( 316231 )  2025/08/15 04:43:38  
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北陸新幹線の延伸計画が困難に直面している。

最近の参議院選挙で、維新の会の新任候補がトップ当選し、自民党の西田昌司氏が辛勝を収めたが、北陸新幹線延伸問題が焦点となった。

敦賀から新大阪への延伸ルートは小浜・京都ルートが決まっているが、反対意見が増加し、特に建設費が大幅に膨らんでいることや環境への影響が懸念されている。

一方で、米原ルートの再検討が求められており、西田氏自身もその検討を指示したが、地元自治体は強い反発を示している。

選挙後の議論は進む可能性があるが、各地域の立場から利害調整が必要で、建設の必要性や費用対効果を含むしっかりした議論が求められている。

(要約)

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延伸計画が頓挫する北陸新幹線 

 

 7月に行われた参議院議員選挙で激戦が繰り広げられた京都選挙区。日本維新の会の新人候補がトップ当選を果たし、これまで強さを見せていた自民党のベテラン議員が当落線ギリギリの戦いを強いられた。この選挙戦で、にわかに争点となったのが『北陸新幹線の延伸問題』だ。 

 

 去年、金沢~敦賀間が延伸開業した北陸新幹線。敦賀より西のルートは、9年前に『小浜・京都ルート』で決まったにもかかわらず、建設費や工事への懸念から、沿線として駅ができるはずの京都市で「反対」の声が次々と上がり、一度は廃案となった『米原ルート』が再燃している。混迷をたどる北陸新幹線の行方は―。(報告=阿部頼我) 

 

参院選で辛勝した西田昌司氏 

 

 7月20日、参議院議員選挙の投開票日。日付が変わろうというころ、報道各社から、京都選挙区の2枠目『当選確実』の4文字が一斉に伝えられ始めた。 

 

「想像以上に厳しい戦いでした」 

 

 安堵をにじませながらもやや険しい表情で語ったのは、4期連続当選を果たした自民党の西田昌司氏(66)。過去2回は余裕のトップ当選を果たし盤石の選挙体制を築いてきた西田氏だが、今回の参院選では、沖縄の『ひめゆりの塔』をめぐる発言や自民党への逆風などで一転して苦しい戦いを強いられ、動画で「助けてください」とメッセージを配信するなど、なりふり構わぬ選挙戦で薄氷の勝利を手にした。 

 

小浜・京都ルートと米原ルート 

 

 西田氏にとって痛手となったのが『北陸新幹線延伸』問題だ。 

 

 2024年3月、石川県の金沢駅から福井県の敦賀駅までが延伸され、東京と北陸が新幹線で“一続き”となった。一方、敦賀駅から新大阪駅までの延伸については、2016年に福井県小浜市を通り京都府内を縦に南下する『小浜・京都ルート』に決まったものの、その後、詳細なルートや具体的な駅の位置などは決まっていない。 

 

 これまで西田氏は、与党整備委員会の委員長として計画推進の主導的な役割を果たし、2025年度の着工を目指して、去年12月までにJR京都駅の地下を通る『東西案』と『南北案』、JR桂川駅周辺に駅を作る『桂川案』の3案の中からルートを決定する予定だった。 

 

 

仏教会による計画見直しの申し入れ(去年12月) 

 

 ところが、西田氏の地元である京都市民や業界団体から、このタイミングで次々と反対の声が上がる。当初は約2.1兆円とされていた建設費が、資材高騰の影響などで3.4~5.3兆円程度(試算)まで膨らみ、新幹線開業による費用対効果が疑問視されていることに加え、地下水や残土処理など環境への影響の懸念が高まったためだ。特に京都の仏教会は「千年の愚行」と切り捨て、計画の見直しを求める申し入れを行った。 

 

 ルート案は『南北案』『桂川案』に絞られたものの、今年6月には京都市議会において、大深度のトンネルが通る予定の現行の『小浜・京都ルート』に反対する決議が維新・共産会派などの賛成多数で可決されるなど、地元の反対は根強い。 

 

京都選挙区でトップ当選した維新・新実氏 

 

 そのような状況で迎えた7月の参議院議員選挙。 

 

 「北陸新幹線延伸そのものを廃止すべき」と訴えた共産党の現職候補や、敦賀駅と滋賀県の米原駅をつなぎ、東海道新幹線へ乗り入れる『米原ルート』の再検討を訴える維新の新実彰平氏など、三者三様の訴えを見せた。 

 

 『米原ルート』は、建設区間が『小浜・京都ルート』の3分の1程度で済み、費用も工期も大幅に少なく済むメリットがある。しかし、東海道新幹線とのダイヤ調整の難しさや迂回路としての機能が担保できないなどの指摘から、9年前の決定では『小浜・京都ルート』が優先された形だった。 

