが……」 

 

 確かに、1階の日帰り施設である池田温泉自体のホームページには「加温/有 循環/有」と記されていて、利用者が旅館で説明された内容とも異なる。 

 

 前出・従業員の話。 

 

「『池田温泉旅館 たち川』の公式ホームページ上には、実は部屋風呂について『温泉』と明言していません。それでも、いらっしゃったお客様は温泉だと思って来ていますし、オーナーにも『温泉と伝えろ』と言われていました。我々従業員も感覚が麻痺して、そう伝え続けていたんです……」 

 

 公式ホームページ上に掲載されていた旅館部分の部屋風呂の写真は、明らかに白濁して見える。「池田温泉旅館」という名前で、白濁した風呂の写真を見た利用者は、従業員から言われるまでもなく「温泉の部屋風呂だ」と思うはずだ。その点でも、温泉偽装と思われても仕方がない。 

 

 第1回記事で伝えた施設使用料の納入を求める町長からの督促状、従業員への給料未払い、そして「温泉偽装」について、オーナーのA氏はどう答えるのか。 

 

 7月30日の深夜11時ごろ、旅館の荷物をバンに積んでいたA氏を直撃した。 

 

 

——3階の部屋風呂は、温泉なんでしょうか? 

 

「そうです、そうです、そうですよ」 

 

——従業員から、「水道水に重曹を混ぜていた」と証言を得ています。 

 

「(そんなことは)ないです」 

 

——施設使用料の未払いや従業員への給料未払いもあると聞いています。 

 

「全くないです」 

 

 逃げるように車に乗り込んだA氏。その後、真相を確かめるべくもう一度直撃すると、同行していた弁護士が立ち塞がった。 

 

——旅館を閉めることは池田町に伝えているのでしょうか。 

 

弁護士「もう、答える必要あるんですかね?」 

 

——部屋風呂に重曹を混ぜていた件は、本当に違うんですね? 

 

A氏「誰からのリークなの? それ」 

弁護士「まあ、もういいんじゃないですか? 終わるんだから」 

 

——ノーコメントということですか? 

 

弁護士「ノーコメントでいいんじゃないですかね」 

 

 そうして2人は荷物を積み込んだバンに乗り込み、暗闇の中に消えていった。翌朝、旅館の入り口に貼られていたのは、〈事業を停止することとなりました〉という1枚の紙切れだったのだ。 

 

“温泉偽装”については2004年、長野県・白骨温泉で湯に入浴剤が入れられていたことを『週刊ポスト』がスクープすると、環境省が全国の旅館やホテル、公衆浴場の実態調査に乗り出し、複数の有名温泉地で“偽装”が発覚するなど、大きな社会問題に発展した。 

 

 翌年2005年には温泉法が改正され、温泉利用施設は利用者に加温・加水・循環の有無や入浴剤利用の有無などを、詳細に掲示しなければいけなくなった。現在運営されている温泉施設は、厳しい分析と管理のもとで湯が提供されている。 

 

 念のために記しておくが、本館と新館の1階で現在も町が運営中の日帰り温泉施設『池田温泉』は、こうした管理のもと運営されている正真正銘の温泉だ。記者が入ると確かにヌルヌルとして肌触りがいい。本物のヌルヌル温泉を楽しみたい人はぜひ訪れてみてほしい。 

 

 旅館が突然たち消えたことで、池田町は混乱のさなかにある——第3回記事で詳しく報じる。 

 

(第3回につづく) 

 

 

 
 

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