( 320798 ) 2025/09/01 05:33:43 0 00 大阪市内の中古車店に並ぶ中古車※一部画像処理しています
中古車販売店が倒産ラッシュに見舞われている。東京商工リサーチによると、2024年度の全国での中古車販売店の倒産件数は98件と13年ぶりの多さとなり近畿も15件と高水準だった。海外の業者の参入もあり仕入価格が高騰して中小販売店の経営が苦しくなっていることに加え、23年に発覚した中古車大手・旧ビッグモーター(BM)による保険金の不正請求問題の余波もあるとみられる。中古車業界はビジネスモデルの大胆な変革を迫られている。
「価格を高くせざるを得なくなっているので、なかなか売れない」。こう男性客(49)に苦しい胸の内を打ち明けたのは奈良県の中古車販売店関係者だ。かつて敷地にずらりと並んでいた販売用の車は、ここ数年で目に見えて少なくなった。在庫を増やすほど売れる時代ではなくなった。
ある大阪府の業者は男性客(36)に「在庫を減らしているので、希望に沿える車種の中古車をすぐ用意できるか分からない」と伝えた。
たまたま約1カ月半後にこの車種が手に入ったため男性客に引き渡せたが、顧客の要望に応じられなければ客足が遠のき、さらに在庫を減らさなければならない悪循環に陥ることになる。
東商リサーチの調べでは、24年度の全国での中古車販売店の倒産件数は、23年度の71件から約38%増えた。近畿2府4県の24年度は15件で、23年度の16件からは1件減ったものの、22年度の7件から倍増となった。大阪府の24年度は7件で、近畿全体と同じ同じ傾向だった。
東商リサーチ関西支社情報部の新田善彦氏は「24年度の倒産の大半が負債総額1億円未満。小規模な事業者が圧倒的に多い」と指摘する。背景の一つが仕入れ価格の高騰で、経営体力のない中小は大手と違い、消費者へ十分に安い価格で販売できなかったり、価格を下げても利益を確保できなかったりしているとみられる。
中古車販売店はオークションで車を仕入れることが多い。中古車競売大手ユー・エス・エスによると、同社の手掛けるオークションでの今年2月の平均落札価格は126万円と過去最高になり、24年度全体も前年度比1割以上高い120万6千円となった。
落札価格をつり上げているのは、新型コロナウイルス禍や半導体不足で新車の生産が減ったことをきっかけとした中古車需要の高まりだ。円安で相対的に安くなった性能のいい日本の中古車を買おうと、海外業者の参入が増えていることも背景にあるとみられる。
このほか、物価高で消費者はお金の使い方に厳しくなり、日本銀行の利上げでカーローンの金利も上昇。さらに、旧BM問題の影響もあるとみられる。新田氏は「消費者は販売店を信頼できるか厳しくみて選ぶようになり、(ローンなどを手掛ける)金融機関やクレジット会社も(不正な販売がないか)審査を厳格化している」とし、中小販売店の逆風になっている可能性があるとみる。
近畿大学の芳澤輝泰准教授(経営学)は、旧BM問題について「まだ(業界の)信頼の本質的な回復にはつながっていない」とした上で、「従業員を教育するにしても中小は充てる人員もお金もない。社長自身がきわめて強い倫理観を持つことが不可欠だ」と話す。
一方、少子化や若者の車離れが進む状況では、多くの在庫を抱える従来のビジネスモデルを続ける中小の販売店は、遅かれ早かれ倒産する可能性が高いとする。
芳澤氏が必要と考えるのは「在庫を持たない経営」への転換。車種、予算などの顧客の希望を聞き、それに合った車をオークションで仕入れることで資金的なリスクを減らすことが内容となる。
また、特定の車に特化する「集中戦略」も提案する。ニッチな市場で専門性を高め競争優位を築くことが重要だとする。さらに、「販売ではなく地域密着型での修理やアフターサービスに特化する」ことで顧客と長期的な関係を築き、安定した収益源を確保することも求められるとする。
生き残るためには変化を恐れず、新たな価値提供を模索する思い切った転換が求められそうだ。(山口暢彦)
■旧ビッグモーター問題、業界への不信感を増幅
中小の中古車販売店の不振の背景には、旧ビッグモーター(BM)による保険の不正な水増し請求を機に、業界全体で同じことが行われているのではという不信感が広がったことがあるとの指摘もある。とくに大手に比べ信頼度の低い中小への逆風は強いとみられる。
旧BMが設置した特別調査委員会の報告書では、車体になかった傷を故意につけ、損害保険会社に修理費を過大に請求するといった行為が明らかになった。具体的には「ヘッドライトのカバーを割る」「ゴルフボールを靴下に入れて振り回し車体をたたく」などだ。
こうした不正行為の背景には過剰なノルマがあったことも判明。一連の不祥事を受け、創業者の兼重宏行社長(当時)は2023年7月に引責辞任し、24年5月、伊藤忠商事が事業を承継して新会社「WECARS(ウィーカーズ)」を設立した。
前後して同業大手で不正請求の事案が指摘されるなどのケースも相次ぎ、業界全体の信頼も落ち込んだ。
専門家からは、中古車の修理や点検などのプロセスは〝ブラックボックス〟で外から見えず、不正があるのではとの疑いがもともと消費者にあったとの指摘が上がる。今後も業界への疑念を完全に払拭するのは難しく、大手に比べて従業員教育などの態勢が整わない中小ほど消費者から選別を受けることになりそうだ。
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