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2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏や化学賞を受賞した田中耕一氏がいずれも公立高校出身であることから、ノーベル賞受賞者を輩出した高校がどのような環境で学んできたかが話題になっています。

全国の高校約2100校の進学実績をもとに、特に旧帝大などへの進学者数に焦点を当てたランキングが作成されましたが、出身高校について調べると、多くの受賞者が地方の公立高校から輩出されていることが明らかになりました。

東京の高校からはノーベル賞受賞者がほぼおらず、教育方針の違いや効率性を重視する競争が影響していると考えられています。

また、地方の学校は探究心や個性を育む教育を実施し、現在でも多くの優秀な生徒を送り出しています。

(要約)

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2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏(左)と化学賞を受賞した田中耕一氏はともに「公立高校」出身(AFP=時事) 

 

 中学受験や高校受験の際に志望校選びの基準となるのが「大学進学実績」だ。マネーポストWEBは「大学通信」の協力を得て、全国約2100校分の2025年の現役進学者数を集計。シリーズ第1回記事では「旧帝大+東京科学大+一橋大+早慶上理」への進学者数を取り上げ、延べ合格数と比較する形で高校別に全国ランキングを作成・公開した。 

 

 今回はその番外編として、「ノーベル賞受賞者」を輩出した高校の現在地を検証する。日本が誇る知性は、どのような高校で学び、その素地を育んだのか。フリーライターの清水典之氏がレポートする。 

 

 日本出身(外地を除く)のノーベル賞受賞者(個人)は文学賞や平和賞も合せて28人。東大と京大の出身者が多いことは知られているが、「出身高校」となると、地元以外にはあまり知られていないのではないか。調べてみると、実はほとんどの受賞者が、地方の公立(国立)高校出身であった。 

 

 東京の高校出身でノーベル賞を受賞したのは、日比谷高校卒の利根川進氏(生理学・医学賞、1987年)ただ1人。私立高校出身の受賞者もまれで、旧制同志社中学校(現・同志社中学校・高等学校)を経て旧制三高を卒業した江崎玲於奈氏(物理学賞、1973年)と、灘中・高卒の野依良治氏(化学賞、2001年)の2人だけである。 

 

 日本の人口の約10%が集中し、平均所得も高く、教育熱も高いとされる東京(の高校)から、なぜ利根川氏以外のノーベル賞受賞者が輩出されなかったのか。 

 

『「中学受験」をするか迷ったら最初に知ってほしいこと』(Gakken)著者で、Xアカウント「東京高校受験主義」で5万4000人のフォロワーをもつ塾講師の東田高志氏は、「あくまで個人的な意見」と前置きしつつこう答える。 

 

「利根川進氏は愛知県出身。小・中を富山県や愛媛県などの地方で過ごし、東京に引っ越して日比谷に進学しています。だから、本当の意味で東京出身のノーベル賞受賞者は1人もいないと言えるかもしれません。 

 

 東京の教育は、効率性を追いすぎるきらいがあると思います。子供が好きなことをして遊んでいるのを“時間の無駄”と切り捨て、詰め込もうとするようなイメージです。人口が多くて競争が激しいので、できるだけ効率的なカリキュラムで最短距離を走らせようとする。子供を放置しないんです。 

 

 たとえば、大谷翔平さんが東京で生まれていたら、今の活躍があったかどうか。彼の発言や行動を見ていると、とても頭がいい人であることがわかるので、“この子は勉強できそうだから”と小学4年で中学受験塾に入れて、野球は趣味的に続けるだけになったかもしれない。そうなると効率的に考えて、“医学部に入って医者になるのが現実的な成功者への道”という結論になりがちです。そういった価値観に染まりにくいのが、地方のいいところです。本人が好きなことを好きなだけやらせないと、圧倒的な才能は伸びてこないと思います」 

 

 東京の場合、手っ取り早くわかりやすい目標にルート設定して子供を走らせてしまうという“落とし穴”にはまりがちだという。地方に比べて情報と機会が溢れている東京だからこそ、逆にそうなるのかもしれない。 

 

