( 319226 )  2025/08/26 06:28:12  
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高田夫妻は、自己流で資産管理をしていたが、税務調査で所得隠しが発覚し、約6,000万円の追徴課税を受けた。

これにより、自宅を手放し、ネットワークビジネスに依存する生活に転落。

年金未納のため、定期収入もなく、生活費が足りずクレジットカードに頼る状態に。

高収入だった過去とは裏腹に、支出管理の失敗が老後破産を招いた。

この事例から、事業主は資産があっても注意が必要で、税金や年金制度についての理解が極めて重要であることが浮き彫りになった。

(要約)

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(※写真はイメージです/PIXTA) 

 

「自分は事業で成功したから」「十分な資産を築いたから」――。現役時代に高収入を得てきた個人事業主や経営者ほど、老後の生活に自信を持っているかもしれません。しかし、その自信が、実は深刻な老後破産への落とし穴となるケースが後を絶ちません。順風満帆にみえた人生が、一つの出来事をきっかけに、坂道を転がり落ちるように崩れてしまうことも。FP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が、高田夫妻(仮名)の事例とともに、特に個人事業主が陥りやすい老後の落とし穴について解説します。 

 

高田夫妻(仮名)は現在70代。昭和の高度経済成長期には地元の商店街で健康食品の人気店を経営していました。無農薬野菜や添加物を極力抑えた食品、化粧品、水などを販売。小さい個人商店ながらも繁盛します。しかし、大型店などが地方に進出したことで、商店街は衰退の一途を辿り、夫妻が60代になる前に店を仕舞いました。 

 

経営以外の収入源として、当時はバブル期も重なり、株式投資や不動産投資を行って大きな利益を得ることができました。バブル崩壊で目減りはしたものの、閉店時には資産2億円を達成。 

 

店を仕舞ったあとは「身軽にできる仕事を」と、ネットワークビジネスを中心に店舗を持たずに健康食品などの販売を行いました。さらに、犬好きが高じてペットフード販売やトリミング事業も開始し、第二の人生も順調でした。 

 

高田さん夫妻は若いころから「年金は破綻する」「国家ぐるみの詐欺だ」と主張し、国民年金保険料を一切収めていません。しかし、高齢になっても十分な収入があったため、働きながら世界1周旅行に行き、その後も年に2〜3回は夫婦で海外旅行といった優雅な生活を送っていたのです。 

 

そんな2人を思いがけぬ災難が襲います。 

 

ある日、高田さん夫妻は税務調査を受けることに。その際、売上を年間1,000万円以下にみせかけるための操作を行っていたことが露呈しました。個人客から受け取った現金売上を計上せずに誤魔化していたのです。結果、過去7年間の申告漏れと重加算税などを含めた追徴課税は約6,000万円に上りました。 

 

資産をほとんど使い切っていた高田さんは「どうにか分割にできないか」と考えます。しかし、金融機関からの融資も受けられず、最後の資産だった自宅を売却して納税するほかありません。長年営んできた事業も知人に譲渡、資産の大半を失い、生活を支える収入はネットワークビジネスの細々とした収入(月12万円程度)のみに……。 

 

 

年金を未納にしてきたため、年金収入がありません。持ち家を手放したあとは家賃8万円のアパートに引っ越したものの、生活費が足りず、クレジットカードのリボ払いに依存。気がつけば家賃は2年分、約200万円を滞納していました。 

 

大家からの督促を無視し続け、ついに呼び出された夫妻は、土下座して謝罪しました。そして、税務調査で資産の大半を失った事情を正直に打ち明けます。大家が「しかし、年金もあるでしょうに……」と問いかけると、夫妻は力なく答えました。 

 

「いえ……私たちには、年金ないので」 

 

大家は手前勝手な話だとも思いましたが、困窮した彼らの様子を見放すことができず、温情で即時退去をしないでいます。高田夫妻のかつての繁栄とは真逆の「老後破産」状態に陥っています。 

 

高田夫妻の破綻を招いた原因は、直接的には所得隠しです。当然、これはやってはならないことですが、根本的な問題点は“家計管理の甘さ”と“制度への無理解”にあります。 

 

まず、脱税などせずとも税金はしっかり認められる方法を使って上手に抑えることもできます。税理士等の専門家に相談しながら認められている手段で余計な税負担も抑えていれば、重加算税や延滞を回避し6,000万円ものお金を失わずに済んだといえるでしょう。 

 

また、年金の未納問題について。年金制度を単純な損得勘定で語るのは適切ではありません。とはいえ、「どうせ損をする」という誤解が未納の背景にあるのも事実です。そこで、あえてその計算をしてみると、国民年金は現行の制度であっても平均寿命まで生きれば十分に元が取れる(=得をする)計算となっているのです。 

 

そして、老後もある程度の収入がありながら、2億円もあったはずの資産をほとんど食いつぶしてしまった家計管理に大きな問題があります。 

 

 

 

「うちは資産があるから大丈夫」 

 

「仕事をすれば収入は得られる」 

 

収入が高くても、豊富な金融資産を持っていても、支出の管理ができていないと「お金がない」という状態になってしまうこともありますので、「自分に合った適正な支出額」の範囲を知り、守っていきましょう。 

 

 

総務省統計局「家計調査年報(2024年版)」によれば、高齢夫婦世帯の1ヵ月の消費支出は平均で約25万6,000円になりますが、公的年金での収入は約22万5,000円と、3万円以上の差があります。 

 

平均的な生活をしていても不足が想定されますが、個人事業主や経営者の場合は現役のころから収入が多いと同時に支出も多くなり、リタイア後は特に交際費などを会社の経費で出していたものが個人の支出になるなど、むしろ支出が大きくなるようなこともあります。また、個人事業主の場合は会社員と比較すると公的年金の収入も少なく、今回のようにずっと未納だった場合、老後の大事な収入源の一つが欠けた状態となります。そのため、より慎重に管理しなければなりません。 

 

高田夫妻の場合は税金を徴収されたことがきっかけとなりましたが、2億円も資産があり、収入もそれなりにあったはずなのに6,000万円の税金が払えない状況になってしまっていました。この資産管理の状況では、一生を終える前に資金が尽きてしまっていた可能性もあるでしょう。 

 

「資産があるから」「収入もそこそこ多いから」と安易に自己流で考えてしまうと失敗のもとです。現状を知り、自分たちのライフスタイルに合った、最大限納得できるお金の使い方を考えていきましょう。 

 

小川 洋平 

 

FP相談ねっと 

 

ファイナンシャルプランナー 

 

小川 洋平 

 

 

 
 

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