( 315641 )  2025/08/13 03:25:43  
00

広陵高校は、2025年8月10日に甲子園の出場を辞退することを表明した。

この決定は、校内で発生した暴力事件を受けたもので、被害者の関係者がSNSで詳細を公開した後に、世間からの批判が高まった結果であった。

学校側は内部調査を実施したが、軽い処分にとどまっていたため、外部からの反応に対する危機管理が問われる事態となった。

 

 

記者会見では、校長が生徒の安全を最優先とする理由で辞退を決めたことを説明したが、反応は冷ややかだった。

多くの人々は学校や関係者の責任逃れと感じ、その結果、さらなる批判を呼び起こした。

特に、不正行為の隠蔽や初動対応の不備が世間に許されないことが強調され、今後の影響として志望者数の減少が懸念されている。

学校は自らの体質を改善し、暴力や人権侵害を二度と繰り返さないよう努める必要がある。

 

(要約)

( 315643 )  2025/08/13 03:25:43  
00

出場辞退について記者会見する広陵高校の校長ら=10日、兵庫県西宮市(写真:時事通信フォト) 

 

■広島・広陵高校が甲子園を辞退するまで 

 

 2025年8月10日。広陵高等学校(広島)の校長らが全国高校野球選手権大会本部を訪れ、次戦の出場辞退を表明した。 

 

 さかのぼること2025年1月。同校の野球部寮で暴力事案が発生した。現時点では確定していないものの、当時1年生だった部員がカップ麺を食べたことで、複数の2年生部員から暴行を受けた。 

 

 伝えられるところによれば、それら複数の加害者が一方的に、胸部や腹部への殴打、頬への平手打ちといった身体的暴力を振るった。事件直後、保護者が学校側に連絡を入れたものの、被害者にとってみれば、チームを優先したように映った。 

 

 学校側も何もしなかったわけではなく、内部調査を行い2月に広島県高等学校野球連盟を通じて日本高野連に報告した。ただ、広陵高校に対しては「厳重注意」にとどまった。大会への出場資格を維持できた。加害生徒たちは一定期間の公式戦出場停止だけの処分だった。 

 

 そこからは世間が知るとおりだ。 

 

 7月に被害者が県警に被害届を提出した。さらに8月上旬には、被害者の関係者(と名乗る方から)SNSで事件の詳細な内容が投稿された。その内容があまりに生々しく詳細で、性的強要の内容も含まれていた。 

 

 まったくの虚偽告発であれば学校側も完全否定していただろうが、学校側は事件の存在を認め、しかしながら矮小化する説明に終始した。少なくともそう感じたひとは多かっただろう。 

 

 そして2023年に起きたとされる、別事案が調査中であると明らかになる。そうなると2025年1月の事案も、偶発的な不祥事ではない可能性が高くなる。一気に世間からの批判が強くなった。結果、冒頭の8月10日に次戦を辞退。記者会見の運びとなった(なお現時点では2023年の事案について学校側は否定)。 

 

 なお、ここから記者会見の問題点等を記載していく。 

 

 ただ選手名、校長名、野球部監督名等の固有名詞は趣旨ではないので省こうと思う。あくまで事象や構造としての説明としたい。 

 

 世の中には、体育会系嫌いのひと(私のことだ)やイジメを受けていたひと(私のことだ)がいて、自己の人生の嫌な思いを重ねて、広陵高校の野球部関係者の実名をさらして批判しているひとがいるだろう。 

 

 気持ちはわからなくはないが、まだ刑事事件として確定したわけではない。人権を侵害した人物を責めたい気持ちもわからなくもないが、さらしによって次の人権侵害を生まないようにしたいものだ。 

 

 

 また、批判された野球部関係者が最悪の選択肢をとらないように願う。 

 

■記者会見について 

 

 なお、被害者の関係者(と名乗る方から)によるSNSでの発表は、ものすごいタイミングだった。一回戦目から出場停止したとしたら加害側に報いを受けさせることになるし、そのまま出場したとしても全日本中に加害側の顔をさらすことになる。そして現実には、世間に顔をさらして、さらに次戦の辞退という結果になった。 

 

 10日、広陵高校の校長が記者会見を開いた。私も全編を視聴した。校長は、事案と無関係な生徒をSNS等でさらさないようにと訴えていた。個人的にここは気になって、「加害側はさらしてもいいのだろうか」「またSNSに投稿する一般人は、どうやって無関係な部員と関係する部員を判断できるのだろうか」と思った。それならば、あらかじめ加害の部員のみを出場停止したほうがよかった。 

 

 辞退の理由は、不正事案の反省や新事案の発覚ではなかった。「生徒、教職員、地域の方々の人命を守ることが最優先」だった。激化する誹謗中傷、生徒への追いかけ行為、そして寮への爆破予告といった脅威から、「苦渋の決断」だったともした。 

 

