( 330491 )  2025/10/09 06:17:18  
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親の年金についての期待と実際の経済状況のギャップが、親子間の金銭トラブルを引き起こしている事例を紹介しています。

例えば、兵庫県の高橋真理子さん(72歳)は、自身の年金収入がわずかで、長女の佳奈さん(42歳)が教育費のために援助を求める場面が描かれています。

平均的な高齢者は年金だけで生計を立てるのが困難であることが示され、子世代も教育費の負担増に苦しんでいると説明されています。

このような状況を打破するためには、お互いの家計をオープンにし、援助の目的や期限を設定することが重要であり、また制度を活用することも提案されています。

最後に、親子のコミュニケーションが家庭の絆を保つために不可欠であると結論づけられています。

(要約)

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(※写真はイメージです/PIXTA) 

 

「親の年金は余裕があるはず」という子世代の期待と、「自分の生活で精一杯」という親世代の現実。この認識のギャップによって、多くの家庭で深刻な金銭トラブルの火種となっています。本記事では、高橋さん(仮名)の事例とともに、親子共倒れリスクについて波多FP事務所の代表ファイナンシャルプランナー・波多勇気氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。 

 

兵庫県に暮らす高橋真理子さん(仮名/72歳)は、夫を早くに亡くし、年金収入は月11万円ほど。持ち家で暮らしており、贅沢さえしなければ一人で暮らすにはなんとかなる金額です。 

 

ある日、長女の佳奈さん(仮名/42歳)が実家を訪ねてきました。2人の子どもを育てながら専業主婦をしており、夫の収入だけで家計をやりくりしています。 

 

「お母さん……もう限界なの」 

 

普段は明るく振る舞う佳奈さんが、その日は目に涙を浮かべて切り出しました。 

 

「毎月2万円でいいから助けてもらえない?」 

 

唐突な頼みに、真理子さんは一瞬言葉を失いました。自分の暮らしも余裕があるわけではなく、医療費や冠婚葬祭の支出があればすぐに赤字に転じるのが現実です。娘の夫の顔を思い浮かべながら、真理子さんは恐る恐る尋ねます。 

 

「佳奈……。もしかして、純一さん(仮名/佳奈さんの夫)が家にお金を入れてくれないとか、そういうこと?」 

 

「ううん、そうじゃないの。純一は一生懸命働いてくれてる。でも、あの人の稼ぎだけだと、どうしても毎月少し赤字になっちゃって……。子どもの教育費がどうしても足りないの」 

 

娘の言葉に、真理子さんは少しだけ安堵しつつも、厳しい現実を伝えなければなりませんでした。 

 

「そう。でもね佳奈、年金暮らしだし、自分の病院代を払ったら私もギリギリなのよ」 

 

しかし佳奈さんはうつむいたまま、「親だから、少しくらい援助してくれるのが当たり前だと思ってた」と呟きました。 

 

親子の会話は平行線をたどり、胸の奥にわだかまりを残しました。 

 

 

総務省の家計調査によると、65歳以上の単身高齢者の平均収入は約13万円。そのうち大部分を占めるのが公的年金です。一方で支出は月14万円前後。つまり、多くの高齢者は年金だけでは赤字になり、貯蓄を取り崩して生活しています。「親世代の年金=余裕資金」というのは、もはや幻想に近い現実です。 

 

一方、子ども世代に目を向けると、内閣府の調査では30〜40代の世帯の教育費負担が年々増加し、家計の大きな圧迫要因となっています。特に私立高校や大学進学を選択すると、年間100万円を超える支出は珍しくありません。 

 

「親に少し頼めばなんとかなる」——そう考える子世代の気持ちは理解できます。しかしその背景には、住宅ローン、教育費、物価上昇といった現実が重なっています。 

 

「子どものために自分は我慢すればいい」と考える親も少なくありません。けれども、結果的に親の老後資金が尽きれば、反対に子どもに依存せざるを得なくなる悪循環に陥ります。実際、金融広報中央委員会の調査では「老後の生活が苦しい」と答えた高齢者の約4割が「子どもや親族への援助が負担になった」と回答しています。 

  

 

ファイナンシャルプランナーとして、筆者はこうした相談を数多く受けてきました。親子の気持ちに嘘はなくても、経済的な現実を無視すれば共倒れになりかねません。では、どのような対策が取れるのでしょうか。 

 

まずは「親と子、それぞれの家計をオープンにすること」です。年金額、預金残高、住宅ローンや教育費などを表に出し、どこまで援助が可能かを数字で確認することが第一歩となります。 

 

次に「援助は期限と目的を区切る」ことが大切です。たとえば「子どもの高校入学時の一時金として30万円を援助する」といった形であれば、親も子も見通しを持って生活できます。「毎月2万円を無期限で」といった援助は、親の老後を直撃しかねません。 

 

さらに「制度を活用する」視点も欠かせません。教育費負担には奨学金や教育ローン、学費減免制度がありますし、親の医療費負担は高額療養費制度で軽減できます。制度を知らずに「親が出すしかない」と思い込むのは危険です。 

 

最後に、親子が本音で話し合える時間を意識的につくること。「親だから」「子どもだから」という言葉の裏にあるのは、互いの不安や期待です。数字と制度に基づいた現実的な話し合いが、家族の関係を守る最大の防波堤になります。親の年金生活と、子どもの教育費や生活費。どちらも大切ですが、どちらか一方に偏れば、結局は双方を追い込むことになります。 

 

真理子さんは娘との会話を思い返し、こうつぶやきました。 

 

「娘に頼られるのは嬉しいけれど、私が倒れたら誰が支えるのかしら……」 

 

家族の絆はお金だけで測れるものではありません。しかし、現実のお金の流れを直視することが、その絆を長く守るための第一歩なのです。 

 

波多 勇気 

 

波多FP事務所 代表 

 

ファイナンシャルプランナー 

 

波多 勇気 

 

 

 
 

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