( 327666 ) 2025/09/27 07:02:56 1 00 厚生労働省が発表した統計によると、実質賃金は前年同月比で-0.2%に修正され、7か月連続の下落となった。 |
( 327668 ) 2025/09/27 07:02:56 0 00 NRI研究員の時事解説
厚生労働省が9月26日に発表した7月毎月勤労統計確報値で、実質賃金は速報値の前年同月比+0.5%から下方修正され、-0.2%となった。下落は7か月連続となる。石破政権が掲げる物価上昇率を上回る賃金上昇が達成されない中、賃上げは自民党総裁選でも経済政策上の大きな論点となっている。
現役閣僚である小泉氏、林氏の両氏は、石破首相が掲げる実質賃金の年1%程度の上昇という目標を支持している。実質賃金上昇率1%、物価上昇率を日本銀行の物価目標と同水準の2%を前提と説明する。その場合、名目賃金上昇率は3%となる。さらに、2030年度までに平均賃金を100万円増やすと説明している。しかし実際には、5年間で年率約4%の賃金上昇を実現しないと平均賃金を100万円増加させることはできないことから、説明には矛盾があるように見える。
図表 自民党総裁選各候補者の賃上げ施策の比較
各氏とも賃上げの重要性を訴えているが、それを実現するための施策について、その効果を十分には説明ができていない。小泉氏は、賃上げを促す施策として賃上げ税制の拡充を訴えるが、既存の賃上げ税制では中小・零細企業に多い赤字企業は活用できない、と高市氏は批判する。高市氏は、推奨メニュー付き地方交付税交付金を提唱しているが、その中に中小企業向け補助金を含め、中小企業の賃上げを側面から支援する考えだ。また高市氏は、人手を確保するために収益を減らして無理な賃上げを進める「防衛的賃上げ」の問題を指摘し、企業に賃上げを促すだけでは持続的な賃上げにつながらない、との考えを示唆している。
林氏は、企業に対して政府が高い賃上げを求める「官製春闘」ではなく、企業が儲かってそれが賃上げに回るという経路が重要としている。GX・DX政策が、成長率を高め、企業収益の改善につながるとする。また茂木氏も、何よりも成長が重要であるとして、政府投資の拡大を起点に消費が増加し、それが実質賃金の上昇につながる姿を想定している(図表)。
強制的に企業に賃上げを促すような施策を行うのではなく、企業が賃上げできる経済環境を作ることを重視する各氏の考え方は妥当だ。しかし、それぞれが掲げる政策を通じて1%程度の実質賃金上昇率が定着する姿は見えてこない。
消費者にとって重要なのは、名目賃金上昇率がどの程度物価上昇率を上回るのか、つまり実質賃金がどの程度上昇するのかである。1%程度の実質賃金の持続的な上昇を達成するためには、短期的には物価上昇率を下げる施策が必要だ。物価上昇率が大きく上振れる中、それを上回る大幅賃上げを実施することは、企業も労働者も慎重であるように思われる。それは、ひとたび経済環境が悪化すれば、高い賃上げが企業収益を圧迫すること、それが雇用の抑制につながることを、企業、労働者がそれぞれ警戒しているためだ。
実質賃金の上昇を早期に達成するには、行き過ぎた物価高を抑える政策が必要だ。それはコメ価格高騰への対策、そして食料・エネルギー価格の上昇をもたらす円安の修正を、必要に応じて為替介入や日本銀行の金融政策正常化などによって実現を目指すことが求められる。
ただし、行き過ぎた物価上昇率の押し上げは、実質賃金の上昇を達成する短期的な手段でしかない。持続的に1%など高めの実質賃金上昇率を達成するには、別の施策を講じる必要がある。実質賃金上昇率のトレンドは、分配環境に変化がなければ労働生産性上昇率で決まることから、労働生産性上昇率を向上させる構造改革、成長戦略が必要になる。例えば、労働市場改革、少子化対策、外国人労働力活用などが挙げられる。
しかし、総裁選各候補者が掲げる経済政策は、給付、減税など個人の所得を増加させる需要側の政策に偏っている。低所得者支援などは社会厚生の観点からは必要であるが、一時的に所得水準を高める政策では、持続的な実質賃金上昇率の引き上げは実現できない。
昨年の衆院選、今年の参院選で自民党は大きく議席を落とし、少数野党に陥ったことを受けて、各候補の経済政策は野党が主張し、国民が支持したと考えられている減税など所得増加の施策に集中してしまった感がある。
しかし本当に必要なのは、一時的に所得を増やすことではなく、実質賃金が持続的に高まり、国民の将来不安を軽減するような成長戦略ではないか。その議論を欠いていることが、総裁選の大きな問題点だ。
木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi)に掲載されたものです。
木内 登英
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