 学校側が辞退の理由に「ネットからの誹謗中傷からの生徒保護」を前面に押し出したことは、注目に値する。そして、さらに炎上した。繰り返すと、私は不確定の情報をもとに実名をさらして批判はしないほうがいいと思う。ただ事実として、今回の会見はさらに炎上を重ねた、ということだ。 

 

 その理由は、「危機の原因である初動対応の不備、組織の体質を説明せずに、自らの学校を『過激な世論の被害者』として描き出したいのだな」と世間が感じた点にあった。私は会見を視聴しはじめたときに「あれっ、被害側への謝罪がないのか。これは燃えるだろうな」と感じてしまった(なお同校は「教育は愛なり」の精神を大切にしているという)。 

 

 どこか、記者会見のための、戦略的な危機管理術と思ったひとが多かっただろう。どこか責任転嫁の構図を嗅ぎ取ったひともいただろう。今回の辞退のきっかけが、内部の暴力と軽視した組織の判断だったのに、“外部からの反応”から逃れるためとしたのだ。 

 

 

 そういったものがにじみ出た結果、「自分たちに責任はない」と視聴者に感じさせた。それどころか、「逆ギレか」といった論調も生まれてしまった。 

 

■私たちへの教訓 

 

 ここから教訓を引き出してみたい。 

 

 (1)隠蔽を世間は絶対に許さない 

 

 世間がもっとも許さないのは、不正行為そのものより、なんとか隠そうとする態度なのだろう。3月に「厳重注意」になった暴力事件は、その時点では大会出場を揺るがす問題にならなかった。SNSで隠蔽疑惑が告発されたあとだった。 

 

 なお、高校と同時に、高野連と大会主催者である朝日新聞社も会見を開いた。おなじく炎上している。それも同じ理由だったのではないか、と私は考えている。彼らは学校の判断を受け入れ「学校として一つのけじめとして出場辞退を選ばれた」とした。 

 

 新たな事実が明らかになったわけではない。とすれば、大会出場前に辞退を伝えるべきだったということになるはずだ。不思議な会見だった。 

 

 もちろん、本音では「もともと、出場していいんじゃねえか、と思っていたけど、世間が騒いでいるから、辞退もやむなし、としかいえませんなあ」というものだろう。加害事案はさほど問題と感じていなかったはずだ。おなじく隠そうとする態度がマイナスの評価を与えたのだ。 

 

 (2)不祥事対応に「完璧」はないが「最大限か」は重要だ 

 

 高校側は、早い段階で内部の再発防止策を実施した。しかし、SNS上で追加の告発情報が浮上するたびに、後追いで調査を実施した。もしかすると学校側に同情するひともいるかもしれない。また、すべての事案に学校側が完璧な対処をすることは難しいと語るひともいるだろう。人員数の不足もあるかもしれない。 

 

 しかし、おそらく社会から求められているのは「そのタイミングで最大限の、できることをやったか」ということだ。その対応が完璧だったかは問われない。ただ、当時の体制(態勢)で、聞く側も納得するような、できることはすべてやったか、が問われている。 

 

 

 (3)行為そのものは傷害であり、人権侵害である 

 

 一部の報道によれば加害者は4名であり、野球部の組織的な犯行とみなすかは議論がわかれる。また、対外試合禁止処分は、おおむね違反部員が10人以下程度とされており、基準以下といえなくもない。しかし一般人からすると、人権侵害をする人数は何人であっても大きな罪に映る。 

 

 今回の事案がほんとうであれば、傷害である。犯罪者は試合の出場にふさわしくない。その意味で、連帯責任ではなく該当部員を出場停止にしていれば大きな問題にならなかっただろう。そもそも人権蹂躙をしてまでも出たい大会はあっていいのだろうか。これからもどんどん内部告発で浄化していくことを望みたい。 

 

■もう1つの教訓は… 

 

 (4)この一件で志望者数が激減する可能性 

 

 高校の立場からすれば、「間違っているのは世間であり、批判が筋違いだ。だから、会見の場で被害側に謝罪する必要はない」と思っているかもしれない。 

 

 ただ、私たちは現実に生きる人間である。社会や世間が間違っていても、対峙せねばならない。高校の入学志望者数が減少する可能性がある。おなじく入試を“辞退”しようと考える受験者は少なくないだろう。 

 

 今回話題になった高校は私立高校で、生徒たちの授業料や、志望者による受験料などで運営されている。「傷害を、隠蔽する体質の学校だ」と世間から思われた今、どれだけの人が志望して受験するかはわからない。守るべきものを守るために辞退したのではない。守れなかったものを隠すために辞退したのだ、と思われては学校運営に支障をきたすということだ。 

 

 一度醸成された“隠蔽の印象”は長く尾を引くものである。価値としていえば、広陵高校は今後の暴力事件の抑止として作用するのは間違いない。ネット部「炎上甲子園」で優勝した事実は、おそらく全国の野球部に教訓を与えたはずだ。 

 

 次の甲子園は、タイムラインよりもグラウンドを白熱させたい。 

 

■その他の画像 

 

坂口 孝則 :未来調達研究所 

 

 

 
 

IMAGE