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グンゼ株式会社は2024年に発売した汗対策衣料『アセドロン』が好評で、2025年にはシリーズ累計200万枚を突破した。

特に猛暑の影響で売れ行きが伸び、店舗には多くの客が訪れている。

『アセドロン』は「肌離れ性」が特徴で、消費者の汗に対する不満を反映した商品となっている。

商品開発は消費者の本音を探ることに重きを置き、SNSやECサイトのレビューからヒントを得ている。

また、機能性に対する消費者の期待が高まっており、今後はさらなる改良や新商品展開を目指す方針である。

グンゼは長年の経験を基に、消費者のニーズに合ったソリューションを提供し続けることが重要だと強調している。

(要約)

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グンゼ直営店でも「アセドロン」が目立つ場所に陳列され、複数客が商品を吟味していた 

 

 今年2025年の夏は“異例の暑さ”といわれている。特に7月の猛暑日日数は京都市で24日、舞鶴市(京都府)と豊岡市(兵庫県)は19日、奈良市は17日と西日本を中心に最多記録を更新。8月以降も全国的に酷暑が続く可能性が高い。 

 

 そんな中、2024年3月にグンゼ株式会社が発売した汗対策衣料『アセドロン』が絶好調だ。 

 

 「2025年7月2日にシリーズ累計200万枚を突破したリリースを発表しましたが、その後も勢いが続いています」(同社) 

 

 筆者が東京都内の直営店を視察した際も目立つ場所に陳列されており、30代や40代と思われる複数の客が商品を吟味中だった。 

 

 「特に『アセドロン』はリピートされる方も多いです」(店舗スタッフの話) 

 

 グンゼといえば、品質への信頼性は高かったが、これまでは地道にブランドを展開する企業イメージがあった。今回はそれを大きく変えたと聞く。どんなやり方で行ったのか。 

 

■売れ筋はメンズ:Vネック、レディース:汗取り付き商品 

 

 「『アセドロン』は、“汗の不快をドロンと消し去る”ことから名づけた機能性商品です。インナー(肌着)、靴下、パジャマなどを展開していますが、インナーはそれまで着ていた別の商品からスイッチされる方も多く、パジャマも非常に売れています」 

 

 マーケティング担当の日和(ひわ)崇氏(アパレルカンパニー 営業MD本部 商品企画部 マーケティンググループ マネージャー)はこう話す。 

 

 “まじめな会社”という印象があった中で、攻めたネーミングにした背景は、 

 

 「最終的に50案以上の中から『アセドロン』に決まりました。社内では“クリア◯◯”など、きれいな商品名を推す声もあったのですが、それではインパクトが出ないよね、と。最終的には、日本特有のオノマトペ(擬音語や擬態語)の要素も盛り込んだことで、お化けのロゴとも相性がよく、消費者の頭に残りやすいネーミングにできたと感じています」(日和氏) 

 

 今年6月は全国各地で観測史上1位の高温となった。商品の売れ行きはどうだったのか。 

 

 

 「5月から出足も早く、一時は品薄となりました。もともと暑さ対策を衣類で行う方も多く、当社の調査では約8割がされており、アイテム別で見ると、インナーに期待している方は約67%です」(同) 

 

 『アセドロン』メンズ商品の売れ筋は「【鹿の子】VネックTシャツ」(税込1540〜1760円)で、レディースは「汗取り付きタンクトップ」(同1650〜1870円)だという。 

 

 「メンズではメッシュ素材が好まれ、清涼感のある肌触りと見た目で選ばれていると感じます。一方のレディースは、脇の汗取りパッド付きの需要が高く、夏場はアウターの袖丈も短くなるため、ノースリーブか、袖付きでも2分袖を選ぶ方が多いです」(同) 

 

 仕事関係者の女性は、ブラタンクトップやブラキャミソール(各2200円)にも興味を持っていた。1000円台後半〜2000円台前半という価格帯も支持されているようだ。 

 

■COOLやDRY商品が多い中、消費者の満足度は低かった 

 

 これまで、グンゼの商品開発は「バケツリレー方式」で行うことが多かった。消費者ニーズを探り、素材開発→商品開発→マーケティング→販売と各担当に渡していくような流れだ。 

 

 だが、今回は従来以上に「世の中のみなさんが満足していないこと」(同社)を掘り下げ、そこからヒントを見つけた。 

 

 「インナーの機能として、“COOL”や“DRY”をうたう商品が多く出回る中、着用者の満足度は半数以下だったことが当社の調査でわかりました。一方で、新たな夏対策商品を試したい人は約68%もおり、まずは消費者の本音を探っていったのです」 

 

 商品企画を担当する藤本和彦氏(アパレルカンパニー 営業MD本部 商品企画部 インナーグループ マネージャー)はこう説明する。 

 

 同社は2023年3月に組織再編を行い、日和氏や藤本氏が属する営業MD本部は営業部門と企画部門が一体となって誕生。顧客起点でマーケティングや商品開発を行うようになった。「プロダクトアウト」から消費者目線の「マーケットイン」を目指したのだ。 

 

 