 とはいえ、ノーベル賞を受賞した俊英たちは、軒並み東大・京大など難関大に合格できるだけの学力を備えていたのは事実である。では、こうした人材を輩出してきた地方の高校は、今どんな姿になっているのか。 

 

 

 大学通信が集計した2025年の現役合格・進学データ(高校別)からノーベル賞受賞者28人を輩出した学校(旧制中学・高校の後継校)の大学進学実績を抽出した。今のところ、国公立大出身者からしかノーベル賞受賞者は出ていないので、旧帝大+一橋大・東京科学大の合格実績を図表にした(大学進学実績のデータがない高校は、アンケートに未回答だったためで、統廃合で消滅したわけではなく、現在も存在している)。 

 

 日本のノーベル賞第1号(湯川秀樹氏。物理学賞、1949年)と第2号(朝永振一郎氏。物理学賞、1965年)を立て続けに出したのが、京都の洛北高校である。 

 

「京都一中(京都府立京都第一中学校:現在の洛北高校)は、東京の府立一中(東京府立第一中学校:現在の日比谷高校)と並び称された西の名門校で、京大に進学して研究者になる人が多かったとされています。湯川氏と朝永氏はまさにその典型。しかし、戦後の学制改革から革新府政へと続く間に、競争を否定するという考え方で京都の公立高校は長らく地盤沈下していました。それが2000年代に入って改められ、洛北は2004年に中高一貫校になり、2018年にはサイエンス科ができて理系教育に力を入れ、進学実績が伸びています」(東田氏、以下同) 

 

 洛北高校の公式サイトで確認したところ、2024年度に中高一貫コースから京大合格者が16人(現役12人)出ていた。 

 

「小柴昌俊氏(物理学賞、2002年)の出身校である横須賀高校は、小泉純一郎元首相の母校としても有名ですが、1964年の東京五輪の柔道で金メダルを獲得した猪熊功氏も輩出しています。ノーベル賞受賞者、総理大臣、金メダリストを輩出した、おそらく日本唯一の高校ではないでしょうか」 

 

 大村智氏(生理学・医学賞、2015年)の出身校、山梨の韮崎高校は、元サッカー日本代表の中田英寿氏をはじめとして、プロサッカー選手を多数輩出している。 

 

 ノーベル賞受賞者の出身校のうち、難関国公立大の進学者数がもっとも多かったのが、吉野彰氏(化学賞、2019年)の母校・北野高校(大阪府立)だ。元大阪市長の橋下徹氏や日本マクドナルド創業者の藤田田氏、漫画家の手塚治虫氏、元NHKアナウンサーの有働由美子氏、政財界からアカデミア、文化・芸能まで非常に多彩な人材を輩出している。 

 

 

「田中耕一氏(化学賞、2002年)の出身校、富山中部は北陸のトップ校で、日本に数校しかない探究科学科があります。富山大などとの高大連携で都市部の有名校にも負けない探究活動をしていて、科学教育に非常に力を入れています。私は富山県に開示請求して、各高校がもっている指定校推薦枠を調べたのですが、富山中部は早稲田大の指定校推薦を8枠持っていました。今春の一般入試を合わせた合格者数が26人ですから、異例の数です。早稲田大学は地方の名門公立高校の生徒を採りたいと考えているのでしょう」 

 

 早稲田大に限らず、国公立大でも、地方の高校生に推薦入学してもらおうとする動きがあると東田氏は言う。 

 

「東大の推薦入試の結果を見ると、確かに、渋谷教育学園渋谷とか開成とか、私立のトップ校からも合格者が出ていますが、一方で秋田や県立長野、四日市、広島など、一般入試の合格者ランキングの上位にはあまり出てこない地方の公立高校が名を連ねています。これは私の推測ですが、探究心に秀で、伸びしろを感じる地方の公立高校出身者を積極的に取りたいという意図を感じます」 

 

 ノーベル賞受賞者の出身高校から、これまで日本を代表する「知性」を涵養してきたのは、主に地方における初等・中等教育だったことが窺える。次代のノーベル賞受賞者を輩出するのはどの高校か。引き続き注視したい。 

 

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取材・文/清水典之(フリーライター) 

 

 

 
 

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