( 324541 )  2025/09/15 06:08:25  
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星野優花さんは地方の市役所で3年目の公務員で、国立大学の院を卒業したものの、企業での研究職を諦めて実家に戻り役所に勤務することになりました。

奨学金の返済や生活費を親に入れる必要があり、手取り給与は月20万円ほど。

2年前から副業としてバイトを始め、月12万円を稼いでいましたが、バイト中に役所の上司に見つかりそうになるトラブルがあったり、異動を言い渡されたりして、バイトを辞めざるを得なくなりました。

将来や親の期待を考えると、役所の仕事を続けるべきか悩んでいます。

(要約)

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星野優花さん(仮名)は地方の市役所に勤務して3年目になる公務員。企業の研究職志望で地元の国立大学の院を出ましたが、夢は叶わず、実家に戻って出身地の市役所に勤務することに決めました。不本意な決断の裏には、地元で工務店を経営するご両親の強い後押しがあったようです。 

 

しかし、最初の給与明細を見て愕然としたとか。いくら地方とはいえ、院卒の星野さんでも手取りが20万円ほどしかなかったからです。貸与型の奨学金を受けていた星野さんには卒業時点で七百数十万円の“借金”があり、さらに実家に生活費を入れると、手元にはほとんど残りません。 

 

やむなく、2年前に月収12万円の“秘密のバイト”を始めました。しかし、このお盆休みには役所の係長が偶然バイト先を訪れるアクシデントがあって危うくバイトがばれそうになり、さらに、バイトを辞めざるを得ない決定的な出来事が起きたのでした。 

 

〈星野優花さんプロフィール〉 

地方都市在住 

27歳 

女性 

地方公務員 

両親、祖母と4人家族 

金融資産20万円 

 

私は地方都市の役所に勤務しています。比較的ホワイトな部署で繁忙期を除けばほぼ定時で帰れるので、2年前から週3日、終業後にバイトをするようになりました。 

 

私は県庁所在地にある国立大学の院を修了したのですが、学部の後半と院の時にスナックでお小遣い稼ぎをしていました。実家が工務店を経営していて現場のおじさんたちに囲まれて育ったので、客あしらいは結構得意です。カラオケ好きで歌にもちょっと自信がありました。 

 

実家は地元の大きい建設会社の下請けで、経営が苦しいため、家には毎月10万円生活費を入れています。自分の奨学金の返済もあったので役所の給料だけではキツく、LINEでつながっていた当時のママから「じゃあ、時間がある時にうちでバイトしなよ」と誘われて働くことにしたのです。 

 

小さなお店なのでほとんどが地元の常連さんばかり。週に数日働いたとしても役所にばれることはないだろうと高をくくっていたのです。 

 

 

ご存じの方が多いと思いますが、地方公務員の副業は禁止されていました。「いました」としたのは、2025年6月に総務省の通知によって副業が解禁されたからです。 

 

ただし、解禁と言っても、実際に副業するには申請して任命権者の許可を得る必要があります。そもそも副業が解禁されたのは地域の働き手不足の解消や自分のキャリアアップを目的とするものですから、申請してもスナックでの副業が許可されるとは思えません。むしろ、旧態依然たる地方のお堅い職場ですから、「あの人、スナックでバイトしてるらしいよ」と後ろ指をさされるのが関の山です。 

 

先日も他県の女性公務員が勤務先に内緒で副業をして懲戒処分を受けたというニュースがありました。同じ職場の先輩たちとランチに出た際、「優花っち、歌うまいし、配信とか地下アイドルとか副業やってたりしないよね?」といじられて一瞬言葉に詰まったこともありました。 

 

週初めの月曜日と週末の金曜日は突発的な仕事が入ることもあるので、バイトは火曜日から木曜日の3日間に集中させています。 

 

役所からバイト先のスナックまでは、車を飛ばして40分ほど。19時に入店して23時の閉店まで4時間働くと、帰宅するのは日付けが変わる頃になります。車の運転があるので好きなお酒がいただけないのは残念ですが、顔なじみのお客さんから仕事や家庭の話を聞かされたり、一緒にカラオケを歌ったりして過ごすのは、昼間の仕事とは180度違って楽しい時間でもありました。 

 

ママは料理上手で、私がシフトに入る日は私の好きなボルシチやオムライスのまかないを用意してくれたりします。交通費別で毎月12万円ほどが現金で支給されるので、本当に助かっていました。 

 

そんな“秘密のバイト生活”にちょっとしたさざ波が立ったのが、このお盆休みのことでした。お盆休みは本業が休みなので、スナックの近くに住む大学時代の友人の家に泊まることにし、お酒もいただきながら接客していました。それもあって、いつも以上にテンションも高くなり、皆でMrs. GREEN APPLEやHANAの歌を歌ったりして盛り上がりました。 

 

私より少し年上の常連さんたちが気持ち良く引き上げていった後、22時半頃のことだったと記憶しています。お店のドアが開いて、40代の常連さんが「ママ、2人なんだけどちょっとだけいいかな?」と顔をのぞかせました。食事を終えた後に場所を変えて一杯と考えたようで、閉店時間が迫っていたことからママに許可を得たのでしょう。 

 

「他のお客さんもいないし、12時くらいまでなら大丈夫」とママが応じ、常連さんと一緒に入ってきた人の顔を見て、思わず息が止まりそうになりました。役所の他部署の係長だったからです。酔いがすっと引いていくのが分かりました。 

 

私の変化に気付いたママが「帰りなさい」と耳打ちし、裏口から慌てて店を後にしました。ママの機転で結果的に係長には気付かれずに済んだのですが、友人のアパートまで10分ほどの道のりを歩く間もずっと心臓がばくばくしていました。 

 

それ以降はバイト中も常に不安や罪悪感がありました。 

 

 

そして先月末、そんな私に決断を迫るような出来事がありました。 

 

人事課長に突然呼び出されて、10月からの異動を言い渡されたのです。欠員が出たとのことでしたが異動先は役所の花形部署、なぜ3年目の私が選ばれたのか疑問でした。しかし、花形だけに役所内でも一、二を争うハードな部署で、バイトしている余裕はなくなります。 

 

代わりに残業手当がもらえるからいいじゃないかと思うかもしれませんが、役所の勤務時間は自己申告制で、残業が多い部署ほどサービス残業が多くなるだけ。残業手当はせいぜい数万円と聞いています。 

 

バイト先のスナックのママに相談したら、「いっそのこと、役所を辞めてうちに来れば?」と誘われました。スナックでフルに働けば今よりも稼げるし、楽しいかもしれませんが、自分の将来や親のことを考えると、それはできないと思いました。親は私の異動話を聞いて、「すごいじゃないか!」と手放しで喜んでくれていました。 

 

結局、バイトは辞めることにしました。ママが「戻ってきたくなったら、いつでも戻ってきていいよ」と言ってくれたのが救いです。 

 

それにしても、今さらながら、公務員を選んだことが自分の人生にとって良かったのかどうか考えてしまいます。民間企業に就職した友人や弟を見ていると、給料や待遇などいろいろな面で、民間企業の方が断然有利に思えます。 

 

月末には今の部署の人たちが送別会をしてくれることになりましたが、正直、異動には不安しかありません。700万円もの奨学金をバイト収入なしで返していけるのか……。このまま公務員を続けていっていいのか悩んでいます。 

 

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。 

 

森田 聡子(金融ライター/編集者) 

 

 

 
 

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