( 317381 )  2025/08/19 06:01:47  
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「短時間正社員」制度が新たに導入されることで、多様で柔軟な働き方が促進されるとしています。

この制度は、フルタイム正社員とは異なり、所定労働時間が短くても正社員としての待遇を受けることができるという特徴があります。

短時間正社員は主に女性に利用され、育児や介護の支援を目的としていますが、フルタイム正社員からは不平等と感じる声もあります。

 

 

短時間正社員制度の導入には、採用や生産性の向上、組織の多様性を高めるというメリットがあるとされています。

特に、短時間しか働けない優れた人材を採用するチャンスが増え、成果を重視する働き方が促進されることが期待されます。

 

 

さらに、仕事の成果は時間に依存せず、能力や状況に応じて異なるため、勤務時間の多様性が自然であるとの意見も示されています。

これにより、平等の考え方が変わり、働き方の改革が進むことが望まれています。

 

 

このように、短時間正社員制度は個別最適型労働の一環として、従来の働き方の常識を見直す重要なステップと見なされています。

(要約)

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「短時間正社員」制度が社会にもたらすメリットとは。写真はイメージ(ゲッティイメージズ) 

 

 「短時間正社員」という言葉が新たに、骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)2025に明記されました。「多様で柔軟な働き方の推進」として盛り込まれているのは、以下の内容です。 

 

 短時間正社員を始めとする多様な正社員制度、勤務間インターバル制度の導入促進、選択的週休3日制の普及、仕事と育児・介護の両立支援、全ての就労困難者に届く就労支援に取り組む 

 

 また、2025年11月の所信表明演説でも石破首相は以下のように述べていました。 

 

 時間に余裕を持ちながら正社員としての待遇を得る短時間正社員という働き方も大いに活用すべきです 

 

 ただ、フルタイムで働いている正社員からは、短時間正社員に対し「不平等」と見る声も聞かれます。また、育児・介護休業法により、雇用形態にかかわらず育児のための短時間勤務制度の設置はすでに義務化されています。 

 

 「同じ正社員なのに労働時間が違うのはズルい」と感じてしまう、その不平等感はなぜ生じるのでしょうか。短時間正社員という制度の意義を掘り下げてみると、従来の働き方の常識に風穴を開け、社会に還元されるメリットが見えてきます。 

 

 短時間正社員とは、以下の3点に該当する雇用形態です。 

 

(1)フルタイム正社員と比較して、1週間の所定労働時間が短い正規型の社員 

 

(2)期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結している 

 

(3)時間当たりの基本給及び賞与・退職金等の算定方法等が同種のフルタイム正社員と同等 

 

※厚生労働省「多様な働き方の実現応援サイト」より 

 

 フルタイム正社員については、次のように説明されています。 

 

 1週間の所定労働時間が40時間程度(1日8時間・週5日勤務等)で、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結した正社員 

 

 令和5(2023)年度の雇用均等基本調査によれば、短時間正社員制度を利用した人の割合は3.2%にとどまっています。これは、正社員と呼ばれる人の大多数が週40時間程度のフルタイムで勤務していることを如実に示す結果です。 

 

 冒頭でも触れたように育児・介護休業法では、正社員として働いている人も含めて3歳未満の子を養育する場合を対象に、原則として1日6時間勤務にするよう定められています。短時間正社員制度の利用者は81.6%が女性であり、基本的に子育てするための福利厚生と位置付けられていることが見てとれます。 

 

 日に6時間勤務で週5日働いた場合、1週間の労働時間は30時間。フルタイム勤務の週40時間と比較すると10時間も短い計算になります。1年は約52週なので、年間520時間。日数にしておよそ21.7日分です。週40時間以上職場に拘束されて働くフルタイム正社員としては、同じ正社員として扱われることを不平等に思うかもしれません。 

 

 こうした点を考慮すると、短時間正社員は制度をつくるだけで簡単に導入できるものではないでしょう。お互いさまの精神にもとづいて、育児に手がかかる一定期間に限り、例外的に認める福利厚生の一環と認識するくらいが受け入れられやすそうです。 

 

 しかしながら、正社員はフルタイムで週40時間働くことを原則とすることが平等なのかというと、一概にそうとも言えません。同じ業務に同じ時間従事したとしても、その間に生み出される成果が誰でも同じになるとは限らないからです。 

 

 業務内容にもよりますが、成果は人によって異なり、機械でもない限り、むしろ全く同じであることの方が稀(まれ)です。 

 

 

 営業職だと、同じように1日8時間勤務していたとしても、Aさんの売り上げは100万円で、Bさんの売り上げは50万円といった差が生じることがあり得ます。この場合、成果の開きは倍です。 

 

 もし、Aさんが1日4時間しか働かなかったとしても50万円の売り上げを立てられるなら、8時間働いたBさんと成果は等しくなります。1時間当たりに生み出される成果を軸に比較すれば、Aさんの勤務時間はBさんの2倍の価値に相当するということです。 

 

 時間当たりで生み出される成果が人によって異なる点に着目すると、誰もが同じように週40時間働くことを原則とする考え方の方がむしろ不平等に見えます。仕事処理が早くて生産性が高い人にはどんどん新たな仕事が振られ、他の人の分までカバーすることもあります。それなのに、自分の仕事も終えられない人と勤務時間が同じだからと給与が変わらないとしたら平等だと言えるのか疑問です。 

