( 325458 ) 2025/09/19 03:51:46 0 00 アフリカ諸国との「ホームタウン」に認定された国内4市の市長ら=2025年8月21日、横浜市西区 - 写真=共同通信社
国内の自治体をアフリカの「ホームタウン」に認定するJICAの事業をめぐり、騒動が続いている。この問題を取材したライターの九戸山昌信さんは「今回の事業が炎上した原因は、ネーミングが移民政策を想起させやすかったことと、地域を限定したことだろう。このほかにも『アフリカからの移民』につながる新制度が2027年から始まるため、注視したほうがいい」という――。
■JICA「ホームタウン」事業が大炎上
「アフリカからの移民受け入れ政策か」との疑念がいまだ払拭しきれないJICAのアフリカ・ホームタウン。林芳正官房長官は会見で「JICA研修事業等を通じたインターン生の受け入れを想定している。この研修は期限付きで、研修終了後は研修生の出身国への帰国を前提としていて、移民の受け入れ促進ではない」とコメントした。JICAや外務省は混乱を理由に制度名称の変更のほか、内容も再検討しているという。
そもそも、政府は移民政策が国民に不人気であることは、重々承知している。これまで公式に「移民」の定義を示しておらず、その存在や解釈を認めていない。在留外国人全体やその動向、状態を「移民」として言及するのを避け、個々人の在留資格に対応した「目的」の部分しか説明をしないのが常だ。つまり現在、377万人いる在留外国人は移民ではないというスタンスだ。
その意味で、ホームタウンの問題に関しても、政府はもともと存在を認めてない「移民」という概念を、あらためて否定しただけ、という見方もできる。もしそうであれば、アフリカ4カ国出身者の住民登録や在留人口の流入超過を否定しているわけではないことになる。「食事はしたが、米は食べてない」という“ご飯論法”のような話である。
■「アフリカからの移民」につながる新制度
今回のホームタウンが騒動になった原因は、ネーミングが移民政策を想起させやすかったことと、地域を限定してしまったことだろう。実はあまり話題になってはいないが、「アフリカからの移民」にも繋がる新制度はすでに決まっている。
これは現在の技能実習制度の後継にあたる「育成就労」で、2027年から開始予定の制度だ。特に、永住や家族帯同が可能になる「特定技能2号」の対象分野が、建設などの2分野から、外食などを含む11分野に大幅拡大され、大きく裾野を広げた。文字通り、移民政策に近いと指摘されている。円安など相対的な日本の低賃金化で、アジア圏からの働き手の確保が難しくなり、今後は物価水準が安いイスラム圏やアフリカ諸国に受け入れ対象国が広がるとも指摘されているのだ。
この制度の受け入れ目標は現在の技能実習生42万人のおよそ倍の82万人であり、家族帯同が増えればこの何倍も在留外国人の人口が増える可能性がある。イスラム圏では、すでに19年にパキスタンとの間で技能実習の送り出し国として覚書を交わしている。
■「抜け穴」だらけの在留資格制度
そもそも、「移民政策」かどうかは、移民希望者から見て、利用できる制度や在留資格が、移民目的として活用できるかが全てと言っていい。彼らにとっては政府が在留資格に定めた趣旨や目的は関係ない。
例えば、全体の約6割が中国系であり「中国人用の移民ビザ」とも揶揄される「経営・管理」を使ったり、「留学→就業ビザに切り替えて国内企業へ就職」という方法もある。これらは永住権取得や帰化へのステップとしても活用される「移民ルート」だ。政府はもちろんこれらの状態を移民政策だとは説明していない。
他にも、「クルド人問題」で明らかになったように、観光ビザで来日して難民申請を繰り返せば(現在は2回まで)、脱法的な長期滞在が可能だ。またテレビ朝日の報道によれば、大阪万博の滞在のためのビザで来日したアフリカ出身者による、就労系のビザへの切り替え希望者の相談が行政書士事務所に複数寄せられているという(「万博で日本に入国…『帰りたくない』 就労ビザに切り替えたいとの相談相次ぐ」テレ朝NEWS、2025年9月16日11時配信)。こちらも難民申請を検討する者もいるという。彼らが移民目的ではないと説明するのは困難だろう。
■取材に対し、JICAの担当者が答えたこと
その意味で、ホームタウン事業に関しても、移民目的として利用できる制度なのかが、「移民に繋がる事業」かどうか、の全てと言っていい。
現在、政府が明確に「誤報」と説明しているのは、公的・法的に元々、存在しない立場の「移民」の受け入れ促進と、「特別ビザの“新設”」のみ。否定の仕方も「想定されていない」と、トーンの弱い表現となっている。やはりアフリカ4カ国の人々の住民登録を伴う3カ月以上の国内在住や、既存の在留資格の活用自体をなんら否定するものではないのだ。
JICAの広報担当者は取材に対し、以下のように答えた。
