( 331006 )  2025/10/11 06:27:48  
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厚生労働省の統計によると、8月の実質賃金が前年同月比で1.4%減少し、8か月連続のマイナスとなっている。

長期的には、1990年代以降の日本の経済停滞が背景にあり、特に自民・公明の連立政権の影響が指摘されている。

最近、自民党の高市早苗総裁誕生による株価上昇や減税への期待がある一方、赤字国債増発の懸念も高まり、財政悪化が懸念されている。

また、長期金利上昇や物価上昇による国民生活の厳しさも続いており、公明党との連立維持が経済政策に大きな影響を及ぼす可能性がある。

 

 

(要約)

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(c) AdobeStock 

 

 一体、この30年間は何だったのか―。厚生労働省が10月8日発表した8月の毎月勤労統計調査(従業員5人以上)によれば、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比で1.4%減となった。8カ月連続のマイナスと報じられているが、プラスだったのは2024年の数カ月だけであって3年以上もマイナスが続き、賃上げよりも物価上昇の波が高い証左だ。日本経済の「失われた30年」は、実は1999年から続いてきた自民党と公明党の連立政権の歩みとも重なる。経済アナリストの佐藤健太氏は「高市トレードの到来で株価は最高値を更新し続けた。各種世論調査でも暮らし向きが良くなると好感する人々は多い」と指摘する一方、「赤字国債増発も容認する考えを示していることから財政悪化への懸念が強まっている」とする。佐藤氏が詳しく解説していくーー。 

 

 自民党は高市早苗総裁が就任したことで「何かと足枷となってきた公明党はもう邪魔だ」(関係者)といった声が漏れるーー。 

 

「公明党の一番動かなかった、『ガン』だった山口(那津男代表・当時)、石井(準一幹事長・当時)、北側(一雄副代表・当時)等々の一番上の人たち、そのウラにいる創価学会・・・」。自民党の麻生太郎副総裁が2023年9月の講演で、敵基地攻撃能力を含む安全保障関連3文書の与党協議をめぐり、このように公明党や支持母体である創価学会を痛烈に批判したのを覚えている人は多いだろう。 

 

 連立政権を組みながら公明党と距離を置いてきた麻生氏は、石破茂政権下で「党最高顧問」に追いやられてきたが、10月4日の高市新総裁誕生に伴い「副総裁」へと復権を果たした。新しい自民党執行部は唯一の派閥として存続した麻生派が半数を占め、幹事長の鈴木俊一元財務相は義弟にあたる。早速、自民党と公明党の間には亀裂が生じ、連立政権継続が危ぶまれる事態にまで発展した。 

 

 自民党関係者からは「『失われた30年』の歴史は、自公連立政権の歴史でもある。なぜ日本を上向かせられなかったのかの検証は必要で、何かと足枷となってきた公明党・創価学会との関係も考え直して良いのではないか」との声が漏れる。その理由として真っ先にあげるのは、7月の参院選前に突如浮上した「現金給付」だ。 

 

 

 複数の関係者から話を聞くと、石破首相は物価高対策として全国民に一律2万円(子供や低所得の大人は2万円上乗せ)を配る公約を掲げることに反対だった。だが、連立相手である公明党サイドから猛プッシュがあったことで、やむなく採り入れることにしたという。 

 

 参院選の争点は与党が唱える「給付」か、野党が訴えた「減税」かに焦点があたり、国民の不評を買った「給付」案の与党は敗北。昨年の衆院に続いて、参院でも少数与党に追い込まれた。もちろん、選挙はワンイシューだけで結果を招くわけではないが、少なくとも自民党と公明党による長期政権(2009年からの3年間は民主党政権)が国民生活を上向かせられなかったのは事実だ。 

 

 8月の毎月勤労統計調査では名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は30万517円と1.5%増加したものの、8月の消費者物価指数は上昇率が3.1%だ。3%を超えるのは10カ月連続で、国民の生活は打撃を受け続けている。プラスになった時期はいつだったかと振り返れば、2024年8月に発表された6月の毎月勤労統計だ。実質賃金は前年同月比プラス1.1%で、これは27カ月ぶりのことだった。2024年の夏と年末の数カ月はプラスだったが、2025年でプラスになったことを確認できるのは7月の毎月勤労統計調査だけだ。2023年は年間を通じてマイナスが続いた。 

