( 316886 )  2025/08/17 06:26:58  
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同人誌印刷業界は、コミックマーケット(コミケ)が盛況な一方で、約4割の印刷会社が赤字を計上しており、利益を出せない厳しい状況にある。

物価高やデジタル化、価格競争などが影響し、多くの中小印刷会社が廃業の危機に直面している。

最近では、ニッチなニーズに特化し技術力で付加価値を生み出す企業も現れているが、個人の自費出版文化をどう支えていくかが課題とされている。

(要約)

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自費出版文化を支える「同人誌」印刷の4割が赤字(写真=東京ビッグサイト) 

 

 世界最大級の同人誌即売会「コミックマーケット」(以下、コミケ)が今年も開催される。近年はプロ・アマ問わず2万を超えるサークルが参加し、出版社やゲーム会社などの企業も数多く出展。中にはサブカルチャーの枠を超えて人気を獲得した作品も出るなど、日本のマンガ・アニメ文化をけん引する代表的なイベントとして知られる。こうしたコミケ活況の陰で、同人誌文化を支えてきた印刷会社が物価高やデジタル化の波を背景に、近年は廃業も発生するなど苦境に立たされている。 

 

「同人誌」印刷を手がける企業の損益動向 

 

 2025年7月時点で判明した、同人誌の製本や印刷を事業内容に含む全国の印刷会社約80社を抽出し、決算データを基に最新の動向を分析した。その結果、2024年度決算(2024年4月-25年3月)では約4割の同人誌印刷会社が「赤字」で、前年度から利益が減るなどの「減益」を合わせた「業績悪化」の割合は半数を占めた。6割を超えた前年度に比べると低下したものの、依然として多くの印刷会社が利益を出せない状況となっている。 

 

 コミケをはじめ、各地で開催される小規模イベントが通常通り行われたことで、発行部数や印刷依頼数が増加し、売り上げ面では増収となった企業は多かった。ただ、印刷業界の共通課題ともいえる原紙やインクなど原材料価格が高騰し、人件費の上昇なども重なって利益が圧迫されるケースが目立つ。同人誌印刷ではもともと、上質紙からコート紙まで頒布物の様々なクオリティ要求に応える製紙在庫、小ロットでの印刷対応、イベントに間に合わせるための超短納期仕上げなど、通常の印刷業務に比べて各種制作工程のコストが嵩みやすい。 

 

 一方で、商業作家を除けば、金銭面で余裕がなく印刷にかける予算が少ない個人作家の利用が少なくないほか、同人誌のデジタル化、個人クリエイターや小規模なサークルを中心に、高品質・短納期・低価格を強みとしたネット印刷大手が浸透するなど価格競争も発生している。その結果、同人誌の印刷大手をはじめ、ここ数年で段階的な価格改定を実施し、コスト増を販売価格に転嫁する努力を続けているものの、原料価格の上昇ペースをすべてカバーするには至らず、利益が出しづらい状況となっている。 

 

 

 こうしたなか、北陸で同人誌の印刷を手掛けていたスズトウシャドウ印刷が7月25日に幕を下ろした。ファンから「スズさん」の愛称で呼ばれていた同社だが、紙媒体の需要減少や材料費高騰、人材不足などが原因となり、最終的に廃業となった。厳しいコスト上昇に加え、近時は同人誌のデジタル化といった構造的な課題も顕在化しており、中小印刷会社では今後、より厳しい経営環境にさらされることになる。 

 

 足元ではこうした課題に対応すべく、特定のジャンルや特殊加工などニッチなニーズに特化し、技術力や企画力で付加価値を生み出すことでファンから確固たる信頼を得ている印刷会社もある。出版に関する知識が乏しくても、個人の趣味で本を発刊できる「自費出版文化」を支えてきた印刷インフラをどう残していくかが課題だ。 

 

(「帝国ニュース日刊版」2025年8月15日号掲載「TOPICS」より) 

 

 

 
 

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