( 326181 )  2025/09/21 07:11:17  
00

中国の習近平国家主席は、最近、中国経済の困難な状況についての報告を発表した。

中国中央政府は、地方政府の債務問題を解決するために、政策銀行や国有商業銀行を通じて巨額の貸し付けを行う計画を検討している。

しかし、地方政府は1兆ドルを超える未払い債務を抱えており、この債務問題が中国経済の停滞を引き起こしていると指摘されている。

日本の「失われた30年」との比較を通じて、中国経済の強さと脆弱さを分析し、外貨準備や家計貯蓄が経済を下支えしている一方で、国家資本主義によって企業の延命が図られていると述べられている。

また、製造業が依然として強固であり、雇用の確保や技術の発展が経済を支えているが、リスクも内包している。

更に、中国の金融統制が強化されており、事実上の預金封鎖に近い状態が続いていることも指摘されている。

(要約)

( 326183 )  2025/09/21 07:11:17  
00

中国の習近平国家主席 Photo:Lintao Zhang/gettyimages 

 

● チャイナショック以降も 中国経済が崩壊しないワケ 

 

 9月11日、ブルームバーグが「中国の中央政府が、政策銀行や国有商業銀行を通じて地方政府に巨額の貸し付けを行い、債務返済や未払いの整理に充てさせる計画を検討している」と、匿名の政府関係者の話として報じた。 

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-09-11/T2EUHLGP9VD000 

 

 中国の地方政府が抱える未払い債務は1兆ドルを超えると推定されており、地方政府の資金難が建設業者やサプライヤーに連鎖的な影響を及ぼし、中国経済が停滞している元凶であると考えられている。 

 

 もしこれが実行されれば、停滞する中国経済が改善に向かう可能性があるが、あくまで「検討段階」であり、最終決定はされていない。 

 

 また、地方政府には、自身の債務だけではなく、その傘下にあるインフラ投資会社「融資平台(LGFV)」に莫大な「隠れ債務」があると見られている(詳しくは後述)。 

 

 地方政府の債務だけを整理しても、真の解決にはならない。 

 

 このような背景から、2015年のチャイナショック以降、世界では幾度となく「中国経済崩壊論」が語られてきた。 

 

 実際、地方政府の隠れ債務問題は膨張を続け、不動産不況は長期化し、物価はデフレ局面に入り込んでいる。 

 

 また、若年層の失業率は約20%に達し、都市部の不動産市場は冷え込み、過剰投資のツケが至るところに表れている。 

https://asiasociety.org/policy-institute/19-percent-revisited-how-youth-unemployment-has-changed-chinese-society 

 

 ところが、現実には、深刻な連鎖倒産や大規模な金融危機は発生していない。 

 

 なぜ中国は「崩壊」を免れているのか。それは中国が強権国家ゆえに、破綻や倒産を免れるシステムが確立されているからだ。ただし、それは問題の先送りであり、根本的な問題解決とはほど遠い。 

 

 ここでは、日本の「失われた30年」と戦後日本の預金封鎖など歴史的事例と比較しながら、中国経済の強靱(きょうじん)さと脆弱(ぜいじゃく)さの両面を解き明かし、日本が学び取るべき教訓を探っていく。 

 

 

● 分厚い外貨準備と 高水準の家計貯蓄 

 

 中国経済が崩壊に至らない最大の理由として、外貨準備と家計貯蓄が中国の財政にとって強固な防波堤になっていることがある。 

 

 2025年7月時点で、中国の外貨準備高は約3.3兆ドルに達しており、世界最大規模を維持している。 

https://tradingeconomics.com/china/foreign-exchange-reserves 

 

 中国政府は、中国経済が二桁成長を遂げていた時期であっても、人民への社会保障を充実させず、その財政をもっぱら「さらなる経済成長」と「国際覇権の拡大」と「治安維持」に当ててきた。 

 

 これはいわば、多くの人民の負担の上に国家の威信を拡大するという構図である。これは、都市戸籍と農村戸籍を分け、「身分」を固定化して、多くの貧困層から搾取が可能なシステムによって維持されてきた。 

 

 社会保障が貧弱である代償として、多くの人民が貯蓄に励み、内需が拡大せず、輸出だけが肥大化することによって外貨準備が積み上がった。 

 

 この潤沢な外貨準備は、アジア通貨危機やラテンアメリカの債務危機で見られた「ドル不足→通貨暴落→金融破綻」という連鎖を防ぐ盾となっている。 

 

 通常の国であれば「破綻状態」であっても、中国経済は破綻せず維持される構造を有している。 

 

 とくに、内需拡大に力を入れず輸出主導であったことで、経常収支は恒常的に黒字であり、いまだに外貨の蓄積は安定的に続いている。 

 

 また、中国の家計は突出して高い貯蓄率を誇る。J.P.モルガンの推計によれば、2023年の家計貯蓄率は31.7%に達し、2022年には一人あたり貯蓄率が34.3%と過去十年で最高を記録した。 

https://am.jpmorgan.com/au/en/asset-management/adv/insights/market-insights/market-updates/on-the-minds-of-investors/a-dive-into-chinese-households-balance-sheets/ 

 

 中国における家計の高貯蓄は、医療・教育・老後資金を自前で賄わねばならない社会保障への不安から来ている。中国の消費は伸び悩んでいるが、その裏返しとして極端な消費崩壊や資金流出を防ぐ「安全弁」として機能している。 

 

 これは日本のデフレ期に起きた構図とは逆である。 

 

