( 329546 ) 2025/10/05 05:43:09 1 00 最近、管理職を避けたがる会社員が増加しています。 |
( 329548 ) 2025/10/05 05:43:09 0 00 管理職ともなれば任される仕事も大きなものになってくるが…(写真:イメージマート)
昨今、「管理職になりたくない」と考える会社員が増えている。責任が重くなり、仕事量も増えることから、報酬と待遇が見合わないと感じる人もいるようだ。また、仕事を最優先するのではなく、プライベートを大切にしたいという考えから、管理職を避けたがる人もいるだろう。そうしたなか、管理職になった後で自ら降格を申し出る人も出てきているようだ。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏がレポートする。
1970~1980年代の漫画では、家に帰ってきた父親が「課長になった」と喜び、家族皆で祝うシーンも見られた。それだけ出世して管理職になることは、サラリーマンにとってひとつのゴールかつ、めでたいことだった。ところが、昨今は必ずしもそうではないようだ。私が話を聞いた、40代男性・A氏のケースをもとに考えてみよう。
A氏は建材関連メーカーの営業担当だが、新入社員の頃から営業成績は非常に良かった。資料作りも丁寧かつ迅速だったため、将来を嘱望されて30代後半で管理職になった。部下の中には40代後半の人もいた。しかし、A氏は管理職になって1ヶ月で「自分は管理職は向いていない」と考えるようになった。
というのも、自分はあくまでも現場のプレーヤーとしての仕事が得意で、他のメンバーを指揮し、命令し、鼓舞し、動かし、時にはホメたりダメ出しをすることは不得手だったのだ。
「上司から『見積もり作っておいて』『○○社へのプレゼン用資料作っておいて』『ちょっと××社の新担当者と会ってきてくれないかな』といった仕事を振られ、それをひとつずつこなしていたら、それなりに優秀な現場人だと思ってもらえたんですよ。それがまぁ、自分で言うのもなんですが、30代管理職(課長)に繋がった理由だと思います」
A氏が管理職に就いて最初の勤務先は、それまで慣れ親しんだ東京本社ではなく、関西支社。最初の段階で「東京からなんか新しい若造管理職が来たぞ」「お手並み拝見だな」といった目で見られていたようで、部下に仕事を振ろうとしたり、部署の会議を開催しようとすると、「今忙しいんです」と言われることもしばしばあったという。
確かに部下は必死にPCに向かっていたり電話はしているし、頻繁に営業先にも行っている。管理職の場合、社内の他部署とも密接にコミュニケーションをとったうえで、新商品の営業やパンフレットを作るような仕事をチームで進めることが求められる。管理職ともなれば、一人でできる仕事の範疇を超えた大きな仕事を任されるわけだが、A氏はとにかく人に仕事を振ることができなかった。
結局、他部署の現場の若手との折衝もA氏が行う。そのうえで、本来の人材管理業務もやらなくてはならないため、夜遅くまで会社にいることとなる。部下の人事考査の面談や、メンタルケアなども管理職の仕事であり、結果として膨大な量の仕事を抱えることになった。一方で、最初からどこか挑発的だった新部署の部下たちは、A氏が苦労していることを見て見ぬフリをしているようにも感じられた。
ここまで来ると精神的に参ってしまい、産業医に相談したA氏。事態を深刻なものと受け止めた産業医からは休職を検討するよう伝えられ、その後は上司と人事と話し合いをして、半年間の休職期間を与えられた。それまでのA氏のポジションには、「課長代理」だった人間が就いた。休職中も給料は8割もらえたため、生活は苦労しなかったが、復帰が近付くと根本的に自分が管理職に向いていないことを痛感せざるを得ず、復帰直前に再び産業医のところへ。すると、「あと2ヶ月は休職期間を伸ばした方がいいのでは」と提案されたという。
そうした経緯を経て、再び上司と人事と打ち合わせをした時、A氏はついに「管理職からヒラに戻してください。私は管理職として出世をしたいとは思いません」と伝え、休職明けからは役職なしの現場プレイヤーに戻ることとなった。
――この話を聞き、私が会社員時代に上司だった管理職は、部下に仕事を振るのが上手な人が多かったな、ということを思い出しました。上司は時に「えぇ? やってくれなくちゃオレ、困っちゃうな……」と弱音を吐くこともあった。そうなると部下は「色々、接待飲み会とか大変なんですよね(笑)。はいはい、やっておきますよー」となり、「ありがとな」とニヤリと笑う。
また、クライアント企業から信頼され、同社のメディア論調分析のレポートを毎月作っていた上司が管理職になった時は、キビキビと仕事を振り、「なんか問題あったら報告するように」とすっかり管理職モードに。しかし、クライアントからは「あの分析レポートは今後もあなたが作って、解説してくださいよ」とまで言われました。この人は、他の人では代替できない一部の現場仕事は残していたのです。
完全に部下に仕事を任せるタイプも一部の現場仕事は自分で請け負うタイプも、どちらのタイプの管理職も部署に売上をもたらすという意味では優秀な人材でしょう。ただ、A氏のように結果的にすべての仕事を自分でやってしまうようになると、管理職として破綻してしまうのでは。
とはいえ、現場のプレイヤーの貢献なくしてチームは成り立たない。だからこそ、会社にはプレイヤーを大切にしてほしいという思いがあります。ずっとプレイヤーでい続けたく、管理職をやりたくない人も社内で昇給できる報酬体系にすべきなのではないでしょうか。人には向き不向きがあるのです。
【プロフィール】 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。
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