( 316021 ) 2025/08/14 05:34:48 1 00 百貨店業界は衰退傾向にある中、高島屋は業績が好調で、2025年2月期には17年ぶりに売上高が1兆円を超える見込みです。 |
( 316023 ) 2025/08/14 05:34:48 0 00 出所:ゲッティイメージズ
百貨店業界の衰退が長期的に進んでいるが、高島屋の業績は堅調だ。
総額営業収益(旧会計基準の売上高相当)は、2020年2月期の9191億円から、コロナ禍の影響により翌年度には6809億円まで減少したが、その後に回復。2025年2月期には17年ぶりに1兆円を突破した。同期には、新宿店が初となる売上高1000億円も達成している。
西武などの電鉄系百貨店は、閉店が相次ぎ規模を縮小し続けている。小田急の新宿本店も跡地に出店するかは未定としているが、業界内でなぜ明暗が分かれたのか、理由を探っていく。
高島屋のピーク時売上高は1992年2月期の1兆3605億円だ。その後は減少し続け、コロナ禍では大きく落ち込んだ。そこから1兆円台に回復している。2023年2月期で既にインバウンドを除く国内顧客売上が2019年度の水準まで回復しており、翌年度以降は高額品の売り上げが伸びるとともに、インバウンド売り上げの増加もけん引した。
店舗別でみると、2024年度の売上高は大阪店が1809億円と最も大きく、日本橋店(1605億円)、横浜店(1424億円)、京都店(1115億円)、新宿店(1000億円)が続き、この5店舗で全店売上高の8割を占める。
特に大阪・京都・新宿の3店舗は前年比13%超のペースでの増収となった。顧客別では、通常の来店客が全体の60%を占め、外商が25%、インバウンドは15%である。大阪店はインバウンドが3割を占め、外商を上回る。
全社売上高は1990年代の水準まで戻っていないが、営業利益は575億円で過去最高を更新した。外商やインバウンドは富裕層がけん引し、高額商品の増収で利益率が改善したと考えられる。
百貨店業界は高島屋のように呉服屋を祖業とする「呉服屋系」と、鉄道会社が運営する「電鉄系」に分類できる。同じく呉服屋系の三越伊勢丹ホールディングスは近年好調で、伊勢丹新宿本店の2024年度売上高は前年比12.1%増の4212億円となった。全国の百貨店でトップの規模を誇る。
対する電鉄系百貨店の業績は芳しくない。西武百貨店は2003年にそごうと合併し、2009年から2023年までの間、セブン&アイ・ホールディングス傘下で営業を続けたが、縮小の一途をたどり、地方や郊外で閉店が相次いだ。電鉄系ではないが、そごうも同様に店舗を相次いで閉鎖。柏、八王子、川口、徳島店などが対象となった。そごう・西武は現在、米ファンドのフォートレス傘下にあり、西武池袋本店の不動産はヨドバシホールディングスに渡った。
小田急百貨店は他社ほど多店舗展開していないため閉店が目立たないが、業績が悪化している。小田急電鉄の百貨店業売上高は2015年度の1537億円から、2018年度には1428億円となり、2020年度はコロナ禍で863億円となった。その後は会計基準変更のため単純比較できないが、2022年10月の新宿店本館の閉店に伴い、大幅に減少している。
新宿店本館の跡地には高さ260メートルの高層ビルが建つ予定だ。しかし、低層階に小田急百貨店が出店するかは未定としている。新宿では小田急百貨店の閉店後、顧客が高島屋や伊勢丹に流れており、再出店しても戻ってくる見込みは小さいと考えられる。東急も2023年に閉店した渋谷本店跡地に百貨店を再出店しない方針だ。
百貨店の市場規模は1991年の9.7兆円をピークに減少し続けている。2010年代から6兆円前後を推移し、コロナ禍で4兆円台まで縮小した。2024年は5.7兆円台である。高級なイメージが強いため、バブル崩壊や「失われた30年」とともに嘆かれる百貨店の現状だが、衰退の主要因は中間層離れだ。
百貨店の売り上げで多くを占めるのが衣類や靴、財布、化粧品などの「身に着ける」商品である。当時の衣類は現在よりも高価なものであり、中間層も百貨店で購入していた。かつて店舗の屋上にファミリー層をターゲットにしたテーマパークがあったように、百貨店は現在のイオンのような存在だったといえる。
だが、1990年代からダイエーなどの総合スーパー(GMS)が台頭。ユニクロやしまむら、洋服の青山など各ジャンルに特化した「カテゴリーキラー」も郊外で勢力を伸ばし、百貨店から中間層が離れた。製造小売業(SPA)の業態を採用するカテゴリーキラーは衣類単価の下落をもたらした一方、品質も向上させ「安かろう悪かろう」の印象を与えなかった。
中間層が離れるなか、百貨店業界は富裕層やインバウンドへの依存度が高まり、呉服屋系と電鉄系の明暗を分けた。富裕層やインバウンドはそもそも大都市圏に集中しており、一等地に店舗を構える高島屋などの呉服屋系は集客に有利だ。近年は富裕層が増えており、インバウンドの増加も著しく、追い風が吹く。一方で西武のように郊外が主軸の電鉄系は富裕層を取り込めず、中間層離れによって、業績が長期的に低迷した。
二極化が進む百貨店業界では、勝者と敗者で異なる戦略をとっている。苦戦する電鉄系でみられるのが、カテゴリーキラーの誘致だ。テナントにユニクロやノジマなどを入居させ、中間層の集客を進めてきた。
だが、このような施策は富裕層離れや、ラグジュアリーブランドの撤退にもつながる。ブランドイメージの低下をもたらしかねない施策だ。旧そごう川口店のように、自社で再生できない店舗を他社に売却する事例も相次ぐ。
対する勝者組は富裕層向けの強化を進めている。新宿高島屋では高級ブランドフロアの改装や、ゴルフ売場の拡大などを進めた。2024年には富裕層の運用助言会社を買収した。三越伊勢丹ホールディングスは2022年に「外商統括部」を新設。伊勢丹新宿本店と三越日本橋本店で分かれていた外商部門を統一し、品ぞろえや営業体制を強化した。二極化が進む業界において、勝者の百貨店は庶民にとってますますハードルが高くなっていくかもしれない。
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
ITmedia ビジネスオンライン
|
![]() |