( 317206 )  2025/08/18 07:36:33  
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広陵高校野球部は、部員の暴力問題により夏の甲子園出場を辞退した。

被害生徒の父親は、中井監督による暴言や再発防止策の不在に対して不満を抱いており、謝罪会見を求めている。

問題は昨年1月に発生し、A君が先輩部員から暴行を受けた後、学校側の対応も不十分だったことが報じられている。

部内での暴力問題は過去にも疑惑があり、現在は第三者委員会が調査を行っている。

(要約)

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広陵野球部・中井哲之監督 

 

 夏の甲子園で史上初となる不祥事による大会期間中の出場辞退となった広陵高校。硬式野球部員の暴力問題にネット上で批判が集まったためと報じられているが、本当にそれだけなのか。メディアで初となる今回の被害生徒の父親への取材、そして関係者への取材を重ねると、背後にはさらに根深い問題が横たわる疑いが濃くなってきた。ノンフィクションライター・柳川悠二氏と本誌・週刊ポスト取材班が問題を追った。【前後編の前編】 

 

 春3度の甲子園制覇を誇る広島の名門私立・広陵高校の堀正和校長は、8月10日に甲子園球場を訪れて日本高等学校野球連盟(日本高野連)に出場辞退を申し入れた。 

 

 その後の会見で堀校長は、部員の暴力問題などがネット上で取り上げられていることについて、「事態を重く受け止める」「速やかに指導体制の抜本的な見直しを図る」などと述べた。一方、中井哲之監督やその長男である中井惇一部長による部員への暴力・暴言があったとするネット上の情報については、「そういったことは一切ございません」と否定した。 

 

 本当だろうか──。高校野球関係者を通じてコンタクトを取った今回の暴力問題の被害生徒・A君の父親は、メディアに対して初めて口を開き、こう話した。 

 

「息子は集団暴行を受け、別の学校に編入することになりました。暴行事件の事実を加害生徒や学校、広島県高野連も認めてくれたことで、編入直後から試合に出場することも可能となっています。 

 

 私たちが収まらないのは、中井監督や広陵高校の対応に対する怒りです。中井監督や堀校長に謝罪会見の実施と再発防止策を求めたい」 

 

 広陵OBである中井監督は、同校コーチを経て、1990年に27歳で監督に就任。翌年には春の選抜で優勝を果たし、以来、甲子園通算41勝をあげた。その中井監督に対する怒りの理由を報じる上で、まずは今回の問題の経過を整理しておく。 

 

 問題が世間に知られたのは、夏の甲子園開幕直前の7月末、被害生徒・A君の母親がSNSに野球部での集団暴行の詳細を綴り、6月には広島県警に被害届を提出したことを公にしたためだ。 

 

 A君が複数の先輩部員から暴行を受けたのは、遡って1月のこと。1月末に学校側からA君の両親に渡された報告書などをもとに経緯を辿ろう。 

 

 発端はA君ともう一人の1年生部員が寮の部屋で禁止されているカップラーメンを口にしたことだった。翌日、A君は複数の先輩部員から殴る・蹴るの暴行を受け、さらにその翌日には先輩部員から「反省してるなら便器なめろ。○△(部員名)のチンコなめろ」と命令されるなどした(A君は「靴箱舐めます」と拒否)。そして先輩部員から集団暴行を受け、翌日未明にA君は寮を脱走した。 

 

 その後は両親が中井部長らとやり取りして事実確認が始まり、加害生徒との距離を取るなどの約束が提示されてA君は帰寮するも、2月に退寮。3月末には転校している。 

 

 A君の父親は中井監督について、「息子に対して放った暴言・パワハラはとても許すことはできません」と語ったが、これはA君が一度、帰寮した際のことだとされる。 

 

 5月にA君の両親は帰寮時の対応不備について、学校側に質問文書を送っている。そこでは、A君が帰寮後、中井監督と面談したとの記述がある。コーチ3人も見守るなかでのやり取りについて、両親の側はこう記した。 

 

監督「高野連に報告した方がいいと思うか?」 

A君「はい」 

監督「2年生の対外試合なくなってもいいんか?」 

A君「ダメだと思います」 

監督「じゃあどうすんじゃ」 

A君「出さない方がいいと思います」 

監督「他人事みたいに…じゃあなんて言うんじゃ。出されては困りますやろ」 

 

 

 保護者への返答にあたる報告書上では、学校側は前後の文脈を補足するのみで、中井監督の発言についての事実関係を否定していない。被害生徒を咎めるような中井監督の発言は問題ではないのか。 

 

 広陵に質問状を送付するとまず、このやり取りの時点で高野連に暴力事案を報告済みであると説明。その上でやり取りについて中井部長がその場に同席したコーチに確認したところ、前述のやり取りは「ありませんでした」とする。一方で、その場でA君に規則違反の自覚を求める発言などがあったことから、保護者の主張を否定せずに返信したと説明した。 

 

 言い分は食い違っているが、そもそも中井監督の発言は「なかった」としながら、保護者への回答では「否定せずに返信した」という事実認定を避ける姿勢は、問題に真摯に向き合っているとは言えないのではないか。 

 

 高校野球の取材をしていれば感じることだが、部員同士のトラブルは少なからず起きるものだ。問題が起きた時こそ、指導者の力量が問われる。被害者側に「もみ消しではないか」「実力あるメンバーの厚遇ではないか」と疑念を抱かれる対応は言語道断だ。A君の父親が続ける。 

 

「(帰寮時の)1月27日には中井監督に呼び出され息子にとっては最もショックな言葉を投げかけられました。『(加害者の一部の名前をあげ)こいつらは優等生、お前は優等生じゃない』と言われたと聞いています。その言葉に耐えられず、息子は自主退学を決めました」 

 

 広陵はこの発言について「事実であるとは把握しておりません」と回答。今回の問題をきっかけに、中井監督率いる広陵をめぐっては様々な問題が噴出している。 

 

 出場辞退前の広陵が初戦を勝利した8月7日の試合後、日本高野連に同校の「別事案」の情報提供があったと発表され、広陵は第三者委員会の調査を実施中だとした。この別事案は、2023年に起きた中井監督や一部部員による暴言・暴行との情報がSNS上で拡散された。それだけではない。10年前にも部内の暴力問題のもみ消しが疑われる事案があったとの証言が得られた。 

 

(後編に続く) 

 

※週刊ポスト2025年8月29日・9月5日号 

 

 

 
 

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