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東京都港区では地価の上昇が続いており、2025年の相続税路線価が発表された結果、全国平均で4年連続上昇、前年比較で2.7%の増加となった。

この影響で、相続税の評価額が上昇し、土地を売らざるを得ない人が増える懸念が生じている。

千葉県行徳エリアも、都心からのアクセスが良く、地価が上昇中で、多くの住民が不安を抱く状況にある。

特に相続税の対象者が増加しており、2023年には約15万人に達するなど、相続税を巡る問題が深刻化している。

一方、観光地や工場進出地域でも地価上昇が見られ、この状況が相続税にどのような影響を与えるのかが注目されている。

具体的な事例として、著名アニメキャラクターが住む地域を元にした相続税のシミュレーションも行われ、路線価の高騰が税負担に与える影響が明らかとなった。

 

 

(要約)

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東京都港区の開発(撮影:越智貴雄) 

 

都市部や観光地を中心に地価上昇が止まらない。  

 

相続税や贈与税の算出に用いられる「相続税路線価」2025年分(1月1日時点)が今年も7月1日に国税庁から発表され、国内の調査地点平均は4年連続で上昇、前年からの上昇率は2.7%となった。  

 

急激な路線価の上昇によって相続税の評価額が上がり、土地を売らざるを得ないケースの増加が懸念されている。いざというときに慌てないために、知っておくべきこととは――。(取材・文:西岡千史/編集:鈴木毅、Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部) 

 

にぎやかな行徳駅(撮影:越智貴雄) 

 

千葉県市川市の南部に位置する行徳は、子育て世帯や外国人住民が多い都心近郊の典型的なベッドタウンだ。  

 

成田空港や羽田空港へのアクセスがよく、大手町まで電車で25分程度。もともと湿地や畑地が広がる農村地帯だったのが、1969年に営団地下鉄(現・東京メトロ)東西線の行徳駅が開業すると宅地や商業地の開発が始まった。 

 

行徳駅前も開発が進む(撮影:越智貴雄) 

 

現在、駅周辺は再開発が進み、マンションの建設や高架下の商業施設の開業が相次いでいる。昼間は人通りが少ないものの、夕方になると都心に勤務する人たちが電車を降りて、次々と駅前の繁華街へと吸い込まれていく。  

 

一方、駅から5分ほど歩いたところから住宅地が広がる。江戸時代には塩の生産地として栄え、100坪(約330平方メートル)以上の敷地を持つ家も少なくない。近年は、そうした古くからある家屋が取り壊され、アパートやマンションが建設されることが多くなった。 

 

青山真士さん(撮影:西岡千史) 

 

こうした街の発展、人の流入とともに近年、この地の路線価は上昇が続いている。駅前南口の商業地は2015年に1平方メートルあたり44万円だったのが、2025年は2.3倍の101万円になった。  

 

地域の不動産事情に詳しい「ベイライン」代表の青山真士さんが解説する。  

 

「浦安や行徳エリアは、景気が良くて都心部の戸建てやマンションの値段が上がると、それに手が届かない層が集まる傾向にあります。6000万円以下で購入できることが一つの基準です。一方、新型コロナウイルスの感染拡大で都心から人が離れた時期も、このあたりは引っ越し先に選ばれました」  

 

つまり、好景気にも不景気にも強く、安定的に土地の価値が上昇しているのだという。それだけに、古くから住む人たちは“ある不安”を感じているようだ。行徳駅から徒歩10分、年代を感じさせながらもしっかりとした造りの一戸建てに住む70代女性は、こう話すのだった。  

 

「この周辺でも、自宅を相続できなくなって家を売ってしまった人がいます。昔からの土地は広いので、戸建分譲用地として売却するか、マンションにする人が多いですね。私の家も、子どもにちゃんと相続できるか不安です」 

 

 

冨田建さん(本人提供) 

 

このようなことが、いま首都圏近郊の各地で起きている。  

 

東京23区の新築マンション平均価格は、2023年に1億円を超えた。新築小規模戸建て住宅の平均希望売り出し価格も、今年4月に初の8000万円台に(不動産調査会社・東京カンテイ調べ)。  

 

実勢価格とある程度相関する路線価でも、国税庁が7月1日に発表した最新のデータで、東京都の標準宅地の平均上昇率は全国最高の8.1%となっている。  

 

都心部に引っ張られるかたちで、近郊のベッドタウンでも地価の上昇が続く。43都道府県で鑑定業務経験のある不動産鑑定士・公認会計士・税理士の冨田建さんは、こう指摘する。  

 

「路線価の上昇傾向は、都市部や観光地で今後も全国的に続くでしょう。そして、土地の価値が上がっていることを主な要因として、相続税の“申告が必要な人”が増えているのです」 

 

相続税は基本的に、相続財産の金額が基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば発生しない。基礎控除の額を超えたとしても、申告時に配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例などを適用すれば、大きく圧縮することができる。  

 

それでも近年、相続税の申告が必要な人は増えている。国税庁の「相続税の申告実績の概要」(2023年分)によると、相続税の申告対象となる被相続人(相続財産を遺して亡くなった人)の人数は、2014年の約5万6000人から、2023年は約15万6000人に増えた。相続財産の金額は約12兆4000億円から約22兆7000億円に増え、相続税額も約1兆4000億円から約3兆円に増加している。人数、額ともに増加傾向にあるのだ。 

