( 313516 )  2025/08/05 05:47:55  
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地方のフードデリバリー事情について、ウーバーイーツや出前館などのサービスは都市部では便利だが、地方では利用が難しい現実がある。

特に地方では飲食店が少なく、配達区域が限られるため、配達員を確保しづらく、サービスの利用が困難。

コロナ禍で需要が急成長したフードデリバリー業界は現在、供給過剰と価格高騰の影響を受け、競争が激化し、出前館の業績が低迷している。

一方、ウーバーイーツは依然として順調だが、都市部偏重の構造が明らかである。

地方におけるフードデリバリーの改善が求められ、真のインフラとしての役割を果たすためには、地域へのアクセス向上が必要であると結論づけられている。

(要約)

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頼みたいときに頼めない……地方のフードデリバリー事情 

 

 「ウーバーで注文をしようと思ったら、配達エリア外だった」 

 

 先日、地方に住む友人にこんなことを言われた。彼の住む街は人口10万人弱。ファストフード店や郊外型の大型ショッピングセンターがあるが、ウーバーイーツや出前館で注文できる飲食店は限られている。 

 

 筆者も東京と香川県丸亀市の二拠点生活をしており、丸亀市の郊外ではフードデリバリーが使えないことも多い。筆者の自宅は駅から4キロメートルほどで、そこまで田舎ではないが、フードデリバリーの配達外の地域となっている。 

 

 東京であればフードデリバリーは使いやすいのだが、筆者が使いたいと感じるのは、むしろ丸亀市にいるときだ。徒歩ですぐに行けるレストランがなく、車に乗るのも面倒なことがあるからである。 

 

 コロナ禍以後、都市部では当たり前のように使われているフードデリバリー。しかし、地方ではあまり機能していないのが現状だ。これは現在のフードデリバリー業界が抱える矛盾と限界を象徴していると感じる。 

 

 新型コロナのパンデミック期に急成長したウーバーイーツや出前館は、当時の社会にとっては必要不可欠な存在だった。しかし現在、フードデリバリー業界は明らかに岐路に立たされている。 

 

 本稿では、フードデリバリー業界が抱える問題について探っていきたい。 

 

 フードデリバリー業界の限界が見て取れるのが、出前館の決算だ。2025年8月期第3四半期(2024年9月~2025年5月)の連結売上高は301億円で、前年同期比で約21%減。営業損失は約31億円で、前年同期比で20億円以上縮小しているものの、依然として赤字が続いている。 

 

 また、2025年8月期の決算予想では、48億円の赤字となる見通しだ。当初は100万円の黒字を見込んでいただけに、大幅な下方修正となった。 

 

 出前館の業績は、この数年で急激に悪化しており、立て直しが求められてきた。決算説明資料を見ると、アクティブユーザー数は2022年から減少し続けており、売上高も減っている。 

 

 出前館の業績が低迷しているのは、競合であるウーバーイーツの存在感が強すぎることも影響している。出前館が業績悪化に直面する中、ウーバーイーツは2桁成長を達成しており、業界トップを維持している。 

 

 そもそも、自転車やバイクで商品を届けるフードデリバリーが広まったのは、ウーバーイーツが上陸してからだ。出前館は1999年からサービスを提供していたものの、存在感は薄かった。街中を「Uber」と書いた大きなバッグを持って動き回る配達員のインパクトもあり、「フードデリバリーといえばウーバー」という強いイメージが形成された。そうした「先行者利益」を得たウーバーイーツのみが、業績を大きく伸ばしたのである。 

 

 実は、同業種のウォルトも今期の決算は赤字で、決して順調とはいえない。「ウーバーの一人勝ち」状態で、業界全体に停滞感が漂っている。 

 

 

 フードデリバリー業界の停滞については、複数の要因が指摘されている。 

 

 まずは「コロナ特需」の終焉(しゅうえん)だ。2020年~21年にかけてのコロナ特需は、フードデリバリー市場を大きく広げた。感染症対策の一環として、外食を控え、自宅での食事が主流になったことで、フードデリバリーの需要が一気に拡大したのだ。しかし2022年以降、行動制限が緩和され、街に人が戻るにつれて、その需要は急激に落ち込んだ。これは注文数やアクティブユーザー数の減少に顕著に表れている。 

 

 そもそもコロナ禍が特殊であり、フードデリバリー自体に大した需要がなかったと見ることもできるだろう。 

 

 こうした需要の減退に拍車をかけたのが、この数年での物価高だ。個人店のみならず、チェーン店各社のメニューもじわじわと値段を上げている。それに伴い、消費意欲が減退。特にデリバリーメニューはイートインよりも高い値段に設定されており、そこに配達人件費も加わるため、割高になりがちだ。 

