( 331276 ) 2025/10/12 06:25:47 1 00 高市早苗氏が自民党総裁選に勝利後、「馬車馬のように働いていただきます」という発言と「ワークライフバランスを捨てます」という決意表明が炎上しました。 |
( 331278 ) 2025/10/12 06:25:47 0 00 政治家としての決意表明がなぜ炎上したのか?(高市早苗氏。時事通信フォト)
高市早苗氏が自民党総裁選に勝利した直後、「(自民党の国会議員に)馬車馬のように働いていただきます」「私自身もワークライフバランスという言葉は捨てます」と発言。この言葉に「過労死を容認するのか?」「QOLの概念はどこへ行った?」などの批判や疑問の声も出るなど議論を呼んでいる。
そうしたなか、社会人になって23年間は“馬車馬のような働き方”をして、その後はセミリタイア生活を送っているネットニュース編集者の中川淳一郎氏は、「決意表明すら許されないのか?」と感じたという。中川氏が高市氏の発言の真意を考察するとともに、仕事にどう向き合うかという価値観について綴る。
* * * 「馬車馬」については、自民党の国会議員に言ったもので、国民に言ったわけではありません。しかし、人間を動物扱いすることが適当ではない、と考えた人もいて、批判の対象になりました。まぁ、人間を動物扱いする表現なんていくらでもあるんですけどね……。
「立つ鳥跡を濁さず」「猿も木から落ちる」「犬猿の仲」「犬の遠吠え」「猫かぶり」「どこの馬の骨」「蛙の子は蛙」「金魚の糞」……。
ハードワーク系の言葉ってけっこう負のインパクトがあるんですよね。「身を粉にして働く」「必死に働く」「粉骨砕身働く」「死ぬ気で働く」「寝る間も惜しんで働く」……。大相撲の横綱昇格時の口上もなかなかすごい。貴乃花は「不惜身命」、朝青龍は「一生懸命」、白鵬と日馬富士は「全身全霊」。
高市氏のくだりは、自民党の議員を念頭に「今、人数少ないですし、もう全員に働いていただきます。馬車馬のように働いていただきます」と述べたうえで、「私自身もワークライフバランスという言葉を捨てます。働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります」と続きました。
「とにかく国民のために働き、この国を良くしていきましょう!」という思いが込められているように感じられて、リアルタイムで聞いていても特に違和感は覚えなかったです。逆に、以下のように言い出したら「そ、そりゃないでしょうよ……」と呆然としたことでしょう。
「まず、議員は身体が資本ですから、人数が少ないとはいえ、適切な休息と睡眠は取ってください。AIを活用するなど効率的な仕事を心がけましょう。私自身もワークライフバランスを重視し、仕事・休息・娯楽・家族の時間などを楽しんでいこうと思います」
こんなことを言いだしたら「ちょっと、ちょっと! ちゃんと仕事してくださいよ! 総理大臣が日本の舵取りをするのに、そんな自分自身の人生をエンジョイすることを優先するのはおかしくありませんか?」と言われてしまいかねない。
高市氏の発言を批判する人は、「ニュージーランドのアーダーン首相は産休を6週間取った」「国のトップが過労死を誘発するような発言をするのは間違っている」「子育てが大変で仕事をしたいのにできない人もいる」などと言います。
とはいっても今の時代、バブル期の「24時間働けますか?」という空気感に突き動かされるようなことはもうありませんし、働き方なんて人それぞれ、という価値観は定着しているのではないでしょうか。
私自身は1997年に会社員になってから、フリーランス編集者時代を経て2020年11月に半隠居生活を開始するまでは、それこそ馬車馬のように働いていました。2006年からは年間364日労働する生活が続いていましたが、それで苦痛だったかといえばそうでなく、案外楽しかった。
ほぼ毎日酒を飲みに行き、旅行先でもネットは繋がるため、同行者が遊んでいる中、ホテルに残って仕事をし、目途がついたら合流したりしていました。それでも苦痛はなく、ワークライフバランスは達成されているな、と思ったものです。
過労死した人の遺族や精神的に病んで休職している人に対する配慮は必要ではあるものの、あの文脈では「自民党の議員は働いて下さい。私もそれ以上に働くつもりです」という宣言かつ決意表明でしょう。ただ一言「国民の皆さんは、ワークライフバランスを実現し、QOLの高い人生を送ってください」と言っておけば良かったかな、とは思いました。ここまで過剰反応されるとは思ってもいなかったのでしょう。
正直、今回、高市氏の発言に反発した人は、仕事があまり楽しくないのかな、とも思いました。新型コロナウイルスの感染が拡大していた時代、「なぜそこまでしてPCR検査を何度も受けて陽性になろうとするのか?」とXで聞かれた人が、「会社を堂々と1週間休めるから。なんならもう一度感染したい」と答えていました。
誰もが仕事を楽しんでいるわけではなく、決められた時間はオフィスに拘束され、給料を得ることだけが目的、という人もいるのです。私自身は「オンとオフ」「プライベートと仕事」みたいな考え方をしたことがないので、仕事をさぼりたい人の言い分というのはよく分からない。だから今回の高市発言にそこまでキレないでもいいのでは、とは思う。
まぁ、国会議員の先生方は議場で昼寝しているから、そこそこ休息も取れているんじゃないですかね。移動も座り心地の良いアルファードとかでしょうし、新幹線もグリーン車。あんまり我々が心配するようなことではないと思いますよ。
【プロフィール】 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。
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