「『アフリカ・ホームタウン』は交流目的でインターン生を受け入れる研修事業です。長期か短期か、いつまで続くか、また、在留資格など詳細は現時点で決まっていません。過去のJICAの研修事業では、様々な目的のもと、大学や団体、企業でインターン生の受け入れ支援を行い、その後のインターン生は帰国することもあれば、国内に就職することもありました」
■「研修事業」で約7割が日本国内に就職
現時点で判明している主な情報は、依然として林官房長官の発言部分である「JICAの研修事業などを通じたインターン生の受け入れ」のみ。
JICAは、これまで研修事業を通じて多くの外国人材の国内受け入れを支援してきた。例えば、JICAバングラデシュ事務所のHPでは「日本市場向けバングラデシュITエンジニア育成プログラム」(2017〜2020年)が紹介されている。この事業では280人の研修生(インターン生)のうち186人が日本国内に就職したという。
インターン生から在留資格を就業系に切り替えて、住民登録をして居住していることになる。基本的には離職しない限り、在留資格は更新が可能で、住民として定住する。申請条件を満たせば、永住権や帰化の申請も可能になる。この事業も、JICAからは「移民受け入れに繋がる事業」という説明は当然ない。就業系のビザを含め、ほとんどのビザで在留期間があり、「帰国前提」という説明には嘘がない。
■BBC報道「日本人同様の医療サービスを受けられる」
今回のホームタウン事業は、前述のように詳細がほぼ明らかになっていないため、「移民の受け入れ」に繋がる側面を持つ事業と断定することはできない。しかし「アフリカ移民」が注目されるのには理由がある。それが前述の「育成就労」の新制度だ。
実はこの制度がアフリカ側の誤情報とされる「新しく創設された特別ビザ」の誤解ではないかとの見方があるのだ。BBCで報じられた「日本人同様の医療サービスを受けられる」という部分は、そもそも3カ月以上の滞在であれば誰しも最大3割負担の健康保険の加入を義務付けられる。
つまり何もないところから、アフリカ側が勝手に創作したのではなく、27年から始まる「育成就労」の在留資格の活用を説明され、これをアフリカ側が「新しく創設される特別ビザ」と誤解して発表したのではないか、と考えれば自然なのだ。国民民主党の玉木代表も後に外務省やJICAからの説明を根拠に訂正したが、当初は「育成就労」との関連を疑っていた。
■なぜ「外国人の受け入れ」を進めるのか
もっとも、ホームタウン構想は騒動になったことで、当初予定された内容から縮小や変更される可能性はあり、政府も「今後の在り方について検討を進めている」という。
ただ、政府や企業の関係者は、基本的なスタンスとしては、より一層の外国人の受け入れを推進している。それはやはり彼らにとっては明確な“実利”があることもその背景にあるだろう。
そもそも、外国人労働者受け入れの目的に関わる人手不足の問題は、低賃金問題ともイコールだ。もし、本当にただの人手不足なら、日本人を含めた全体の賃金水準が上がっていないとおかしいが、実際には、労働分配率は史上最低水準で、その結果、実質賃金も30年、ほぼ右肩下がりだ。一方で上がっているのは、企業の利益率だ。法人企業統計によれば2014年の売上高営業利益率は3.6%だったが、24年には5%であり40%近く向上している。
この企業の利益水準を支えるのが低賃金の労働力だ。10年ほど前までは氷河期世代がこの役割を果たしてきたが彼らも50代に差し掛かり、この代替が外国人材というわけだ。しかも企業は、外国人労働者受け入れによる、摩擦や弊害とはほぼ関係なく、社会的な受け入れコストを負わずに済む。それどころか、外国人の雇用自体にも公費から助成金が出る。企業経営者にとっては、技術革新の必要なく「外国人問題」のデメリットとも無縁で、利益だけ総取りできる確実性が極めて高い政策なのだ。また、移民の増加で人口減少スピードを低減できれば、売上水準の確保や、政府や地方自治体にとっても、税収減の抑制が期待できる。
■政府や企業の「利益」になっている
政府や企業に関係する人々にとっては、税収や売り上げの源泉であるGDPが重要あり、それを左右するのは人口ボリュームだ。彼らにとっては必ずしも国内人口の中身が日本人である必要はなく、日本人が減るなら、代わりを外国人で補った方が得となる。一方、日本人の個々人にとっては、外国人労働力の供給で不利になる一人当たりの所得や、今まで通りの地域社会や日本らしさが重要となる。
つまり、移民政策においては、国の「規模」が重要な「政府・企業」に関係が深い社会階層と、身の回りの環境が大事な一般的な日本国民とは、もともと利益相反関係になりやすいという構図があるのだ。
移民政策は欧米で問題が噴出しているが、政府や企業にとっては株価も利益率も税収も過去最高で、数字の面で確実性が高い実利がある。政府や企業の中枢にいて、政策立案に関与できる関係者らにとっては「大成功だから続けたい」というだけなのかもしれない。
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