 

2番手に滑り込んだ西田氏 

 

 選挙期間中、西田氏は『米原ルート』について「終わった話」だと何度も繰り返し強調し、再議論の可能性を強く否定したが、結果は維新・新実氏が大差をつけてのトップ当選を果たす。 

 

 西田氏はなんとか2番手に滑り込んだものも、深夜の選挙事務所で万歳三唱した直後には、「利益は米原ルートに比べ、明らかに小浜ルートの方が大きいと立証されている。まさに作られた争点だったと思う」などと、恨み交じりに振り返っていた。 

 

大阪府の吉村知事(7月22日) 

 

 一方で、選挙結果は“民意の最大の表れ”でもある。西田氏が一蹴したルート選定の議論が、選挙後、再び盛り上がりをみせる事態となっていく。 

 

吉村洋文大阪府知事(7月22日の会見) 

「比較検討することなく、『小浜・京都ルート』しかないというのは違う、というのが僕の考え方」 

 

 日本維新の会の代表でもある大阪府の吉村知事は、投開票から2日後の7月22日、『米原ルート』を再検討するべきだと主張。 選挙期間中の応援演説でも、『小浜・京都ルート』のB/C(費用便益比)を明らかにするよう国に要望を続けている話を出すなど、比較検討すべきという主張自体はこれまでも出ていたが、吉村氏が公の場で自身の立場を明確にしたのは初めてだった。 

 

 そして、参院選から10日後、西田氏は『米原ルート』の建設費や工期について、改めて試算するよう国交省に指示したことを明かした。自身が委員長を務める整備委員会の上位組織である与党プロジェクトチームで検証する方向としているが、これまでの主張・方針を大きく転換した形だ。 

 

 

滋賀県の三日月大造知事 

 

 一方、“寝耳に水”のような状況となっているのが、『米原ルート』となった場合に沿線自治体となる滋賀と、1日も早い延伸を願う福井だ。 

 

 吉村知事の発言を受け滋賀県の三日月大造知事は、「望んでいない、欲しいと言っていない『米原ルート』について言われることには正直戸惑いを持つ」「『米原ルート』は望んでいない」と繰り返し述べ、従前どおりの『小浜・京都ルート』を支持すると述べた。2016年以前は『米原ルート』を推進する立場ではあったものの、その後は一転して反対の立場を表明している。 

 

 新幹線の駅が建設される予定だった福井県小浜市は、『北陸新幹線全線開業を活かした小浜市新まちづくり構想』を打ち出すなど、『小浜・京都ルート』を前提とした街づくりを目指しており、ルートの見直しとなれば反対は必至だ。福井県の杉本達治知事も8月8日の記者会見で、「(ルートの)比較検証は否定しない」と述べる一方、『小浜・京都ルート』を前提とする立場は崩していない。 

 

JR西日本の倉坂社長 

 

 また、運行主体となるJR西日本も倉坂昇治社長は、「大阪までつながることで効果を最大限発揮できる。特急サンダーバードの3分の1は京都駅で乗り換えるので、京都駅を通ることが望ましい」との考えを示し、参院選後に行われた会見でも「利便性を考えれば京都駅近くを通るルートが望ましい」と強調。 

 

 JR東海の丹羽俊介社長も8月7日の記者会見の場で、「東海道新幹線はすでに密度の高いダイヤになっている。米原駅から乗り入れることは難しい」との認識を示してる。 

 

読売テレビニュース 

 

西田昌司氏(7月30日、自身のYoutubeチャンネルでの発言) 

「大事なのは地元の同意があるのかどうか。『米原ルート』の場合、京都はルートから外れ、建設費を負担しなくなるが、莫大な費用を強いられる滋賀県と福井県が納得するのか。そういうことを分かった上で議論しているのか」 

 

 再検討を指示した当の西田氏は、このように不満をあらわにしているが、衆・参ともに少数与党となった現在、与党プロジェクトチームにどこまでの決定権があるのかは不透明な情勢となっている。 

 

 8月26日に予定されていた、関西広域連合などが主催する北陸新幹線延伸に向けた建設促進のシンポジウムは“延期”となり、吉村知事は「超党派による枠組みが必要」と呼びかけてはいるが、大局的な議論が進まなければ、北陸新幹線の延伸はさらに遠のくばかりだ。 

 

 当初の決定からまもなく10年が経過しようとしている中、費用も工期も増え続け、状況は一変している。今一度、それぞれの立場の都合や政策ありきで強引に道筋をつけるのではなく、その必要性や費用対効果を含めた建設的な議論が尽くされることを期待したい。 

 

 

 
 

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