 

 個々に備わる条件が異なるという視点に立つと、不平等要素は他にもさまざまな場面で見受けられます。例えば通勤距離。自宅から職場までが近い人と遠い人とでは、通勤時間に大きな差が生じます。この差は、そのまま生活の中の可処分時間の差となり、遠方通勤者はその分、日常の時間を犠牲にしているとも言えます。通勤時間が短い人は、その時間を使って副業して追加の収入を得ることも可能です。 

 

 また、育児や介護など家庭の事情によって残業が一切できない人もいれば、何時間でも厭(いと)わず残業できる人もいます。後者の場合には、定時内に仕事が終わらなかったとしても残業して完遂するという選択肢があります。さらには残業手当分の給与も上乗せされます。 

 

 中には、残業できない人が定時内に仕事を終わらせようと必死に取り組む姿を尻目に、残業や休日出勤を厭わずこなせるからとおしゃべりしたり、頻繁にタバコ休憩をとったりする人もいます。挙句、満足な成果が出せていなかったとしても、定時内しか働けない人より高い給与を得たりするのです。そんな状況に嫌気がさした経験のある人や、苦々しく感じている経営者や管理職は少なくないと思います。 

 

 もしも、決められた成果が早く出せれば、その分早く帰宅できて給与には差が出ないとしたら、能力が高い人ほど早く帰宅できることになります。つまり、人によって能力差があることを前提にすれば、勤務時間に差が生じるのはむしろ自然なことなのです。 

 

 さらに職場と自宅の距離、家族構成、健康状態、介護や育児の有無など、社員一人一人の事情は異なるのが普通ですし、テレワークしやすい職務とそうでない職務もあります。職場に集う全員が、全く同じ条件を備えていることはあり得ません。 

 

 社員の事情がそれぞれ異なる前提に立つと、果たすべき役割を果たし、出すべき成果を出してさえいれば、勤務時間が人それぞれ異なる方が当たり前です。 

 

 それなのに週40時間勤務を原則とする一律の枠組みの中に無理矢理押し込まれてしまうのは、その方が職場にとって管理しやすいからに他なりません。言わば、職場の都合に全社員が合わせる一律適用型労働です。ほとんどの職場では、一律適用型労働が常識になっています。 

 

 それに対し、各社員の都合に職場が合わせる個別最適型労働の考え方に転換した場合、勤務時間は人それぞれ異なるのが普通になります。必然的に短時間正社員という働き方も選びやすくなるでしょう。 

 

 

 職場側からすると個別最適型労働は管理するのが手間に感じるかもしれませんが、思い切って転換することで、職場には人事戦略的メリットが少なくとも3つ生じます。 

 

 まず1つ目は、採用におけるメリットです。 

 

 優れた能力を持っていながら、短時間しか働けないという理由でこれまで正社員になれなかった人を新たに戦力化できる可能性が高まります。主婦を中心とするパート層やシニア層に該当者が多いかもしれません。 

 

 また、複数の仕事を掛け持ちして能力発揮したい副業・兼業志向の人材も採用しやすくなります。適宜時間配分しながら社長として複数の会社経営に携わって成果を出している人がいるように、個別最適な環境を整えることによって短時間勤務で複数の仕事をかけ持ちしても十分な成果を出せる優秀な人材は確実に存在します。 

 

 次に、生産性の向上です。 

 

 正社員として週40時間に満たない勤務時間で働くには、相応の成果を出すことが求められます。裏返せば、短時間正社員が活躍できる職場にするには、働いた時間の長さではなく成果で評価する必要があるということです。必然的に、長時間ダラダラ勤務してムダな残業代が発生するような非効率な働き方は、職場から排除されていくことになります。 

 

 最後は、組織の多様性を高めるメリットです。 

 

 短時間正社員という制度が浸透すれば、副業層、主婦層やシニア層など、これまで適した働き方を見つけるのが難しくキャリアを生かしきれていなかった可能性のある人材層も組織の戦力として取り込みやすくなります。結果、人材層が多様になって、より広い視野を持つ強固なチームが構築されることが期待できます。 

 

 一律適用型労働に固執した職場が短時間正社員を導入して得られるのは、基本的に育児支援などの福利厚生的メリットです。3つの人事戦略的メリットを享受すべく短時間正社員を導入しようとしても、フルタイムで働く正社員たちが不平等に感じる懸念があります。 

 

 しかし、誰もが異なる就業条件であることを当然とする視点に立ち、個別最適型労働の考え方にシフトすれば、福利厚生的短時間正社員も戦略的短時間正社員も導入可能です。すでに採用難の厳しさを強く感じている中小企業を中心に、個別最適型労働へとシフトを図り、戦略的短時間正社員を戦力化しようとする動きは徐々に見られつつあります。 

 

 世の職場の常識が一律適用型労働から個別最適型労働へシフトし、戦略的短時間正社員の導入が珍しくなくなれば、正社員=フルタイムという共通認識は成立しなくなります。わざわざ“短時間”正社員などと冠言葉をつける必要もなくなるはずです。そんな職場の常識がひっくり返った状態を働き方改革のゴールだと捉えれば、骨太方針に短時間正社員と明記されたことには、大きな意義があると言えるのではないでしょうか。 

 

(川上敬太郎) 

 

ITmedia ビジネスオンライン 

 

 

 
 

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