( 318721 )  2025/08/24 06:22:17  
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日本の総人口が約1億2433万人と減少する中、外国人の人口は増加しており、特に労働力不足が深刻な物流・旅客業界では外国人雇用が推進されている。

しかし、企業は日本語の壁や安全教育の負担、交通ルールの理解不足などの問題に直面している。

外国人ドライバーの採用が進まない要因は、必要なコミュニケーション能力や安全性への不安などであり、企業は人手不足と安全性の両立という困難な課題に取り組んでいる。

政府には現場の実情を踏まえた支援策が求められる。

(要約)

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(写真:Suriyan/PIXTA) 

 

 日本人が消え、外国人が増えるーーその傾向が明らかになった。 

 

 8月6日に総務省が発表した「人口動態調査」(2025年1月1日時点の住民基本台帳に基づく)によると、全国の総人口は、前年比約55万人減の約1億2433万人。そのうち日本人は、約91万人減の約1億2065万人で、調査を開始した1968年以降、過去最大の減少数となった。 

 

 一方、外国人は前年比約35万人増の約368万人と、2013年の調査開始以降、過去最多となっている。 

 

 少子高齢化の進行により日本の労働力不足が深刻化している今、こうした外国人は貴重な社会の担い手となっているのが現実だ。コンビニや飲食店、介護の現場などでも働く外国人を見かけることが増えた。今や、外国人労働者なしには社会の維持が難しい。 

 

 中でも人手不足が深刻なのが物流・旅客業界である。輸送能力の低下が懸念された「2024年問題」が記憶に新しいように、トラック運転手やバス・タクシー運転手の不足はすでに社会インフラの維持を脅かしている。物流・旅客業界の人手不足をどう解決するのかーー。 

 

■政府は外国人雇用を推進するが… 

 

 物流・旅客業界においても、政府は外国人雇用を推進している。2024年には、外国人向けの在留資格「特定技能」を物流・タクシー・バスの3分野に拡大した。これにより、2028年度末までの5年間で最大2.45万人の外国人の受け入れが可能となった。 

 

 2025年3月には、国内で初めて「特定技能」資格を持つ中国人トラックドライバーが、東京都内の物流企業に就職している。 

 

 しかし、現場においてはいまだ問題山積である。 

 

 物流などノンデスク業界特化の求人サイト『クロスワーク』を運営するクロスマイル社が、全国のトラック・バス・タクシー事業者230社を対象に実施した調査によると、外国人ドライバーを現在実際に雇用している企業はわずか13社にとどまった。 

 

■「漢字が読めない」「意思疎通に不安」 

 

 外国人ドライバーの雇用が進まない最大の要因は、言葉の壁だ。今回の調査では、外国人ドライバー採用における課題として「日本語でのコミュニケーション」を挙げる企業が半数以上を占めた。 

 

 

 トラックドライバーの仕事は、ただ荷物を運ぶだけではない。配送時には顧客との接客、荷物の送り元・送り先とのやりとりなど、高度な日本語コミュニケーションが求められる職種である。 

 

 業務におけるコミュニケーションを不安視し、外国人雇用に二の足を踏む企業が多いのだ。 

 

 「バカが作った制度。うまくいかない」 

 

 そう激しく否定するのは、実際に過去に外国人を雇用したことがある物流企業の経営者だ。実際に外国人労働者と向き合ってきたからこそ、簡単にはいかないことが身に染みてわかっている。 

 

 深刻な人手不足を感じながらも、特定技能の領域緩和や外国人雇用の推進に対しては懐疑的なのだという。 

 

 反対に、「人材として適性があれば国籍は問わない」と歓迎する経営者も、受け入れに関するノウハウがないため、現状では外国人雇用を推進していないのが実情だ。 

 

■訪日外国人の事故率は約5.5倍 

 

 また、「日本の交通ルール・マナーへの習熟に時間がかかる」と、安全面の課題を不安に感じる経営者も多い。 

 

 物流企業は、従業員に対する国指定の安全教育を実施する義務がある。ましてや交通文化の違いがある外国人従業員に対して、安全教育はより重要になるだろう。 

 

 実際に、交通事故総合分析センターの2019年データによると、訪日外国人のレンタカー事故率は日本人の約5.5倍、居住外国人でも約3.9倍に上っており、交通文化の違いが事故率を高めてしまうと考えられる。 

 

 安全教育はこれまで当然のように日本語で実施されてきた。そして日本の道路標識や看板は、日本語表記のみのケースも多い。外国人雇用をする場合の安全面の教育についても、現状は企業任せになっている。 

 

 それにもかかわらず政府は、外国人の受け入れ数を増やすために、トラックドライバー職は「基本的な日本語を理解できる(日本語能力試験〈JLPT〉N4)」レベルの日本語力であれば十分としている。 

 

 

 日本の交通ルールを理解し、安全に運転して荷物を運ぶこと。関係者へスムーズな接客を行うこと。日本語を話す日本人でも一定の技量が問われるこの業務が、基本的な日本語理解のみでどこまでできるのかは、はなはだ疑問である。 

 

 外国人ドライバーを採用する場合、前述の通り、政府が義務づける安全教育の現場負担が日本人労働者に比べて大幅に増加する。同じ安全基準を達成するまでに時間とコストが倍増するケースも少なくない。 

 

■企業が直面する「二重の負担」 

 

 一方で、ドライバーの労働条件を見てみると、日本人のドライバーを雇用するのも難題だ。2024年2月のドライバーの有効求人倍率は、2.76倍と、全職種の平均1.26倍よりも高く、慢性的な人手不足を抱えている。 

 

 その理由として、労働時間の長さと、その割に低い給与があげられるが、これはかねて言われてきたことだ。しかし依然として対策されていないのが現状なのだ。しかも、前述のクロスマイル社の調査によると、物流事業者の2割は、会社を辞めたドライバーの退職理由を「わからない」と回答している。 

 

 業界の働く環境を改善しないばかりか、状況も正しく把握できないようでは、日本人ドライバーを採用することは難しい。 

 

 ドライバーという職種の特性上、一歩間違えば重大事故につながりかねないため、企業側に外国人労働者への不安があるのも事実だが、外国人か日本人かという選択の余地がないのは明らかな状況である。 

 

 企業は今、人手不足への対応(攻め)と安全性の担保(守り)という相反する課題に同時に取り組まなければならない。採用を強化すればするほど教育負担が重くなり、安全性を重視すれば人員確保が困難になるーーまさに八方塞がりになっている。 

 

 ただでさえ人手不足が深刻化する中、企業だけにこの重荷を背負わせるのは限界がある。政府には制度設計だけでなく、現場の実情を踏まえた実効性のある支援策が求められているのではないだろうか。 

 

井澤 梓 :ライター 

 

 

 
 

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