( 330773 ) 2025/10/10 06:19:28 0 00 (c) Adobe Stock
コメ価格が再び高騰している。政府の備蓄米放出によって一時は3500円程度(5キロ)まで下がっていたが、足元は4200円を超える水準にまで戻っている。石破茂首相は増産すると表明したものの、あらゆる物価の上昇が直撃する国民生活には大打撃だ。経済アナリストの佐藤健太氏は「高市早苗政権が発足すれば、石破政権下の農業政策がどうなるのか分からない。1つ言えることは、今後は高価なブランド米と、それ以外の安価なコメという二極化が進むということだろう」と見る。一体どういうことなのか。高市新総理は日本人のコメ食べるを守ることはできるのか。佐藤氏が詳しく解説する――。
農林水産省が10月3日に発表したコメ5キロあたりの平均価格によれば、9月22~28日に販売された価格は前週より35円安い4211円だった。2週続けて下落してはいるが、4週連続で4000円を上回っている。小泉進次郎農水相は2025年産米の生産量が前年より56万トン増加するとした上で「引き続き注視していく」と警戒心を隠さない。それもそのはず、新米を含めた銘柄米は31円高い4408円となっており、決して油断できる状況にあるとは言えないからだ。
9月30日に農水省が発表した2025年産米(8月末時点)の農産物検査の結果を見てみよう。評価が高い1等米の比率(全国平均)は66.5%となっている。直近5年間の平均は70%程度となっており、猛暑や高温障害などの影響から高いとは言えない状況だ。これが何を意味するかと言えば、1等米が出回る量が減れば店頭価格に反映されることになる。もちろん、他の生産地からの収穫によって比率が上昇する余地はあるものの、価格が落ち着くと断言できるだけの条件はそろってはいない。
言うまでもなく、新米が出回り始めれば流通量の増加に伴い価格は下がっていくことになる。しかし、昨年秋以降から続いてきたコメ不足や価格高騰の影響により、業者間の集荷競争も激しさを増している。JAは農家に仮払いする「概算金」を引き上げており、農水省が説明する「生産量の増加→価格下落」につながるかは見通せない。
今年、農水省は初めて年間取扱数量が多いJAなどに対して概算金の調査を実施している。
だが、前年よりも高値となっているのが実情だ。JA全農にいがたは、コシヒカリ(玄米60キロ)の概算金が前年より1万3000円高い3万円を提示し、過去最高額となった。JA全農は「新米の量や品質に対する不安が強い中で集荷が始まった」として集荷競争による逼迫感が概算金引き上げの背景にあるとしている。銘柄米の平均価格は5キロあたり4300円程度だ。
あまりに高値圏で推移してきたため、お忘れの人もいるかもしれないが、「国民食」の価格は異常なレベルが続いてきた。いま一度、思い出していただくために、農水省が公表している全国のスーパーで販売された平均価格(5キロあたり)を振り返ると、わずか1年前の2024年9月は3000円程度だった。だが、この価格は政府の“無策”によって上昇し、同10月には3500円程度にまで上がり、今年3月には4000円を超えるまで跳ね上がった。
ようやく政府は3月から備蓄米を放出し、価格安定に向けて動き出したものの、5月には過去最高の4285円を記録。失言で辞任に追い込まれた江藤拓農水相に代わり、後任の小泉農水相が随意契約による備蓄米の販売を始め、再び3500円程度にまで落ちたのは7月のことだった。政府は備蓄米の販売期限を当初は8月末までにしていたものの、これを延長したことで価格安定に一定程度の効果はあったと言える。
ただ、先に触れた通り先行きは決して明るいものではない。農水省は2025年産の主食用米の需給見通しで生産量が需要量を上回ると繰り返してきた。しかし、コメ卸会社は在庫確保に激しい競争を繰り広げ、JAの概算金を超える金額で取引することをいとわない。いわば、「令和の米バブル」はいまだ続いている状況だ。
当然ながら、熾烈な集荷競争の結果は販売価格につながることになる。新米の流通が進む中、4000円程度に上昇したコメ価格は消費者の懐を直撃するだろう。それは政府による備蓄米放出の「限界」とも言うことができる。その結果、何が起きるかと言えば「二極化」だ。
今後は、より質の高い高価なブランド米と、それ以外の安価なコメの二極化が進むと思われる。消費者がどちらを選ぶことになるのかは見通せないが、困るのはコメの生産者だ。
これまで通り汗水流してコメを生産しても、消費者に敬遠されて「安価なコメ」の烙印を押されることになれば生活は成り立たなくなる恐れがある。逆に大規模生産が可能な人々は「より売れるコメ」に傾きがちで、価格安定につながるとは言えない。
それは、コメの価格を「平均」で見ることが難しい時代に突入することになる。高価なブランド米と安価なそれ以外のコメの「平均」を並べてみたところで、あくまで「平均価格」でしかない。消費者である国民への提供が望ましい形になっているかと言えば、それはNOだろう。だが、このまま進めば「二極化」は国民食を分断することになるのは必至と言える。
残念ながら、上昇しているのはコメだけではない。9月30日に帝国データバンクが発表した価格改定動向調査によれば、10月に値上げが予定されている飲食料品は3024品目に上る。1回あたりの値上げ率平均は17%で、半年ぶりの「値上げラッシュ」が重なっているのだ。単月の値上げ品目数としては5カ月連続で1000品目を超える。
酒類・飲料は2262品目で最も多く、加工食品は340品目、調味料は246品目、乳製品も119品目が値上げとなる。原材料費や光熱費、物流費、労務費の上昇が背景にあるのは間違いないが、コメの価格高騰は焼酎や日本酒など「酒類・飲料」、パックご飯や切り餅といった「加工食品」にも影響している。
帝国データバンクは、11月の食品値上げ予定品目数が9月末時点で100品目未満にとどまり、11カ月ぶりに前年同月を下回るとしているが、2025年通年の値上げは12月までの公表分で累計2万381品目となる。前年の実績(1万2520品目)を62.8%上回り、2023年(3万2396品目)以来2年ぶりに2万品目を超えるという。
厚生労働省が9月26日発表した7月の毎月勤労統計調査(従業員5人以上)によれば、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比で0.2%減となり、7カ月連続のマイナスとなった。物価高騰が続き、実質賃金のマイナスが重なっていけば節約志向が高まり、商品・サービスが売れにくくなるという「負の連鎖」が見られるようになる。
中でも、国民食であるコメ価格の高騰の影響は深刻だ。
10月4日投票の自民党総裁選では高市早苗氏が勝利し、同15日にも予定される首班指名選挙を経て新たな政権を発足させる。高市政権が誕生すれば、国民生活に大打撃を与え続けている物価上昇にどのような手が打たれるのか未知数だ。少数与党であることを言い訳にすることなく、スピード感のある効果的な策を強く求めたい。
コメ価格の高騰は国民の食生活を直撃し、実質賃金のマイナスと相まって消費者の節約志向を強めるという負の連鎖を引き起こしている。ブランド米と安価なコメの二極化は、生産者にも影響を及ぼし、これまで通りの生産体制を維持することが難しくなる可能性がある。新政権には、この物価高騰とコメをめぐる課題に対し、迅速かつ効果的な対策が求められる。単なる一時的な備蓄米放出に留まらない、持続可能な農業政策と国民生活への配慮が不可欠だ。
佐藤健太
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