 

2025年「最高路線価地点」の上昇率ランキング 

 

全国の地価上昇の傾向を、最新の路線価からみていこう。全国の税務署ごとの最高路線価地点のうち、上昇率の上位に目立つのは、インバウンド需要を取り込んだ観光地だ。 

 

路線価が上昇している白馬村の地価調査基準地「白馬5-2」は、別荘地向けの商店が多い一角にある店舗の敷地だ(冨田さん提供) 

 

2年連続で上昇率日本一となった長野県の白馬村は、富裕層向けの外資系ホテルの建設が相次いでいる。国内有数のスキーリゾートとして知られ、夏の避暑地としても人気が上がっている場所だ。 

 

 

熊本県菊陽町の周辺地域は開発が進む(撮影:越智貴雄) 

 

冨田さんは言う。  

 

「丸山俊郎村長にヒアリングしたところ、“相続発生時に、本来は白馬村の不動産を売りたくはない人が、相続税路線価の上昇によって相続税が増加するためにしぶしぶ売らざるを得ない”という状況を警戒されていました。もともと現地では、1998年の長野冬季五輪のころに路線価が急騰し、相続税への対応のために住民が土地を手放さざるを得ない状況があったそうです」  

 

地価上昇のもうひとつのパターンが、工場進出による地域開発だ。熊本県菊陽町では、半導体受託生産世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の進出で、路線価バブルが発生している。 

 

工場の周囲には農地が広がる(撮影:越智貴雄) 

 

「農地を売ったら何千万円の収入になったという話もよく聞きます。のどかな農村地帯だったのに、どんどん変わっていく」  

 

熊本県菊陽町の工場周辺の住民は、急激な地価上昇に不安を漏らす。  

 

「一度、土地を売ってよそに引っ越した人は戻ってきません。工場が撤退すると、地域が消えることになりかねない」(別の周辺住民) 

 

最新の路線価で40年連続の全国最高額となったのは銀座・鳩居堂前(写真は銀座中央通りの銀座2丁目交差点付近、撮影:越智貴雄) 

 

こうした地価上昇が実際にどのくらい相続税に影響してくるのか。具体的なイメージをつかむためのモデルケースとして、冨田さんの協力を得て、有名アニメの登場人物が住む地域の路線価から相続税を算定してみた(簡易的に計算するために相続の条件は単純化し、未成年者控除などの各種控除や、葬儀費用などの債務は考慮外とした)。  

 

まずは極端なケースとして、『美少女戦士セーラームーン』の場合を見てみよう。  

 

主人公の月野うさぎは、物語の開始時は中学2年生で港区立十番中学校に通っている設定だ。麻布十番の一戸建てに両親と弟の4人で住んでいる。超一等地である。  

 

ここで、今回の相続税を算定する前提条件として、両親のうち、先に亡くなった親から残った親がすべての財産を相続し、その残っていた親が亡くなった段階で、すでに成人した子どもが相続する、というケースを考えてみる。  

 

土地の場所は、想定として東京都の地価調査基準地「港-7」とする。麻布十番駅から160メートルほどの港区東麻布3丁目にある159平方メートルの土地だ。 

 

 

月野うさぎ(美少女戦士セーラームーン)の家の場合 

 

この場所の最新の路線価は1平方メートルあたり152万円だから、土地評価額は2億4168万円になる。家屋の価値は、鉄筋コンクリート造の豪邸を想定して2000万円、これに加えて金融資産などその他財産が約8000万円(野村総合研究所が推計・発表した2023年の「富裕層ピラミッド」から上位5%程度を想定)あったとして、相続税評価額の合計額は約3億4000万円。  

 

ここから法定相続人が2人の場合の基礎控除(4200万円)を引いて計算すると、相続税額は2人で約8600万円になる。  

 

ここに、小規模宅地等の特例(被相続人と同居していた親族が自宅を相続する場合など)などが適用されると、土地の評価額が8割引きの「2割」で計算されるため、様相が変わってくる。土地評価額は4833万6000円になり、相続税額は2人で約1790万円になる。  

 

ちなみに、これが1年前の2024年だと路線価は132万円だから、ほかの財産の評価額が同じとすると、小規模宅地等の特例の適用なしで相続税額は約7300万円、適用ありで1600万円になる。たった1年でこれだけの差が生まれるのである。 

 

サザエさんの家の場合 

 

冨田さんはこう語る。  

 

「このケースでわかるのは、路線価の上昇で、特に特例を適用していない場合は如実に税負担が上昇することもある、ということです」  

 

このほか、『サザエさん』(世田谷区桜新町)、『ちびまる子ちゃん』(静岡市清水区)のケースを計算してみた。  

 

『サザエさん』では東京都の地価調査基準地「世田谷-3」を想定し、サザエ、カツオ、ワカメの3人が全員成人したと見なして相続。相続税額は総額で約860万円になるが、特例を適用すると、相続税評価額の合計は基礎控除の範囲内におさまるので相続税は発生しない。 

 

ちびまる子ちゃんの家の場合 

 

一方、『ちびまる子ちゃん』は公示地「静岡清水-9」を、こちらも成人した2人姉妹が相続するというケースで想定したが、特例を適用せずとも、基礎控除の範囲内で相続税は発生しなかった。 

 

 

 
 

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