( 327881 )  2025/09/28 06:27:34  
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2025年度の最低賃金は全都道府県で初めて1,000円を超え、全国加重平均は1,121円に達した。

引き上げ額は過去最大の66円だが、多くの中小企業が賃上げに備えるため発効を遅らせる状況にあり、地域ごとの賃上げ格差が懸念されている。

 

 

最低賃金が最も低い秋田県は、上乗せして1,031円とし、発効を来年3月末に遅らせた。

他の27府県でも発効が11月以降にずれ込むなど、地域の事情に配慮した形となっている。

 

 

政府は「20年代に1,500円」の目標を掲げており、各地で大幅な引き上げを計画しているが、経営者の負担が高まる懸念もある。

秋田のように最低賃金の改定が遅れることは、労働者への賃上げが先延ばしされるリスクを伴う。

 

 

中小企業にとっては賃上げが経営圧迫要因であり、価格転嫁が困難なため、生産性向上を目指す取り組みが重要だとされている。

企業の支援を期待しつつ、収益基盤の強化が求められている。

(要約)

( 327883 )  2025/09/28 06:27:34  
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最低賃金(時給)の2025年度改定額は全都道府県で初めて千円を超え、全国加重平均で1121円となった。引き上げ額は過去最大の66円。ただ大幅な引き上げの〝代償〟として、中小企業に配慮し改定時期を遅らせるケースが続出し、賃上げを巡って地域格差が広がる懸念もある。 

 

■越年は6県 

 

24年度の最低賃金が951円と全国で最も低かった秋田。25年度は国側が示した引き上げ額の目安(64円)に16円上乗せし、1031円とする一方、発効日は来年3月末に遅らせた。 

 

発効日の遅れは秋田だけではない。24年度は84円引き上げた徳島を除き、全て10月に発効したが、25年度は27府県が11月以降にずれこんだ。うち6県が越年し、秋田以外では熊本と大分、福島、徳島が1月1日、群馬は3月1日だ。 

 

背景に政府主導による大幅な引き上げがある。政府が掲げる「20年代に1500円」の目標達成には、25~29年度改定で毎回7・3%のアップが必要。政権側が全国の知事らに協力を要請し、25年度の全国加重平均の上昇率は6・3%となり、国の中央最低賃金審議会が示した目安6・0%は上回った。 

 

■準備期間を確保 

 

中央審議会は8月の目安提示の際、各地で大幅な引き上げになることを見越し「発効日は地方審議会で十分に議論を」と要請した。最低賃金法は改定の公示から30日後に発効すると定めるが、発効日を別の日に指定して遅らせることもできる。 

 

発効の遅れは中小企業の負担軽減を考慮し、賃金体系変更などの準備期間を確保した結果といえるが、一方で低賃金労働者の賃上げが遅れかねないとの懸念を生む。 

 

発効日が最も早い栃木(10月1日)と最も遅い秋田との差は約半年。北海道大の安部由起子教授(労働経済学)の試算によると、今年10月からの1年間で考えた場合、ほぼ半年遅れで80円引き上げる秋田は1年間にならすと40円増にとどまり、目安を37・5%下回る。発効日を考慮した最低賃金額は991円で、全国で最も低くなる。 

 

試算上、引き上げ額が目安より1円以上低いのは、秋田を含め25府県に上り、発効先送りを考慮すると、最低賃金の全国加重平均の上昇率は5・8%という。 

 

 

安部教授は「全都道府県で千円を超えたといわれるが、1年にならして計算し直すと、国の目安に達していない」と指摘する。発効遅れについて「人件費を節約したいという経営者側の潜在的ニーズが表面化した。引き上げ額ばかりに注目するのではなく、労働者への負の影響も考える必要がある」と述べた。 

 

■秋田「チキンレース」選ばず 

 

24年度の地域別最低賃金が最も低かった秋田県にとって、今回の改定では「最下位脱出」が至上命令となった。秋田地方最低賃金審議会の臼木智昭会長(秋田大教授)は「県など周囲からのプレッシャーは切実だった」と振り返りつつ、現行制度の限界を指摘する。 

 

24年度で47位の秋田と下から2番目の岩手などとの最低賃金額の差は、わずか1円。臼木氏は今回、人材流出などを懸念する県の幹部から最下位は避けてほしいといった趣旨の要望を受けた。 

 

最低賃金の議論は「後出しじゃんけん」の側面を持つ。先行して決めた地方審議会の改定額を1円上回れば最下位を回避できる。とはいえ、早期決着を目指す臼木氏らは、結論を引き延ばす「チキンレース」(臼木氏)は選ばなかった。8月8日に鳥取の地方審議会が答申した1030円を指標とし、同25日に1031円に決め、最下位を脱出した。 

 

■目安が「発射台」に 

 

ただ、過去最大の80円引き上げは県内の中小企業の3割が対象となり、相応の準備期間を設けなければ廃業が続出しかねない。当時は政権側が予告した支援の詳細が不明で「はしごを外されては困る」との懸念もあった。 

 

臼木氏は「秋田では近年、国の目安が『発射台』となり、上乗せが前提になっている。根拠を積み上げてニュートラルに改定額を決めることは不可能に近い」と指摘。「地方審議会に行政の代表も参加してもらうか、各地の平均所得を目安にして改定額を決める方が健全だ」と述べた。 

 

■中小は価格転嫁に苦慮 

 

最低賃金の大幅引き上げは物価上昇に苦しむ労働者を支える一方、価格転嫁が難しい中小企業の経営を圧迫することが懸念される。経済産業省は来年度に中小企業の生産性向上を支援する新組織を発足させ、補助金に頼らずに賃上げできる環境づくりを目指す。 

 

 

工場のシステム制御などの設計を行う「日昌電気制御」(大阪府泉佐野市)の神藤昌平社長は「業界の相場があるので賃上げを受けた価格転嫁はやりづらい。価格を上げて顧客が離れ、収益が減ってしまっては意味がない」と話す。 

 

同社は仕事にゲーム要素を取り入れて効率を高める「ゲーミフィケーション」分野に新規参入するなど事業拡大を進めており、「国の支援を期待するだけでなく、収益の柱を増やしていかないといけない」と強調した。 

 

製造業ではトランプ米政権の関税政策がハードルとなる。ベトナムに製造工場を持つ金属加工会社「タカヨシジャパン」(大阪府八尾市)の高島小百合社長は「中小の製造業は取引先との力関係により、思うように価格を反映できない」と明かす。関税政策を受けた価格転嫁もままならず「原価と人件費の上昇分を自社で吸収せざるを得ない」という。 

 

■生産性向上を 

 

大阪商工会議所の鳥井信吾会頭(サントリーホールディングス副会長)は19日の記者会見で「中小企業が賃上げを実現するには価格転嫁が唯一の手段。しっかりと行われるよう(大企業への働きかけなどに)再度チャレンジする」と強調した。「中小企業の努力でイノベーション(技術革新)を起こし、生産性を上げることも重要だ。そうした企業をバックアップする」とも述べた。(清宮真一、桑島浩任、井上浩平) 

 

 

 
 

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