( 314383 ) 2025/08/08 05:53:39 0 00 ローソンの小さなゲームコーナー
今では店内で目にする機会も増えたローソンのクレーンゲーム。店内に設置し始めてから3年が経過した。当初は数店舗だけの取り組みだったが、2024年に本格展開を始め、852店舗にまで拡大した。売り上げも目標比で150%となるなど好調だ。なぜ、コンビニのクレーンゲームが成果を上げているのか。
ローソンがクレーンゲームを設置したのは2022年で、京都の店舗オーナーからの提案がきっかけだった。コンビニで新たな顧客体験を創出することで、アミューズメント施設がない地域や、外国人観光客が多い観光地の店舗における来店動機や集客につなげる狙いだった。
当時、クレーンゲーム市場は大きく成長し、日本アミューズメント産業協会によると、市場規模は2012年から2021年の間に971億円増え、2810億円となっていた。2024年時点では3000億円を超えるなど、その後も好調を維持している。
また、同社は単なる景品の販売ではなく「体験価値」の提供にも着目した。カプセルトイのようにお金を入れれば必ず商品が出てくる仕組みとは異なり、クレーンゲームには「遊び」の要素が含まれる。「ゲーム性という体験価値を提供できる点がクレーンゲームの強み」とローソンの山口ゆみさん(エンタテインメントカンパニー、マーチャンダイザー)は語る。
市場の拡大に伴い、景品が充実するようになったことも設置を後押しした。定番のぬいぐるみに加え、ポーチなどの雑貨類もそろえられるようになり、ローソンの売り場をより魅力的にできると判断した。
ローソンのクレーンゲームは、店内の空いたスペースを使って設置している。既存の商品棚を撤去したり、売り場を狭めたりする必要はない。筐体(きょうたい)はアミューズメント事業のタイトー製で、景品の補充やメンテナンスも基本的にタイトーが担当する。
プレイ料金は全国一律で1回100円。1台に4本のクレーンがあり、標準で2台を設置して合計8種類の景品を展開する。
設置は、店舗側から希望を募り、立地などを選定したうえで進めている。店舗側には運営における追加のコストが発生しない仕組みとした。
リスクなしで新たな収益源を得られる点も、クレーンゲーム設置店舗が増えた要因の一つといえる。
当初から、「コンビニにクレーンゲームがある」という意外性が話題を呼んだ。2024年からの本格展開後は、身近なコンビニで気軽にゲームを楽しめる点が評価され、認知度が向上。設置店舗を拡大したこの1年間の売り上げは、目標比で150%となった。
中でも、観光地にある店舗での利用頻度が高い。特に外国人観光客が多いエリアが好調で、「マリオ」などの日本のキャラクターを使った景品が人気となっている。
クレーンゲームの設置は、来店動機の創出にもつながったようだ。買い合わせ効果の詳細な分析は難しいと前置きしつつ、同社の広報担当者は「クレーンゲームを目的に来店した客が、買い物もしていくケースが多い」と説明する。
コンビニ事業において重要な「ついで買い」を促す新たな要素として、クレーンゲームが機能していることがうかがえる。
今後の課題は「ローソンらしさ」を展開していくことだ。現在は月1回のペースで景品を入れ替えているが、プライズメーカーが製造する一般的なアイテムが中心となっており、ゲームセンターで手に入るものと大きな違いがない。継続的な利用を促すためにも独自性を打ち出す必要がある。
そこで、同社はオリジナル景品の導入も検討している。ローソンでしか入手できない限定景品を定期的に提供できれば、リピーターの確保につながり、継続的な集客効果が期待できるという考えだ。
コンビニ業界では各社が独自の差別化に取り組んでいる。ファミリーマートがアパレルの「コンビニエンスウェア」、セブン-イレブンがデリバリーサービス「7NOW」で好調な成果を挙げる中、ローソンはエンタメコンテンツや体験を軸に新たな価値提供に取り組んでいる。
ローソンのクレーンゲームは、同社が推進するエンタメ戦略の一環だ。一番くじの販売に加え、ローソンエンターテインメントやローソン・ユナイテッドシネマなど、グループ全体で幅広くエンタメ事業を展開している。山口さんは「エンタメコンテンツは概ね好調」と手応えを語る。
特に地方において、ローソンがエンタメ拠点として持つ価値は大きい。大都市圏に比べ、地方では商業施設や娯楽が限られていることが多い。こうした環境では、24時間営業のコンビニがエンタメとの接点となる。過疎地域の店舗では「中心街まで車で時間をかけて、グッズやチケットを買いに行かなくて済む」といった声も寄せられるという。
食品や生活必需品の購入、公共料金の支払い、そしてクレーンゲームをはじめとするエンタメ体験まで、一つの店舗で完結する「ワンストップショップ」としての環境づくりを目指している。
2025年度中に、クレーンゲームを1000店舗に設置することを目標としている。現在は852店舗(2025年6月末時点)まで拡大しており、目標達成は現実的だ。今後は、店舗数を増やすだけでなく、オリジナル景品の開発などでゲームセンターとの差別化も進める方針だ。
当初は実験的に始めた取り組みだったが、いまでは店舗の新たな収益源として定着した。近年は「コト消費」や「推し活」に代表されるように、買い物以外の体験に価値を感じる人が増えており、クレーンゲームもその流れに乗った形だ。
ローソンでは、7月から千葉県内の一部店舗で車中泊施設「RVパーク」の実証実験も始めた。空きスペースを活用した新たな取り組みは続いており、今後も店舗の役割は広がりそうだ。
(カワブチカズキ)
ITmedia ビジネスオンライン
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