( 313303 ) 2025/08/04 07:19:12 0 00 トラックドライバー同士の暗黙の了解であった「街道仁義」が、最近では失われつつあるようだ。
日夜、日本の物流を支えてくれている大型トラック。わたしたちの暮らしに欠かせない存在である大型トラックは、人々が寝静まる深夜の高速道路でも途切れることなく、荷物を全国各地に運び届けている。
人間の体とはよくできているもので、昼間にいくら寝だめしようとしても身体の疲労回復度は夜の睡眠と比べて半分程度だという。そんななか、深夜を駆け抜けるというハードワークに従事する大型トラックのドライバーたちを頼もしく思うのはきっと筆者だけではないだろう。
そんな筆者も過去には大型トラックのハンドルを握り、全国各地を駆けまわっていた時期がある。子どものころからトラックが好きだったため、自ら進んでトラック業界に足を踏み入れたのだ。運ぶ荷物の種類はさまざまで、毎日異なる土地へと走ることはたしかに大変ではあったものの、いま振り返ってみるとじつに楽しかったことをよく覚えている。
とはいえ、夜の運転はやはり厳しい。とくに単調な構造の高速道路を走行していると、眠気というものは否応なしに押し寄せてくる。当時は速度抑制装置や430休憩(4時間走行するごとに30分休憩することを義務づけた規則)、さらにはETCもなく、トラックドライバーを取り巻く環境は非常に過酷だった。とはいえ、積めば積むだけ、走れば走るだけ稼げたという時代でもあった。そのため、仮眠を取る時間もないほどタイトなスケジュールがほとんどだったため、歌を歌ったり、自分をビンタしたり、下世話な話で恐縮だが鼻毛を抜きながら走っていたものである。
現在では大型トラックの世界からは退いているが、仕事柄、昼夜問わず高速道路を利用することが多い。そのため、たくさんの乗用車や大型トラックと遭遇するのだが、いまでも大型トラックに対しては、トラックドライバーの間で浸透している「お気遣い」をついやってしまうことがある。ヘッドライトやウインカーなどを駆使して相手と意思疎通を図る、まさにプロドライバーならではの走り方だ。これは「街道仁義」と呼ばれるもので、当時はそんな気配りをしあいながら、お互い気もちよく走ることができていた。
しかし、過去と比較すると、現在の運転技術やマナーの低下が気になって仕方がない。オートマ限定免許が誕生したことで一般ドライバーの質が落ちたといわれているが、それは乗用車に限らず、プロであるはずの大型トラックでも同様で、信じられないような横柄な運転をするドライバーが目立つようになってきた。もちろん、大半の大型トラックドライバーは気もちのいい運転を行っている。しかし、いくら大型トラックに寛容な筆者であっても、腹が立つほどプロ意識に欠けた運転を目にすることが増えてきたのが現実だ。
速度抑制装置の義務化によって、大型トラックの最高速度は時速90kmに制限されている。同じ時速90kmでも、メーカーによって微妙な速度差があり、これがまた厄介である。わずか1〜2km/hの違いで、全長の長い大型トラックが追い越しをかけるのは至難の業だ。再加速が難しいため速度を落とすわけにもいかず、追い越し車線に居座る時間をできるだけ短くしたいという気もちから、前走車にできるだけ近づき、ギリギリのタイミングで車線変更をする心理も理解できる。
だが、高速道路を飛ばしている乗用車との速度差は、サイドミラーで十分に確認できるはずだ。もちろん、速度違反をしている乗用車を擁護するつもりは毛頭ないが、進路妨害と感じられるような車線変更は極めて危険な行為である。しかも、ウインカーと同時にそうした動きを見せる大型トラックも多く、事故を誘発しかねない。そのような意識の低い運転をするドライバーは、もはやプロとは呼べないだろう。
乗用車のようにアクセルを踏んでもすぐに加速せず、ブレーキを踏んでもすぐには止まれない。そんな大型トラックで全国を走りまわるのは、当然ながらストレスの多い過酷な仕事である。しかし、プロである以上、アマチュアである乗用車ドライバーの模範となる走りを心がけてほしいものだ。
お客さまから預かった大切な荷物を積み、ほんのわずかな不注意で他人の命を奪いかねないトラックを運転しているという自覚を常に持ち続けてほしい。プロとしての誇りと責任感を胸に、安全第一でハンドルを握ってもらいたい。そして、消えかけた「街道仁義」の精神をもう一度蘇らせ、誰もが気もちよく走れる道路環境を再び築いていってほしいと願っている。
トラック魂編集部
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