( 330986 )  2025/10/11 06:01:53  
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黒字企業や好業績の会社が早期・希望退職を行うケースが増えている。

三菱電機が53歳以上の従業員を対象に希望退職を募集したが、これは業績が好調の中で行われたため、驚きを持って受け取られている。

照会によると、今年早期・希望退職を募集した企業は増加傾向にあり、業績が良い企業の約6割が該当している。

 

 

従業員の中には退職金に期待して残留を決めた人や、早期退職を前向きに考える人もいるが、自分がいつ対象になるか不安を抱える人も多い。

専門家は、企業が働く個人のキャリアを尊重し、自律的な行動を支援することが重要だと指摘している。

企業の変化に対して自分のキャリアを考えるきっかけとし、新たな職場を探す機会とするべきとのアドバイスがある。

 

 

(要約)

( 330988 )  2025/10/11 06:01:53  
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写真はイメージです(写真:Getty Images) 

 

 黒字でも過去最高益でも、早期・希望退職を募る企業が増えている。働く側の意識も変えなければいけない時代に入りつつあるようだ。 

 

*  *  * 

 

 時代の変化を感じさせる衝撃的なニュースだった。 

 

 三菱電機は先月、53歳以上の従業員を対象にした希望退職を募集すると発表。対象は2026年3月15日時点で53歳以上の勤続3年以上が過ぎた正社員と定年後再雇用者で、条件に当てはまるのは計1万人程度。募集人数は定めないというが、かなりの規模に膨らむことも予想される。 

 

 驚いたのは、同社が25年3月期に売上高や営業利益で過去最高を更新しているからだ。業績が好調でも「将来を見据えた組織・事業構造の再編」を図り組織の若返りを目指すという。 

 

 ただ同社に限らず、黒字企業や好業績企業でも早期・希望退職を募るケースは目立たなくなりつつある。東京商工リサーチによると、今年1月から8月末までに判明した上場企業の「早期・希望退職」募集の対象人数は1万人を突破。募集の大型化が目立ち、3年ぶりに1万人を超えた24年の年間募集人数1万9人をすでに上回った。募集が判明した上場企業は31社(前年同期41社)で前年同期を下回ったが、対象人数は1万108人(同7284人)と前年同期の約1.4倍に増加。業績が堅調な黒字企業が6割を占めたという。 

 

 こうした企業で働く人たちはどう受け止めているのか。AERAのアンケートで早期・希望退職の対象になった当事者らの意見を募ったところ、さまざまな声が寄せられた。 

 

「とうとうきたか」と受け止めたのは東京都の50代の会社員男性。 

 

 対象年齢の中でも若いほうだったため、早期退職で上乗せされる退職金に期待したが、提示された額面を見て落胆し、会社に残ることにした。それでも残留の選択が正しかったのか、モヤモヤが消えないという。過去最高益でも希望退職を募集する企業のスタンスについて、男性はこんな思いを吐露した。 

 

「社員の年齢構成の若返りは一時しのぎに過ぎず、有能な社員も去っていくため企業の体力は確実に低下すると思います」 

 

 

 一方、早期退職を肯定的に受け止める意見もあった。 

 

 現在、大学院生という50代女性は、50歳を過ぎてから「漠然とこのまま定年まで働いていていいのかな?」という疑問と、職場の雰囲気も「年々良くない」と感じていたタイミングで打診され、「今だ!」と考え、早期退職を決意したという。 

 

「60歳を過ぎてもシニア社員として働く選択肢もあり、そのほうが安定した生活の未来図を描けましたが、人生の半分以上が会社員生活で本当にいいの?と自問自答して決断しました。50代は自分のこれからの生き方を真剣に考えるのに適した時期でもあり、早期退職の選択肢があるのは悪くないと思っています」 

 

 38歳からのフレックス定年制度のある会社に勤務していた東京都のフリーランスの男性は、38歳になる前月、直属の上司との面談で「このまま残るか、早期退職するか」の選択を迫られた。男性は上司の言葉のニュアンスから、「退職(させたい)方向の話なんだな。まあ仕方ないか」と悟り、1週間後、退職すると回答した。男性はこう振り返る。 

 

「もともと定年まで働く会社だという意識がなかったのと、当時は若かったため転職もしやすく、悪くない制度だと思いました」 

 

 とはいえ、「この先、自分もいつ早期退職の声がかかるか分からない」と思いながら職場にとどまるのもつらい、と考える人も少なくないはずだ。 

 

 希望退職の対象になった経験はないという東京都内の会社員女性(57)は「どんなに良い条件でもショックだと思います。会社に不要と思われている証拠に感じますから」と思いを吐露した。 

 

 過去最高益でも黒字でも希望退職を募る企業の方針を、働き手はどう受け止めればいいのか。 

 

「自身のキャリアについて、一緒に考えてくれる企業かそうでないか、冷静に見て判断し、自律的にキャリアを考える機会にしていけるとよいのではないでしょうか」 

 

 早期・希望退職との向き合い方について、こうアドバイスするのはインディードリクルートパートナーズHR統括編集長の藤井薫さんだ。 

 

 

 早期・希望退職を募る企業が増えている背景について藤井さんは、「企業は社会環境の変化も相まって、今後は一層、事業環境と働く個人のライフキャリアの変化に向き合わなければなりません。このことを怠れば、今の顧客と未来の顧客から選ばれなくなり、同時に、今と未来の働き手からも選ばれなくなるからです」と指摘する。 

 

 そのうえで、こうした雇用慣行の変革・人事制度変革に積極的な企業の特徴として、「個々のキャリアや生活への尊重」「自律的行動や主体性の支援」「社内外にある成長機会の提供」を挙げる。 

 

「逆に言えば、いま勤務している企業にこうしたサポートなどが十分ではないと判断した場合、早期・希望退職の募集をきっかけに、社外にその要件や可能性を満たす企業を探すことをおすすめします」(藤井さん) 

 

 というのも、近年はミドルシニアの転職動向が右肩上がりで推移しているからだ。藤井さんは言う。 

 

「ご自身のこれまでの経験と、どういう条件や仕事の内容を目指すかにもよりますが、今は新たな環境で働き続ける機会が増えていると感じます」 

 

 早期・希望退職もポジティブに受け止めるべき時代になったということだろう。 

 

(AERA編集部・渡辺豪) 

 

渡辺豪 

 

 

 
 

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