 日本ではバブル崩壊後、多くの都市不動産の所有者が含み損を抱え、年配者層以外の家計貯蓄率が低下し、所得の伸び悩みや雇用不安と相まって消費が縮小し、長期のデフレ不況を形成した。 

 

 中国の場合は、むしろ貯蓄率が高すぎることが消費を抑制し、内需拡大の妨げになっている。 

 

 ただし、人民が政府への不信感を深めれば「タンス預金化」して、経済にとってマイナスになる可能性がある。今はその瀬戸際にあり、今後も現在の体制を維持できるかは不透明だ。 

 

 

● 日本のバブル崩壊後とは対照的な 国家資本主義による「経済管理」 

 

 「分厚い外貨準備」と「高水準の家計貯蓄」以外の中国経済の特徴として、中国特有の国家資本主義体制がある。 

 

 政府は毎年「目標成長率」を掲げ、それに合わせる形で政策と統計を調整する。国有銀行が金融システムの中枢を占めるため、地方政府や不動産企業が巨額の債務を抱えても、政府の指示で借り換えや再編が行われ、破綻が回避される。今の中国経済はこれを繰り返している。 

 

 この点も、日本のバブル崩壊後とは対照的だ。 

 

 日本では不良債権処理が遅れ、民間銀行が貸し渋りや貸しはがしを行い、企業倒産の連鎖を招いた。中国の金融機関では「貸さない」のではなく、「貸し続ける」ことで延命させており、信用収縮による金融危機をなんとか回避し続けている。 

 

 もちろん、これらの企業は健全ではなく、多くが「ゾンビ企業」である。ゾンビ企業を温存し続ければ、それだけ中国企業全体の生産性は下がり、経済全体が停滞する。 

 

 ただし、潰れかけている企業を速やかに手当てしていくことは、連鎖倒産を防ぐ点では有効だ。これも中国経済の急激な崩壊を防ぐ防護壁となっている。 

 

 中国政府は、雇用の維持を最優先課題としている。特に国有企業を通じて雇用が守られることは、大規模失業が社会不安に転化するのを防いでいる。アメリカによる高関税政策によって外資の一部は撤退し、その規模は縮小しているが、それでも依然として中国は「世界の工場」としての地位を保っている。 

 

 統制によって崩壊を回避するという中国のモデルは、まさに国家資本主義の典型だろう。ただし、それらが「持続可能」なのかどうかは、今後の経済活動次第だ。 

 

● 製造業の底堅さと 「世界の工場」の持続力 

 

 中国経済を支える大きな要因の一つが、依然として強固な製造業である。 

 

 第一に、サプライチェーンの集積度である。電子部品から繊維、化学、機械まで、川上から川下までの産業集積が中国国内に形成されており、代替国にすげ替えるのは決してたやすくはない。 

 

 アメリカや日本、東南アジアへの生産分散はたしかに進んでいるのだが、完成品組み立てから部材供給までを一国でこなせる体制は依然として中国が群を抜いている。 

 

 

 第二に、輸出の強さがある。2024年の中国の輸出額は前年比で伸び悩んだとはいえ、なお世界全体のシェアで13%超を占めており、先進国では製造業が強いドイツや日本を大きく上回っている。 

 

 特に自動車やバッテリー、再エネ関連製品の分野では急速に存在感を増しており、「価格競争力×量産力」で世界市場を押さえ続けている。 

 

 第三に、雇用の受け皿としての役割だ。製造業は中国全体で約1億人の雇用を支えており、農村部から都市部への労働力移動を吸収してきた。たとえ、国内の賃金上昇やAIやロボットによる自動化が進んでも、製造業の雇用吸収力は依然として強い。これが大規模失業による社会不安を防いでいる。 

https://www.bls.gov/fls/china.htm 

 

 第四に、技術発展の寄与も大きい。半導体における先端分野では制裁で遅れをとっているものの、電池、EV、通信機器など特定分野ではリードしつつある。過剰投資による不良在庫が課題になる一方で、その投資が裾野産業を維持し、国内の需要循環を生み出している面がある。 

 

 このように製造業は、債務や不動産の停滞を補い、実体経済をぎりぎりのところで支えている。 

 

 ただし、この強さは低価格競争と過剰生産に依存した脆弱な強さでもある。輸出依存が高止まりする限り、米国や欧州による保護主義的な関税措置に脆弱であり、「底堅さ」が一転して「リスク」に転じる可能性がつきまとう。 

 

● 事実上の「預金封鎖」実施と デジタル人民元による管理 

 

 金融統制の強さも中国経済の特徴である。 

 

 戦後の日本では1946年、ハイパーインフレ抑制と財産課税導入のために預金封鎖が行われ、国民の金融資産が強制的に動員された。 

 

 中国では同様の劇薬を明示的に発動する必要はない。すでに制度上、緩やかな預金封鎖に近い仕組みが存在しているからだ。 

 

 資本取引は厳格に規制され、外貨両替や海外送金には制約がある。銀行はほぼ国有であり、国家が入出金制限を強化するのは制度上容易である。さらにデジタル人民元(e-CNY)が導入されつつあり、資金移動は中央銀行によってリアルタイムで監視可能になっている。 

 

 預金封鎖を宣言せずとも、資金の流れを「常時管理」できる体制が整っており、資金移動を禁じることで、事実上の預金封鎖に近い効力を発揮させている。 

 

 人民元は国際化が限定的であるため、こうした統制の影響は主に国内にとどまる。 

 

 

 
 

IMAGE