 消費者にグルイン(グループインタビュー)やデプス調査(1対1のインタビュー)を行うのではなく、SNSやECサイトのレビューを中心に“生の声”を探っていった。 

 

■汗のベタつきを解消する「肌離れ性」素材 

 

 その結果、見えてきたのが不平・不満の本音だ。 

 

 「『汗のベタつき』といったキーワードにたどりつき、そこからグンゼがもともと持っていた『肌離れ性』を実感してもらうための商品開発に動き出しました」(藤本氏) 

 

 例えば酷暑の外出先から自宅に戻った後は、「1秒でも早くインナーを脱ぎたい」ものの、「汗が張り付いて脱げない」。電車に駆け込んだ後、「汗を吸った服が身体にくっつく感じがイヤ」といった経験は多くの人が持っているだろう。 

 

 汗の不快感をなくすためには、素材の繊維を構成する特別な糸(製法や加工を施すことで機能性を高める)が必要で、それ以前から素材開発を進めていた。 

 

 「2種類のオリジナル糸を検討したのですが、その1つが珪藻土(けいそうど:藻類の一種)を練りこんだもの。珪藻土のバスマットもあり、これを汗の吸放湿に使うことができると思ったのですが、なかなかうまくいかず、2023年6月に断念。もう1つの珪藻土の機能を模倣した糸で試行錯誤した結果、実用化のメドが立ちました」(同) 

 

 この糸でつくった生地は素早く汗を吸い、肌離れがよくなったが、ここからが正念場。 

 

 「素材開発では延べ100パターン近くの素材の組み合わせを試作し、自社ラボにある人工気象室での商品の体感試験も100回以上実施。圧倒的な価値の創出を目指す中で、2023年9月の新商品展示会(小売店のバイヤーなどを招待して開催する翌年春夏シーズン向けの新商品)直前にギリギリで間に合い、狙った通りの機能性となりました」(同) 

 

■「機能性」に対する消費者の声はシビア 

 

 筆者はさまざまな企業の開発現場を取材してきたが、かなり前から「日本の亜熱帯化」という言葉を聞くようになり、近年は「熱帯化」が近いとすら感じる。 

 

 猛暑における消費者の着心地ニーズはどう変わってきたのか。日和氏は、 

 

 「商品購入の選択肢において『機能性』の優先度が高まり、今や機能性が一番の選択順位だと感じています。そのため消費者の実感値は相当シビアになっており、自分にとって“コスパが高くていいもの”と確信できる商品が選ばれる傾向にあります」と振り返る。 

 

 

 『アセドロン』に関しても好評の声が多い中、「思ったほど汗がドロンとしない」という指摘もあれば、こんな率直な感想も寄せられていた。 

 

 「透湿性・速乾性は高機能スポーツウェアに近いが価格は1/3以下、綿生地より洗濯乾燥も早くメンテナンスもラクです。改良点としては、夏用のシャツの着丈は短めがいい」 

 

 こうした声は商品の進化として大切だろう。マーケティングの現場では「生活者インサイト」(本人が気づいていない潜在的な欲求やニーズを探り出す)という言葉をよく聞く。それも大切だが、いつの時代も「不満あるところにビジネスあり」なのだ。 

 

 “2年目のジンクス”も乗り越えて好調に推移する『アセドロン』の残された課題は何か。 

 

 「衣類における汗対策は夏だけの話ではありません。もうすでにアセドロンの技術と機能を秋冬用に展開し、このシーズンの不満である“汗冷え”を解消するように進化しています。すでに実感の声も届いていますが、私たちもここで完成とは思っていません。 

 

 『肌の一番近く(インナー)の着心地はすべての着心地を左右する』といっても過言ではないので、アセドロンは2.0、3.0と進化して、着心地のインフラ的存在になりたいです」 

 

 このように藤本氏も日和氏も口を揃える。 

 

■「世の中の本音」をキャッチアップし、さらなる進化へ 

 

 不易流行(時代とともに変わるもの・変わらないもの)の視点では、「消費者はどんどん変化する」のは事実だが、一方で「人間の本質はそんなに変わらない」とも思う。 

 

 昔から「クレープ」や「さらし」といった素材はあり、当時の消費者も「さらっとした着心地」を求めてきた。グンゼの肌着は約80年の歴史があるという。 

 

 ただし、前述したように暑さのレベルが変わってきた。インナーの素材は「木綿」が大半だったが、機能性を高めた結果、現在は化繊(化学繊維)が中心だ。 

 

 競合では、アウトドアブランドも「暑さしのぎ」に訴求して積極的に商品展開を行う。 

 

 「メーカーとして技術の進化を追求することも大切ですが、世の中ゴトに対するわかりやすいソリューション、そこに新たな気づきや実感を打ち出す重要性も学びました」(日和氏) 

 

 『アセドロン』という、ベタだけど覚えやすいブランド名で訴求したグンゼは今後、「さらっとした着心地」のさらなる進化系をどう打ち出していくのか。 

 

高井 尚之 :経済ジャーナリスト、経営コンサルタント 

 

 

 
 

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