( 324171 )  2025/09/14 03:41:50  
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大阪府の吉村洋文知事は、大学受験生が納付した入学金が入学を辞退しても返還されない現状を問題視し、国に改善を要望した。

調査によると、返還されるべきだと考える保護者は68%を超え、入学金と授業料の返還が特に問題視されている。

吉村氏の経験から、私立大学の入学金納付期限が国公立大学の合格発表前に設定されることが二重払いを招いていると指摘。

文科省も大学に負担軽減策を通知し、いくつかの大学が入学金の部分返還を実施する方針を示したが、運営上の課題から全ての大学での適用は難しいとの声もある。

根本的な解決には入試制度の見直しが必要とされている。

(要約)

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入学金の返還について問題提起する大阪府の吉村洋文知事=8月18日、府庁 

 

受験生が大学に納付した入学金が入学を辞退しても返還されない現状の見直しを求め、大阪府が8月、国に各大学へ働きかけるよう要望した。きっかけは保護者として受験を経験した吉村洋文知事による問題提起。府の調査では4割が授業料も返還されていない実態が明らかになった。学生の進路選択を狭める要因となり、国も大学側に対策を求めるなど返還の動きは出始めてはいるが、根本的な解決には入試制度の見直しが必要だとの指摘も出ている。 

 

■「虫のいい話ですかね?」 

 

「入学しないのに入学金が返還されないのはどうなのか。虫のいい話ですかね?」 

 

吉村氏は4月、記者団に対し、「一保護者」として子供が併願で合格した大学の入学金納付期限が別の志望校の合格発表前に設定され、入学金を〝二重払い〟した経験に不満を漏らした。 

 

大学入試では私立大の一般選抜が1月下旬から、共通テストの結果をもとに出願する国公立大の2次試験が2月下旬から始まる。国公立大の合格発表前に私立大の入学金納付期限が設定され、吉村氏のように私立大の入学資格を維持するため、入学金を二重払いするケースは少なくない。 

 

吉村氏の問題提起を受け、府は保護者として大学受験を経験した府内の879人を対象にインターネット調査を実施。入学を辞退した大学などに納付した入学金と授業料について597人(68%)が「返還されるべき」と回答した。また、入学金と授業料の両方を支払った230人のうち、「どちらも返還されなかった」のは104人(45%)で「入学金のみ返還されなかった」のは82人(36%)となった。 

 

調査結果を受け、府は8月18日、文部科学相に入学金返還や納付期限の後ろ倒しなどを講じるよう、私立大に求めることを要望。「すべての子育て世帯に対して教育費負担の軽減を図ることが急務」と指摘した。 

 

■授業料には返還義務 

 

文科省の調査によると、令和5年度入学者の大学入学金の平均は、私立大が約24万円、国立大が約28万円。授業料も二重払いとなれば、家庭の負担は小さくない。全国大学生活協同組合連合会が約3万人に実施した「2025年度保護者に聞く新入生調査」では、「受験から入学までにかかった費用で予定と違って困ったこと」の回答で、「入学を辞退した大学への入学金や授業料」が教材費や家賃などに次いで3番目に多い22・1%となった。 

 

こうした負担の是非は過去に法廷で争われている。学生側が入学を辞退した大学への入学金や授業料など「学納金」の返還を求めた民事訴訟では平成18年の最高裁判決で、消費者契約法に基づき学校側に授業料の返還義務があるとしたが、入学金は「入学し得る地位を取得するための対価」として返還義務を負わないと結論付けた。 

 

 

府の調査で入学金だけでなく授業料も返還されなかったとした回答が4割に上った背景には、学生側が学校側の返還義務を知らなかったり、入学前の3月末までに返還を請求しなかったりしたケースもあるとみられる。 

 

■全額返還に応じる大学も 

 

学生の受験機会を狭める恐れもある。有志団体「入学金調査プロジェクト」の発起人、五十嵐悠真さん(26)は学生時代、友人の妹が家庭の経済事情から大学受験で併願を諦めたことを知り、令和3年から制度見直しを求める署名活動や実態調査を始めた。五十嵐さんは「目標は全大学が合格発表の出そろった3月末に入学金納付期限を設定すること。子供が経済的な理由で受験をあきらめなくてもいいようにしたい」と話す。 

 

入学金を巡る国会での指摘もあり、文科省は今年6月、各大学に対して入学金の負担軽減策を講ずることに努めるよう全国の私立大に通知。その後、桃山学院大(大阪府)は併願入試の合格者が入学を辞退した場合、入学金の8割を返還すると公表し、美作大(岡山県)も、国公立大に合格した併願者に入学金全額の返還に応じるとする。 

 

■授業料増額につながる可能性 

 

ただ、こうした対応は学生の多い大学ほど難しい。日本私立大学団体連合会によると、私大は国公立大に比べて運営の原資を学生からの納付金に頼る割合が高く、入学金返還による減収が大きくなるほど受験料や授業料の増額が必要となる。入学金の納付期限を3月末に設定すれば辞退者が増え定員を下回った場合、補欠合格で学生を補充するため学生側の進路決定が4月以降になり、授業計画や予算の決定も遅れる。 

 

同会の担当者は「返還対応は各大学の判断になるが、根本的な解決には国公立大も含めた入試制度の見直しが必要ではないか」と指摘している。(山本考志) 

 

 

 
 

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