( 324318 ) 2025/09/14 06:29:26 0 00 半世紀以上続いた事実上の減反政策が終わり、政府がコメ増産にかじを切った。水田政策の抜本的な見直しは令和9年度からで、人件費や資材価格高騰という逆風の中、コメの生産量を増やせるかは各地の担い手の取り組みにかかっている。農家ではすでに、ドローンなどによるスマート農業導入や、栽培方法の工夫により大規模化を目指す取り組みを進めている。
■7年産も高くなる
7年産米の収穫が各地で始まった。福島市の農業法人、未来農業は今年、主食用米の作付面積を昨年の1・8倍に当たる16ヘクタールに増やした。丹野友幸社長は政府の方針転換に先立ち、昨夏に主食用米の作付けを増やす検討を始めた。集荷業者やJA(農協)関係者の話から「コメの需要過多に供給が追い付いていない。7年産も高くなる」と確信したからだ。
作業効率を上げるため、今年は水を張った田んぼに種を直接まくことができる農業用ドローンを導入。「1台買った方が作業員1人雇うよりいいかも」と笑う。機体やライセンス取得費用などで400万円程度かかるが、肥料や農薬の空中散布などドローンの出番は多い。来年以降は、生育状況を把握するため、空から田んぼを撮影することも考えているという。
北海道有数の米どころ、岩見沢市のJAいわみざわ。平成25年に市や地元農協などが立ち上げた「いわみざわ地域ICT農業利活用研究会」を中心に、農作業の効率化で一定の成果を上げた。衛星利用測位システム(GPS)の利用で自動運転ができる無人トラクターと有人トラクターを併用したり、ドローンで農薬を散布したりしている。
いわみざわ農協水稲部会の町田光広部会長は「作業負荷が減った分を他の仕事に振り分け、農地を増やせた」と話す。
■高温耐性品種の研究開発
近年の気温上昇を受け道立総合研究機構(道総研)では令和6年度に高温耐性品種の研究開発を始めた。交配から新品種として認められるまで、一般的には10年ほどかかる。だが、近年は道外産地の高温耐性品種を交配に用いており、道総研中央農業試験場水田農業グループの山下陽子主査は「これらの中から有望なものがあれば、10年かからずに見つかることも考えられる」と期待する。
政府の増産方針を受け、水を張っていない乾いた田んぼに種もみをまく栽培方法「乾田直播(ちょくは)」も注目されている。乾田直播の作付面積では全国2位の規模を誇る宮城県では、5ヘクタール以上を対象に10アール当たり2千円以内の補助金を助成している。
JA加美よつば(宮城県色麻町)は今年、34ヘクタールを使って初めて乾田直播の試験を始めた。関係者向けの現地検討会をこれまで3回行い、毎回70人ほど集まるほどの盛況ぶり。担当者は「乾田直播には大規模農業ができる可能性がある」と話す。
■予想より5年早かった
320ヘクタールでコメを栽培する西部開発農産(岩手県北上市)の照井勝也社長は「必ずコメ不足は来ると思っていたが、予想より5年早かった」と漏らす。同社は規模拡大の切り札として乾田直播を導入。従来1カ月かかった田植え前の育苗と、水を入れた田んぼを平らにならす代かきの労力が省ける。畑作の技術が必要で最初の5年間は試行錯誤したが、同社受託部の清水一孝部長は「手間を省けるので十分ペイする。乾田直播こそが東北におけるコメ増産のキーワードだ」と言い切る。
コメの栽培面積が58ヘクタールに達する企業、かきのうえ(同県八幡平市)も主力は31ヘクタールの乾田直播だ。通常の田植えは17ヘクタールで、残る10ヘクタールは岩手大農学部の下野裕之教授が開発した農閑期の初冬に種もみを直播(じかま)きして越冬させる「初冬直播き栽培」を導入した。立柳慎光社長は「コメ増産の道は容易ではないが、将来の効率的なコメ栽培を実現する絶好のチャンス。政府には(生産性が高い農地を作る)圃場(ほじょう)整備の強化と大区画化に本腰で取り組んでほしい」と強調した。(芹沢伸生、坂本隆浩、菊池昭光、石田征広)
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