 

 たしかに足元では高水準の賃上げが実施されてきたものの、それより前まで遡れば日本の給与水準はほぼ横ばいが続いてきたと言える。内閣府の「1人あたり名目賃金の推移」を見れば、1991年を100とした場合の名目賃金(1人あたり)は、30年間横ばいを続けて2020年でも100.1にとどまっている。 

 

 1991年時点の日本の平均年収は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均をわずかに上回っていたが、2022年には平均を約130万円も下回り、38カ国中25位にまで低下。他国の給与水準が上がる一方で、日本の「停滞」は不思議なほどに続いてきた。その理由を問われると、「日本はデフレだった」「年功序列型システムが悪い」「労働生産性が低い」などと政府・与党は並べてきたのだが、もはや他の理由の方が大きな点が否めないのではないか。それは政府・与党、すなわち自民・公明両党による「経済政策の失敗」だ。 

 

 

 たとえば、1995年頃の日本の名目GDP(国内総生産)は約500兆円に達していたが、その後はほぼ横ばいの状態が続いてきた。内閣府の「国民経済計算年次推計」によると、2022年の名目GDPは約560兆円だ。つまり、この約30年間で経済規模に大きな変化は見られていない。日本は1990年代までは米国に次ぐ世界2位の経済大国だったが、2010年に中国が日本のGDPを超え、さらに2024年にはドイツにも抜かれた。他国が急速に経済成長を遂げる一方で、日本の成長がストップしてきたのは明らかだ。 

 

 一方で、国民負担率(租税負担と社会保障負担)は上昇を続け、2014年頃からは40%を超えてきたのだから、国民生活に余裕ができるのは難しい。少子化や超高齢社会の到来が重荷であるのは事実だが、経済成長による恩恵を得られない状況下で国民負担率が上がり、さらに近年のような物価上昇が加われば、暮らしが困窮するのは自明の理だろう。 

 

 では、自民党は高市総裁が誕生したことで経済政策に変化は生じるのか。10月4日の自民党総裁選後、すぐに現われたのは円安進行と株高だ。減税や積極財政への期待からマーケットが反応し、いわゆる「高市トレード」の到来で株価は最高値を更新し続けた。各種世論調査でも暮らし向きが良くなると好感する人々は多い。 

 

 だが、一方では高市氏が赤字国債増発も容認する考えを示していることから財政悪化への懸念が強まり、10月7日の国債市場では長期金利の指標である新発10年債(表面利率1.7%)の利回りが上昇し、一時1.695%をつけた。約17年ぶりの高水準だ。円安の進行は輸出企業の利益増加や国内生産の需要増につながるが、輸入品の価格上昇や企業コスト・生活費の負担増というデメリットがある。 

 

 加えて、長期金利が上昇していけば住宅ローンなどの返済額が増加し、総返済額に差が生じるほか、国の利払いが膨らむことで社会保障などの予算を圧迫することが懸念される。このため、2022年に英国で起きた「トラス・ショック」の再来を不安視する声も漏れる。英トラス政権は大型減税の発表によって金融市場に動揺が広がり、国債利回り上昇、ポンド下落、株価指数下落を招いて失敗した。 

 

 

 公明党との連立関係を維持するための協議が滞り、まだ首相にも就いていない高市氏が内閣発足後にどのような経済政策を具体的に打ち出すのかは不透明であり、「高市トレード」だけを見て判断するのは時期尚早だ。ただ、仮に財政規律を度外視した政策にこだわるようであれば「日本版トラス・ショック」が到来しても不思議ではない。 

 

 高市氏は、減税に重きを置く野党・国民民主党と連立を組むことも選択肢としているが、これまで続いてきた公明党との関係は一体どうするつもりなのか。「失われた30年」を取り戻すため、「公明・創価学会との関係に一区切りつけるべき」(自民党関係者)の声も飛び出す中、マーケットの動向もにらみながら難しい舵取りを迫られることになりそうだ。 

 

 高市新総裁の誕生は「高市トレード」と称される株高をもたらしたが、赤字国債増発容認の姿勢は財政悪化への懸念を強め、長期金利上昇を招いている。公明党との連立問題も抱え、経済政策の舵取りは難航が予想される。 

 

佐藤健太 

 

 

 
 

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