( 318301 ) 2025/08/23 03:27:03 1 00 2025年度に入社する新入社員の調査結果が、年功序列を好む傾向が強まっていることを示している。
新入社員の選ぶポイントが「福利厚生」や「給与水準」にシフトし、職務内容へのこだわりが薄れてきていることも影響している。
(要約) |
( 318303 ) 2025/08/23 03:27:03 0 00 写真はイメージ(gettyImages)
「成果主義よりも年功序列」。2025年度入社の新入社員に対する調査でこんな結果が浮かび上がった。背景に何があるのか。
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学校法人「産業能率大学総合研究所」(東京都世田谷区)が今年度入社の新入社員を対象に実施した調査で、旧来の年功序列型の人事制度を望む声が成果主義を上回った。
同研究所が1990年度から毎年実施している恒例の調査。定番の「年功序列的な人事制度と成果主義的な人事制度のどちらを望むか」という設問に対し、2025年度版の最新調査で年功序列を望むと回答したのは「年功序列」(14.6%)、「どちらかといえば年功序列」(41.7%)を合わせて56.3%。一方、成果主義を望んだのは「成果主義」(6.5%)、「どちらかといえば成果主義」(37.1%)を合わせて43.6%だった。
選択肢が「年功序列」と「成果主義」の二者択一だった22年度までの結果を含め、「年功序列」を望む派が「成果主義」を望む派を上回り、過半数を占めるのは36回目となる今回が初めてという。
「年功序列」を望む新入社員の割合は、22年度の38.9%から徐々に上昇。24年度に48.5%で過去最高となった。25年度はさらにこの割合が高まり、記録を更新した。また、「終身雇用」を望む割合は69.4%、「同じ会社に長く勤めたい」とする回答も51.8%といずれも増加傾向にあり、新入社員の“安定志向”の強さが浮かんだ。
この結果について、都内のPR会社に勤務する20代女性はこう話す。
「私は成果主義で評価してもらえるのがよいと考えて今の会社に転職した経緯があり、今の会社も長く勤めるつもりはありません。なので、この調査結果にはかなり驚きました」
ただ、自分よりも若手を含む周囲を見渡すと、「異変」も感じられるという。
「30代を控えた私より下の世代になるほど、育休などが取りやすい福利厚生がしっかりしている会社を選ぶ人が増えているような気もします」
産業能率大学総合研究所の調査でも、新入社員が就職先を選ぶ際に重視した点は、「福利厚生」「業種」「給与水準」がベスト3だった。 特に「福利厚生」や「給与水準」が増加する一方で、「職務内容」や「企業風土」、「職種」が減少傾向にあり、これらへのこだわりは相対的に弱まりつつある様子がうかがえるという。
新入社員の意識にどんな変化が起きつつあるのか。
「長く成果主義が優勢だった中で今回得られた調査結果は、価値観の変化を感じさせるもので、(調査主体の)私たちも興味深く受け止めています」
こう話すのは、調査を担当した同研究所マーケティングセンターの丸山夏子さんだ。
年功序列型を望む声が成果主義を上回った背景要因について丸山さんは、「やりたいこと」よりも「働きやすさ」や「待遇面」を重視して就職先を選ぶ学生が増えていることを挙げ、こう指摘する。
「プライベートの充実を前提とし、『働く場所を合理的に選ぶ』という姿勢が、結果として年功序列や終身雇用といった既存の雇用慣行との親和性を高めている可能性も考えられます」
その上で、丸山さんは新入社員の特徴として3点を挙げる。一つは「生活設計リスクへの敏感さ」だ。
「東日本大震災やコロナ禍を児童期・青年期に経験した Z 世代は、『予測不能な環境変動』を身近に感じてきました。こうした経験は、将来の生活に対する不確実性や不安感を意識するきっかけとなり、安定した基盤を求める意識に影響を与えている可能性があります。その結果、雇用・収入の長期安定を確実に担保する制度への期待が強まったと考えられます」
もう一つは「待遇面重視へのシフト」。今回の調査で就職先の選定理由について「福利厚生」(56.4%)や「給与水準」(42.8%)などの条件面が上位を占めた一方、「職務内容」や「職種」を重視する人の割合は年々減少している。
「『職務内容』や『職種』より“働きやすさ”を優先する傾向が、年功的処遇との親和性を押し上げたと考えられます」(丸山さん)
3つ目の特徴が「挑戦よりも“長く続けられる安心”」を選択する傾向だ。調査では「会社勤めは 65 歳まで」が30.9%で、「70 代」や「生涯」を含めると45.8%が 60 歳超の就労を想定していることも浮かんだ。
「長期就業を前提にするほど、評価変動の大きい成果主義よりも年功序列への支持が高まりやすいと推察されます」(同)
設問はすべて選択式で自由記述がないため、年功序列を求める理由や背景に関する個別の声は今回の調査では吸い取れていない。ただ、数値から読み取れる“潜在的な声”はあると丸山さんは言う。
「例えば、『終身雇用を望む』が69.4%に上ったことからは『雇用の長期保証を重視』する傾向、35 歳時点での『理想年収の平均値は716万円』という結果からは『着実に上がる給与カーブを期待』する傾向がうかがえます。これらは『着実に伸びる処遇・キャリアへの安心感』を求めていると解釈できます」
年功序列志向は是正すべきなのか、それとも肯定的に受け止めるべきなのか。そう丸山さんに問うと、こんな答えが返ってきた。
「今回の調査結果は、新入社員の価値観や期待の変化を示しています。一義的に良し悪しを判断するより、『現実としての価値観変化』と捉え、企業側が戦略的に向き合うことが重要と考えます」
具体的には「多様化への適応」と「エンゲージメント向上」「コミュニケーションの再設計」が企業に求められている、と指摘する。
多様化への適応については、「安定を求める層と成果志向の層が混在する時代であることを踏まえ、双方に対応する評価制度を再設計する」ことが求められている。
エンゲージメント向上については、安定志向の一方で成長実感は求める傾向にあることを踏まえ、「安心して業務に取り組める環境と挑戦機会を両立させる仕掛けがカギ」になる。
コミュニケーションの再設計については、新入社員や若手社員の価値観の変化を踏まえ、「柔軟な働き方やコミュニケーションの仕組みの工夫を検討していくことが重要」という。
その上で丸山さんはこう強調する。
「年功序列への回帰を『意識の保守化』と見なす前に、若手が抱える将来不安をどう解消し、成長機会と安心を両立させるか。そこに、企業の若年層に対する人材戦略や人材育成のアップデートのヒントがあるのではないでしょうか」
渡辺豪
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