 

 例えば、マクドナルドは今年3月に価格の改定を行っており、ビッグマックのデリバリー価格は650円から690円に値上げされた。店内価格は480円~であるため、200円ほど高いことになる。配達手数料もかかるため、ビッグマック1つで1000円以上かかる計算だ。 

 

 また、ビッグマックのみを注文するケースはまれであり、ドリンクやポテトも注文すると、1500円近い値段となる。そのため、「気軽に注文しよう」とはなりにくいのが現状だ。 

 

 フードデリバリー関係者の声を聞くと、その構造自体にも衰退の要因があるように感じる。 

 

 ウーバー配達員として実際に多くの配達をこなしながら、その現状を伝えている佐藤大輝氏はこう述べている。 

 

 「2025年6月、その日は雨だった。私は午後7時過ぎに、ウーバー配達員としての稼働を開始した。しかし、依頼が1件もこない。2時間ほど稼働したが、配達依頼はゼロ。1件当たり300~500円ほどの報酬を積み上げていく配達員にとって、『デリバリー控え』は死活問題だ」 (佐藤氏) 

 

 この状況からも分かるように、依頼が減って稼げないために配達員のウーバー離れが加速し、サービスの使い勝手が悪くなることでユーザーも離れるといった「負の連鎖」が起きやすい構造となっている。佐藤氏が書いているのは、業界トップであるウーバーイーツでの事例だ。ウーバーでさえこのような状況であるならば、他社はより厳しいだろう。 

 

 また、フードデリバリーが都心偏重にならざるを得ないことも問題だ。これは、筆者が冒頭で書いたエピソードにつながる。 

 

 フードデリバリーはその性質上、人口が多く、配達員が配達しやすいエリアで、飲食店が集まっている地域で規模を拡大しやすい。特にウーバーが顕著だが、全国47都道府県でサービス展開しているとはいえ、配達エリアはその都道府県の中心エリアに限られていることが多い。 

 

 しかし、こうした都市部や中心部には多くの飲食店が集まっているため、フードデリバリーがなくても食べ物には困らない。そのため、都市部では「生活をより便利にしてくれるオプション」に過ぎないのだ。コロナ禍でフードデリバリー業界が急速に業績を伸ばしたにもかかわらず、その後衰退したのは、「単なるオプション」に過ぎなかったことの表れではないだろうか。 

 

 一方で、フードデリバリーの需要が高いと感じるのが、地方や郊外だ。こうした地域は車での移動が一般的で、ドライブスルーなどを利用する人も多い。しかし、車に乗るのが面倒なときや、体調不良で車の運転ができないときは、フードデリバリーを利用する可能性が高い。「歩いて近くの飲食店に行く」ことが、簡単にできる環境ではないためだ。しかし、こうした地域には飲食店が少なく、配達の依頼も少ないため、配達員が確保しづらい。その結果、フードデリバリーが利用しづらく、飲食に不便な場所のままとなる。 

 

 ウーバーをはじめとしたフードデリバリーが登場した際、「このサービスは生活のあり方を変える」という強い期待感があった。しかし、人やモノが密集していることを前提に成立するサービスであるため、潜在的にあった都心・郊外・地方の格差を際立たせる結果となったと、筆者は思う。もともと便利だった都会はさらに便利になり、郊外や地方は不便なままなのだ。 

 

 この構造的な問題こそが、フードデリバリー業界の停滞感を作っているように感じてならない。 

 

 

 本稿では、フードデリバリー業界が抱える複数の問題点を分析してきた。しかし、ウーバーイーツが業績を伸ばしていることを見れば、「便利な暮らしをさらに便利にしたい」という一定のニーズはあるのだろう。 

 

 フードデリバリーは、生活の中の不便を解消してくれるシステムであり、仕組みさえ整えば、なくてはならない「インフラ」として私たちの生活を変える可能性がある。そのため、フードデリバリーを根本から否定するつもりはない。 

 

 筆者が本稿で指摘したいのは、その構造的な欠陥だ。都市部での利便性を高めるという良い面は残しながら、地方や郊外におけるアクセスの悪さやサービス提供の偏りといった課題を、少しずつ修正していくことが求められる。 

 

 そうすることで、フードデリバリーが本当の意味での「生活インフラ」になり、より多くの人の暮らしを支える存在となる可能性は十分にあるだろう。 

 

(谷頭和希、都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家) 

 

ITmedia ビジネスオンライン 

 

 

 
 

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