( 318736 )  2025/08/24 06:36:03  
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「機会費用」は、別の選択肢を選んだ場合に得られる利益を意識することを指します。

例えば、昼寝をする代わりに働けば収入が得られる可能性があるため、昼寝のコストはその機会費用と見なされます。

企業の例では、営業部長がタクシーを利用する理由を考えた時、効率的に取引先を回るためには高い給料を考慮すべきですが、年功序列で給料が高いだけならタクシー代を節約すべきです。

農業や零細ビジネスのケースでも、他の選択肢を考慮しないと機会費用を見逃し、非効率的な選択をする可能性があります。

このような考え方は意思決定において非常に重要です。

(要約)

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(※写真はイメージです/PIXTA) 

 

家庭でもビジネスでも、無駄な出費には常に目を光らせていますが、目に見えるお金の動きがないまま、ひそかにコストを発生し続ける「機会費用」については、見逃しがちだといえます。よくあるビジネスシーン等に当てはめてわかりやすく学んでみましょう。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。 

 

昼寝にはコストはかかりませんが、昼寝をするか否かを考える際には「昼寝をせずにアルバイトをすれば小遣いが稼げるはずだ。そのチャンスを棒に振っても自分は昼寝をしたいのだろうか」と考えるのが合理的です。つまり、「別の選択肢を選んだら得られたであろう利益」を、コストとして意識するのです。その考え方を「機会費用」と呼びます。 

 

学生のサークルが活動費を稼ぐために学園祭で焼き鳥屋を開いたとします。「3万円儲かったので、活動費が増えた」と喜んでいるのを、どう考えるべきでしょうか? 

 

経済学部の学生ならば、「学園祭に出ないで本物の焼き鳥屋でアルバイトをしたら、もっと稼げたはずなので、それを機会費用だと考えると学園祭は赤字だったと理解すべき」と考えて欲しいところです。もっとも、ここではポジティブ思考で「学園祭の焼き鳥屋で、皆がワイワイ言いながら楽しく過ごしたので、青春の思い出としてかけがえのないものだった」と考えることにしましょう。 

 

営業部のヒラ社員が取引先へ行く時はバスを使い、営業部長はタクシーを使う、という会社は多いでしょう。でも、なぜでしょうか?「部長は偉いのだからタクシーを使うのが当然だ」という社内政治の話は一旦忘れて、それが会社の利益になっているのか否かを考えてみましょう。 

 

「営業部長は1時間あたりの給料が高いから、のんびりバスで移動してはもったいない。タクシーで効率的に移動して、多くの取引先を回ってほしい」と考える人が多いでしょうが、本当にそうでしょうか。それは、部長の給料が高い理由によります。 

 

部長は商談が得意だから時給が高い、ということであれば、タクシーで効率的に移動してもらうべきでしょう。タクシー代をケチることで取引先訪問の数が減れば、収入が大きく落ち込んでしまいますから。しかし、単に年功序列で給料が高いだけの場合や、夜の宴会は得意だけれども昼間の商談は下手だ、という場合には、タクシーで移動する必要はありませんね。バスで移動しても、失うものはありません(機会費用がほとんどない)から、タクシー代を節約すべきなのです。 

 

一方で、普通の新入社員は営業がそれほど上手ではなく、客先を回っても契約が取れない場合が多いでしょう。それならば、ゆっくりバスで回ることの機会費用が小さいので、タクシー代をケチることが合理的でしょう。 

 

しかし、もしも新入社員が大変優秀である場合には、バスで移動することの機会費用が高いということになります。タクシーで効率的に移動すれば多くの商談を行えて多くの契約が取れるはずなのに、バスでのんびり移動するのはもったいない(機会費用を考えると赤字だ)ということになるでしょう。あとは、「社内政治のことは一旦忘れていたが、誰がそれを言い出すかという問題が発生」するわけですが(笑)。 

 

 

都会でも農地を見かけます。細々と農業をやって細々と稼いでいるのでしょうが、機会費用を考えると赤字でしょう。ビルを建てて貸し出せば、農業収入より稼げるでしょうから。筆者は農地の税制などに詳しくないので、何か特別な事情があるのかもしれませんが…。 

 

夫婦で零細パパママストアを営んでいる場合、細々と稼いでいるよりは店を閉めて2人で働きに出る方が収入は増えるかもしれません。育児や介護をしながら店番をしている、といった事情があれば別ですが、そうでなければ働きに出るべきかもしれません。 

 

大企業でも、社内のエリートを集めて新規事業部を作るとして、なかなか利益が増えてこない場合には「エリートを集めているのだから、もっと稼いでほしい」と社長が檄を飛ばすかもしれません。しかし、発想を転換して新規事業部を解散し、エリートたちを別の部署で活用すれば、会社の利益はもっと増えるかもしれません。 

 

これらの事例では、少額の黒字を稼いでいるがゆえに「ほかの選択肢」に思いが至りにくいのです。上記の学園祭の焼き鳥店についても同様です。いっそのこと、赤字に転落してしまえば、容易に「辞めて他の選択肢を選ぼう」ということに思いが至る可能性が高いのですが、少額の黒字の場合には要注意です。 

 

以前の拙稿では、払ってしまった費用のことは忘れよう、という「サンクコスト」について説明しました( 『悲しい…「退屈な本を頑張って読む人」「食べ放題の店で元を取ろうとする人」が損する理由【経済評論家が解説】』 参照)。今回は反対に「払っていないけれどコストとして把握しよう」という「機会費用」について書きました。いずれも重要な話なのですが、うっかり見過ごしてしまう場合が多いので、意思決定に際して気をつけたいものです。 

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。 

 

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塚崎 公義 

 

経済評論家 

 

塚崎 公義 

 

 

 
 

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