( 316006 ) 2025/08/14 05:17:30 1 00 マクドナルドが販売予定だった「ポケモンカード付きハッピーセット」が初日に転売ヤーによって大量に購入され、店舗から姿を消した。
企業は顧客、従業員、地域社会に対しての責任を果たすべきであり、今後は購入者の満足度を考慮した対策が求められている。
筆者は、転売防止策を企業と社会全体で考えることが重要であり、企業がその提案に積極的に耳を傾けるべきだと提言している。 |
( 316008 ) 2025/08/14 05:17:30 0 00 ポケモンカード付きハッピーセットの転売問題に、「企業の社会的責任」等の観点から迫る(写真:ponta2012/PIXTA)
マクドナルドで2025年8月9日から11日までの3日間で販売予定だった「ポケモンカード付きハッピーセット」が、9日早々に各地の店舗から姿を消して波紋を広げている。
買いたい人が初日に買ったから……ではなく、いわゆる転売ヤーたちの行動が原因だ。
そして、転売ヤーへの批判を経て、現在ではマクドナルドへの批判が巻き起こっている。
■抑止策を講じたものの…転売や食品の廃棄が相次いだ
今回の商品について、マクドナルドではフリマアプリのメルカリと連携し転売抑止をはかり、さらに一人5セットまでの購入と制限し、また食べ残す量を注文しないように良心に訴えてはいた。
しかし、結果としては大量の転売と、食品の無断廃棄などが見られた。
継続反復する転売を営むケースでは古物商許可が必要だ。ただし、転売は法律上、かならずしも禁止されているわけではない。ただ、地域社会との共生や、フードロス低減をPRしていた同社が、食品廃棄の動機を与えてしまった事実に批判が殺到した。純粋なファンの需要を満たせなかっただけではなく、苦情を受けてしまったかっこうだ。
ただし、本事件の詳細や顛末について書かれた記事はあふれているため、本稿では企業の社会的責任の観点等、違った確度から論じたい。
■企業に課せられた新たな責任
同社は8月11日に当事件について文章を公表した。そこでは以降の厳格な転売対策について説明された。販売個数制限をより厳しくすること、モバイルオーダー等での制限、ハラスメント顧客への販売拒否などが発表された。
世間からの声を受けてすぐさま公表したのは一定の評価ができる。転売ヤーにとってハッピーセットの食品部分を捨てるのは、ある意味で経済合理性があった。1万円のものが1円で売られているとしたら、バイトを雇ってでも並ばせ、そして食品は廃棄するのが近道だ。
もちろんこんなことは良心があったらやらない。ただ、倫理的に欠如したひとたちは合理的に、そのようにするだろう、ということだ。そして実際にやった。その結果、ネット上では「子どもが買えなかった」「得をしたのは外国人転売ヤーだけだ」「店員も見過ごしていた」などの声があふれ出た。
同社はカード販売会社ではなく、食品販売会社である。しかし今回のプロモーションによって食品廃棄という反社会的な行動を引き起こしてしまった。
そこで同社が文章のなかで、食品の廃棄や放置、店舗の混乱を認めて謝罪した。ただ私が注目したのは、顧客だけではなく、店舗のクルー、近隣住民、そしてテナントオーナーにいたるまでを謝罪先とした点だ。
おおげさにいえば、これは企業が自らの活動によって生じる影響を、より広範囲に考えるべき時代の象徴のように感じた。企業に新たな責任が生じている。
古い責任の時代には、企業はもしかすると法令を守ればよかった。それが現代では、かかわるすべての人たちをできるだけ配慮し、持続可能な社会に寄与できるよう努めねばならない。
■責任のおよぶ先は?
では今回、マクドナルドが果たさなかった責任とは何か。主だったところでは3つ指摘できる。
①顧客に対する責任を果たさなかった
まずは①顧客に対する責任は強調されていい。
このところの消費者は、企業が皮相的に述べていることと、実際の行為の差異に敏感だ。もっといえば偽善を感じ取る、といってもいい。自社商品を真に求める顧客に対し、適切な価格で販売することを謳う企業がいる。
そんな彼らが転売ヤーによって希望商品を購入できず失望が生じたのであればどうだろうか。企業が自ら述べている優先顧客をあとまわししたことになる。これは法律の問題ではなく、言行一致の問題だ。
②従業員に対する責任を果たさなかった
次に②店舗のクルーに対する責任だ。企業は従業員に安全で衛生的な労働環境を提供しなければならない。従業員だから、雇用関係のある方々だけではなく、常時使用する方々を含む。
しかしSNSでの動画を確認するかぎり、罵倒やクレーム、そして威圧的な態度に出る顧客がたくさんいた(顧客同士の喧嘩もあったが)。店舗クルーの心痛は相当なものだったと想像できる。
同社が労働関係法令の違反行為をしていると、ただちに断定するものではない。しかし店舗クルーに肉体的かつ精神的な過度なストレスを与えることは、これからより避けなければならないだろう。なにより継続的な雇用や求人にマイナスの影響は避けたほうがいい。
③地域社会に対する責任を果たさなかった
さらに今回は③地域社会に対する責任も言及があった。企業は一般的に、取引と雇用によって地域社会に貢献する。取引では、その地域の製品・サービス・役務を調達することで経済を活性化する。
しかし今回、テナントというサプライヤーに対して迷惑がかかり、場合によってはゴミ処理費用の負担や時間が生じた。企業の事業活動が負の影響を及ぼさないように、事業活動の影響を想像する必要があっただろう。
■論調も「転売批判」から「マクドナルド批判」へ変化
さらに私が注目したいのは、SNSだけではなくメディアも含めた世論の変化だ。当初では転売ヤーを批判する声が多かった。しかし、そこから急速にマクドナルド側の対応を疑問視する声が多くなった。8月9日にも同社は声明文を発表したが、具体的な改善の施策が書かれていなかったのだ。
さらに、過去に同様のトラブルがあったことも顧客に思い出させた。2025年5月の「ちいかわ」ハッピーセット問題だ。このときも顧客が殺到し、さらに転売が話題になっていた。この教訓が生かされていないとする意見があった。
さらに同時期に任天堂はスイッチ2の販売にあたって、転売業者が入らないように、元からの有料会員を販売の中心ターゲットとした。転売ヤーはゼロではないが少なかった。多くのひとは、両社の対照的な対応を思い出し、マクドナルドの対策の不備を表明するようになった。
このように、転売ヤーへの批判が、いつのまにかマクドナルドへの批判という形になってあらわれた。
事前の対策が真剣じゃないように感じた顧客もいたようだし、また、フードロスを喧伝しながら利益を優先していると感じた顧客もいたようだ。企業内部の意思決定に踏み込んで批判する声もあった。
■これからの対策
もちろん「会社は転売ヤーと無関係なのだから責任をとれない」といいたくなる企業人もいるだろう。
しかしこれは中長期的なブランディング維持、という実利的な側面からも対策が求められる。また自社の理念「商品を本来、届けたい顧客に販売する」に忠実になるためにも、積極的な役割を果たす必要があるのだろう。
ありとあらゆる商品に年齢確認や事前抽選などは難しいかもしれない。しかし社会が見ているのは、特定の人気ある商品について「できうる限りの対策を講じたか」だろう。店員が何人いても不可能な対策を顧客が期待しているわけではない。
私たちは現在、格差社会のなかにいる。実際に格差が広がっているかどうかは、さまざまな統計があるので真偽はそちらに譲る。しかし、真偽よりも、格差社会のなかで虐げられている、という感情をもちやすくなっている点が重要だ。
となると、一部の“ズルいひとたちが、キャラクターを使って金儲けしている”、“さらにそれを煽っている企業がいる”という感情をもち嫌悪感につながる。だからこそ、今回のハッピーセットが社会的問題・関心事になったのではないだろうか。
そして、前向きに転換するために、筆者なりの提言も。それは、「もし転売を防ぐ奇策があれば、企業に積極的に提案してみてはどうだろうか」ということだ。
低コストで確実に実施できる内容であれば企業も検討する。そうやって社会全体で考えることこそ、そもそもの企画である「子どもの笑顔のため」に近づくだろう。せっかくだから社会全体で知恵を出すようにしたい。
坂口 孝則 :未来調達研究所
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